最近思ったことがあるので記します。


免疫治療というと多岐にわたりますが、今回のお話は、よく自費診療クリニックで行われている、がんの患者さんを対象に樹状細胞やNK細胞、Tリンパ球などの免疫に関係する細胞を活性化させて投与する治療についてのお話です。


既存のがん治療に、免疫クリニック等で施行される免疫治療を併用する方も散見されるようになりました。


しかし見ていると、そういう患者さんの中に、予測以上の増悪を見せる事例がちらほらとあります。むしろ早く・・・というような事例があるのです。


一方で、腫瘍末期の患者さんへのステロイド投与は、あまり予後を悪くしている印象がありません。


一般には、免疫を上げる免疫治療は予後を良くし、免疫を抑制する可能性があるステロイドは予後を悪くしそうです。しかし逆のように見えます。


「免疫を上げる」というと悪いはずもなく、常に併用しただけの効果がありそうな魔法のような治療に「一見」みえます。本当なのでしょうか?



今井雅之さんの風貌にも濃厚に現れていた悪液質のことからその事象を考えると、しかし、そのことは肯けることなのかもしれません。


がんの高度進行期には、腫瘍や「自分の免疫細胞」が分泌する炎症性サイトカインという物質により、栄養の代謝障害が起こる悪液質が形成されることが多いです。


悪液質の原因は様々な要素がありますが、その一つが炎症性サイトカインであるとされています。


ゆえに、代謝障害があるため、食べてもそれが有効に活用されなくなってしまいます。食べるのに痩せる、という様相を見せます。また単なる飢餓とは病気が異なり、筋肉が中心に低減する特徴があり、私も繰り返し、安易に「がん死を餓死と呼ぶべきではない」(病態が違うため。食べないから予後を短くする病態ではないため)と当ブログ等でお伝えしてきました。


問題は炎症性サイトカインが、腫瘍だけではなく、腫瘍を倒そうとする自身の免疫細胞からも分泌されることです。


免疫治療は、先述したように、樹状細胞やNK細胞、Tリンパ球などの免疫に関係する細胞を活性化するものです。


樹状細胞は炎症性サイトカインのILー12(インターロイキンー12)を分泌します。


NK細胞は炎症性サイトカインのTNFーα(腫瘍壊死因子α)を分泌します。


T細胞も炎症性サイトカインのインターフェロン―γやTNFーαを分泌します。


悪液質や、あるいは悪液質の前段階にあるような患者さんに、活性化した、あるいは多量の、これらを投与することで、


むしろ悪液質を増悪するのではないかとも類推されるのですが、どうなのでしょうか?


悪液質に対しては、決定的な治療がないものの、進行がんの経過に影響するものとしてその対策が研究されている状況です。


そんな中に、悪液質を増悪させ得る、炎症性サイトカインを増加させる治療をすることが本当に良いのか、とも思うのです。


なぜ良いと喧伝されている免疫治療を併用しているのに、予測よりも早い経過で亡くなってしまわれる患者さんがいるのかということが不思議でしたが、炎症性サイトカイン血症の増悪から、悪液質性の消耗に拍車をかけたというのが可能性としてあるのではないかと考えると納得されます。


このように考えると、むしろわらにもすがる思いで手を出したくなる状況の高度がん進行期の患者さんにこそ、免疫治療は危険かもしれないと思うのですが、どうでしょうか?


もちろんすべての患者さんに当てはまる、ということは医学の性質上ないでしょう。


しかし一般には聞こえが良い「免疫を上げる」影で、炎症性サイトカインを増やし、炎症性サイトカインが由来の一つである病態の悪液質を増悪させる可能性も否定できないことは、あるのではないかと私は思います。


一見良さそうなものも実は害となりうる可能性もある。本当に難しいものです。両面をしっかり見るように気をつけるしかないですね。


それでは皆さん、また。
失礼します。