皆さん、こんにちは。今日の記事はやや医療者向けのものです。



昨日は緩和ケアセミナーへのご参加ありがとうございました。


80名近いたくさんのご参加を賜わりました。


今年度の私の出講が1回なので、気合を入れすぎて資料を作ったため、情報量が多く、見にくかったことをご容赦ください。


講義にお出になられた方は振り返りに、そうではない方は読み物に使って頂きたいですが


医療用麻薬を用いた鎮痛治療の鍵は、「痛みの情報を患者さんからよく聴くこと」に尽きます。


今は私も大学病院で勤務していますから、痛みを聴いて、画像で確認すれば、痛みの原因は、その他の苦痛症状と比較して、わかりやすく判定することができます。


なぜならば眠気や吐き気など、多様な原因が考えられる症状と比較して、痛みは比較的、この痛みはここから、と一対一で結びつきやすいからです。


在宅医療をしている際は、頻繁には画像を確認することは難しかったですが、のちのち病院で検査などを行われると、予想通りの場所に病変があるということがよくありました。聴取した情報(どんな性質を持つ痛みがどこにあるのか)で、どの臓器や器官に病変があるのかも予想しやすいのが「痛み」という症状です。


そして昨日の講義では、原因診断ばかりではなく、治療に関しても、「痛みの情報」が大きな意味を持つことをお伝えしました。


だから医療者は、特に「どんな痛みなのか」(性状)、「1日を通した時に、いつにどのような痛みがどの程度出るのか」(パターン、程度)などの情報を重視して収集する必要がありますし、


患者さんやご家族は遠慮せずに、生活に支障がある「このような痛みがどこどこにある」ということを臆せず伝えねばなりません。


医療用麻薬についての質問あるある集も解説いたしました。


眠気や吐き気は、医療用麻薬以外の原因でも起こり、特に最近の制吐薬などで対策をしている状況下では後者は少ないこと。


したがって、安易に「それは医療用麻薬のせいですね」と言わないこと。


というのは、実際には違う原因から来ているのに、医療用麻薬からと勘違いしてしまう説明をすることで、効いている薬剤を止めることになってしまう、あるいは医療用麻薬への誤解を深めてしまう、ということになりかねないからです。


また「やめられない止まらない」の精神依存にならないか。


実は私たち痛みがない人が、繰り返し医療用麻薬を使用すれば、精神依存を形成します。


炎症性の慢性的な痛みや、神経が障害されての痛みがある方は、精神依存を抑制する機構があることをお伝えしました。これらは動物モデルで証明されています。


精神依存の形成は、オピオイドの場合、μ受容体を介してGABA神経系を抑制することで、ドパミン放出にかけているブレーキが外れ、過剰のドパミンが脳内の側坐核に作用するため起こるとされています。


炎症性の痛みがある場合は、ダイノルフィン系が活性化しており、ドパミンの過剰分泌を抑制していること。


神経障害性疼痛がある場合は、オピオイドが作用するμ受容体に、内因性オピオイドのエンドルフィンが日常的に作用しているため、μ受容体の機能低下が起こり、同じく精神依存の形成を抑えることをお話ししました。


「がんに伴う疼痛があるならば、そしてまた適切な医療用麻薬の使用を行うならば」まずもって精神依存は起こらない、と患者さんに伝えることが重要です。


一方で、眠気があって、また増量でも効果が変わらないのに、オピオイドをどんどん増量すると、「耐性」が形成されてしまうことが指摘されています。


「効いていないのにやみくもに増やす」というのは、耐性形成の危険性があるため、推奨されません。


がんの痛みの患者さんには耐性形成が少ないとされており、実際に「使うと効かなくなってしまうのではないか」と心配される患者さんの大部分が単なる量不足ですが、一方でむやみやたらと増やしたり、傾眠なのに増量することは不利益が多い(だから多様な他の手段を併用することが重要である)とお伝えしました。


また、依存や耐性の形成が抑制されている、がんの患者さんへのオピオイド投与と比較して、医療現場ではしばしば抗不安薬や睡眠薬などの安易な処方で依存を形成させてしまっていることがしばしば認められることもお伝えしました。


特に、半減期が短い、短い時間での濃度の上下幅が多い薬剤は、頻用で依存を形成する危険があることに注意しなければいけません。


抗不安薬や睡眠薬も、短い時間の作用薬のほうが、依存の形成は一般に強いです。


また医療者の皆さんは何例か経験があるかもしれませんが、ソセゴン中毒の患者さんは、ソセゴンの注射をしてもらうことを求めて病院を渡り歩きますが、これもまた注射での濃度の上下幅が大きいので、依存を形成しやすく、実際にそうなってしまったのです。


なおこのソセゴンも、単に麻薬と法律で指定されていないだけで、オピオイド受容体に作用するれっきとしたオピオイドです。トラマドールもブプレノルフィンも、医療用麻薬指定ではありませんが、オピオイドであり、どれもモルヒネやオキシコドン、フェンタニルと同じオピオイドとしての配慮が必要です。


以上より、「がんの疼痛の患者さんに適切に使用すれば」オピオイドは依存を形成せず、耐性もできにくく、怖くない薬剤です。


しかし当然のごとく、痛みがなかったり些少なのにも関わらず、不適切な量を、不適切な投与方式(例えばワンショットの静注など)で投与すれば、様々な問題を惹起する危険が高まります。


<※ここは余談ですが、例えば違法薬物は、薬効を得るために(快を得るために)わざわざ血中濃度が急激に上がる使用法を選ぶわけですから、すぐに依存や耐性を形成することがよく理解できると思います。昔私が研修医の頃、激しい頭痛で運ばれた若い女性を診察したことがありますが、話をよく聴くと「頭の毛穴から脳が絞り出てくるように痛い」というので、違法薬物が原因と直感し、長袖で隠されていた肘部を見ると注射痕を発見したことを思い出します。本当に覚醒剤や違法薬物の急峻に濃度を上げる方法は人生を破滅に追いやります>


医療者は、他の薬剤と同様に、正しい情報をしっかり収集し、患者さんに過不足なく説明できるようになることが重要ですし、


患者さんやご家族も、医療用麻薬という言葉に過剰に反応することなく、必要な方に適切に使うことは大きなメリットがあるということを知って頂いたうえで、担当されている医療者と万事よく話し合って、有効に薬剤を使用して頂ければと存じます。


ダイジェストですが、昨日はこのような内容をお話ししました。


それでは皆さん、また。
失礼します。



追伸 医療者の皆さん、普段医療用麻薬について患者さんからこのようなことを聞かれてどう答えようか迷った等という話があればまた教えてくださいね。