皆さん、こんにちは。大津です。



緩和ケア、というと「終末期」という誤解がまだあります。



だからなのかもしれませんが、5年前大学病院に来て驚いたのは、「緩和ケアチームに来てもらいたくない」という患者さんやご家族がいらっしゃるということです。



まるで終末期と言われているかのように感じるのでしょう。



しかし一般の皆さんからは想像があまりつかないかもしれませんが、あくまでご本人やご家族の本当の希望に合致するのであれば、緩和ケア医が治療を勧める、ということもあります。



もちろん嫌がっている方に無理に勧めることはありませんが、腫瘍に対する治療が症状緩和をする場合があり、それは症状緩和の薬剤を使うよりも有効な場合がありますので、そう判断されるときはしっかりとその意見を伝えることもあるのです。



少し前もこういう事例がありました。



あるがんの脳転移の50代の女性の事例です。


原病は進み治療はもうできない状況でした。


一方で脳転移は右大脳にかなりの大きさで、患者さんは強い頭痛に悩まされておりました。


脳神経外科の指示でグリセオールが投与されていましたが、頭痛は間断なく続きました。


脳圧が上がっていることによる頭痛は、鎮痛薬もあまり効かず、患者さんには相当つらい時間でもありました。


その様子をみて、ご主人は、もう病気の治療はできないと聞いている、苦痛を取るのだったら眠らせてもらっても良い、とにかく苦痛なく過ごし逝けるようにしてほしいと希望されたそうです。またできるだけ家に早く帰してあげたいとも。


それで私のところに紹介が来ました。


ご主人の仰ることをそのまま受け取れば、「わかりました、眠らせましょう」となるでしょう。あるいは退院調整を推し進める支援を行うことになるでしょう。


しかし私はそれを選びませんでした。もっと長く生きられて、かつ苦痛が取れる手段があると思ったからです。そのためにもう少しだけ、「今(これからのある治療のために)入院継続してもらう」ことが、より大きなメリットをもたらすことになると考えたのです。


あくまで「もはや良くならない」とご主人は奥さまの頭痛をみて思っているから、眠らせてほしい、帰したい、なのであって、良くなる可能性があるのならばできるだけ長く生きてもらいたいのは当然なのではないかともこれまでの経緯をお調べして感じたからでもありました。


まずベタメタゾンを16mg/日で使用しました(点滴で開始。漸減し、経口化し、最終的には4mg/日で維持)。


効果はまさしく劇的でした!


頭痛は翌日からほぼ消失しました。


ご本人も喜ばれましたが、ご主人がやはり喜んでくださいました。


良かった、良かった、では在宅で過ごしましょう・・・とはしませんでした。


主科の先生にお願いして、ご本人とご主人にご相談いただいて、放射線科に依頼のうえ脳転移に放射線治療を行って頂きました。


ステロイドの投与で、転移性脳腫瘍の周囲の浮腫は大きく軽減していましたが、より積極的な延命策、腫瘍を縮小させることを選択したほうが総合的なメリットが高いと判断したのです。


放射線科は大きな1つの腫瘍に対して、ピンポイントで放射線をあてる定位放射線治療を施行してくれました。


結果として、もちろん頭痛は改善したばかりではなく、腫瘍が縮小して右脳の障害範囲が少なくなったため、素晴らしい笑顔が戻りました。


その後無事退院し、在宅生活を送られています。


もしそのまま、ご主人の言葉から、眠らせ帰すことを選択したら、ご主人はもう奥さまとコミュニケーションが図れず、余命も厳しかったと考えます。


それが普通にご主人と、楽しくお話しをしながら生活できるようになったのです。


全てはやりよう、それを改めて感じる一事例でありました。


緩和ケアは、苦痛緩和のためにやれることを探す仕事であり、「もうやめましょう」「眠らせましょう」と画一的に提案する仕事ではありません。


緩和ケアチームが来た、ということは、主治医の先生ご自体が「やれることを探している」ので緩和ケアチームを派遣されたということです。


まだまだ、緩和ケアや緩和ケアチームが誤解されていると感じることはあります。


このようにQOLの向上だけでなく、提案ひとつで延命につながった事例を経験するにつけ、判断が重要な意味をもつ仕事であることを改めて感じ、兜の緒を締め直す日々です。



それでは皆さん、また。
失礼します。