皆さん、こんにちは。大津です。



今日は医療者向けの内容です。



元々は強い痛みがあった患者さん。



フェントステープ10mg(内服モルヒネ換算300mg/日)で緩和できていたとのこと。



緩和ケアチームへの相談内容は「幻覚」



患者さんの所に行ってお話をうかがうと、痛みはないとのこと。



「幻覚」の話もされていましたが、意識がボーっとしているのと、見当識障害があり、会話の疎通性が不良なのが気になります。



皆さんが緩和ケアチームだったらどうしますか?



オピオイドの必要量は状態に応じて変わります。


全身状態の変化とともに、今までで妥当な量でも相対的過量になることも。


またある場合には、疼痛の訴えが減ることもあります。


ある場合……本例もそうなのですが、何でしょうか?



意識障害、認知の障害、日内変動、身体因を認め、診断は「せん妄」でした。


担当の先生もせん妄であることを察知し、せん妄の改善目的でも依頼くださったのでした。


せん妄時は、一般にせん妄を悪化させ得る医療用麻薬の量を減らしたほうが良い場合があります。


そこで選択したのは、オピオイドスイッチング。


フェントス→オキファスト、としたのと、「幻覚」まであること、「疼痛はないこと」、「意識障害があること」、「日中傾眠であること」等から、オピオイド総量は大幅に減らしたほうが良いと判断(また不完全交差耐性であることも考慮し)、オキファスト48mg/日(=内服モルヒネ換算96mg)の持続皮下注に減量しました。


1/3程度にまでオピオイドの総投与量を絞ったのです。


注射化したのは微調整のしやすさから、フェンタニル注ではなくオキファスト注にしたのはそのほうが(不完全交差耐性※のため)大幅にオピオイド量を減らせるのではないかという予測からでした。せん妄や幻覚があるので、できるだけ(もちろん疼痛を悪化させない限りで)オピオイドの量を減らしたかったのです。


※ 不完全な交差耐性
(緩和医療学会HPより; http://www.jspm.ne.jp/guidelines/pain/2010/chapter02/02_04_01_04.php

オピオイド間では、交差耐性が不完全である。
交差耐性というのはある生物が、1種類の薬物に対して耐性を獲得すると同時に、同じような構造をもつ別の種類の薬剤に対する耐性も獲得してしまうことをいう。異なるオピオイド間ではこの交差耐性が不完全であるため、使用していた1種類のオピオイドに対してある患者が耐性を獲得し、鎮痛効果が低下した場合でも、オピオイドの種類を変更することによって、鎮痛効果の回復を期待できると考えられる。
そのため、オピオイドローテーション(ブログ主注:現オピオイドスイッチング)では新たなオピオイドが、計算上等力価となる換算量よりも少量で有効なことがある。一方、過量投与となったり、すでに耐性ができていた眠気などの副作用が再出現することもある。




結果は……


痛みの増悪はなし。そして意識障害が改善。「幻覚」も軽減したようです。


1週間位オキファスト注を継続し、必要なオピオイド量が同量で良いとわかりましたので、今度はフェントス3mg(=内服モルヒネ換算90mg)に切り替えて、疼痛緩和は変わらず良好。


最初のオピオイドの1/3量(内服モルヒネ換算300mg→90mg/日)にまで減らすことができました。それで疼痛の増悪はなし。


フェントス3mgに切り替え後、回診に参りますと……


「ところで先生、何の人ですか?」


医療用麻薬の貼り薬→注射化→貼り薬を主治医の先生と行った者です、と述べると。


「あー!」


笑顔で迎えてくださいました。


1週間前とは見違えるようなはっきりしたお声と、笑顔で、「10日位前と比べて見違えたよ。ありがとう。調子が良くなった。少し前はどうにも眠くて、何かよくわからなくてね」と仰いました。


そう、私が赴いたことを覚えていなかったのです。まさにせん妄でした。


そのようなわけでせん妄も改善され、一件落着でした。




最近はフェンタニル貼付剤→オキファスト注→フェンタニル貼付剤のスイッチングが多いです。


貼付剤で今ひとつマネジメントが不良な例には、試みると良いと思います。ポイントは当換算量の50%程度のオキファスト注に変更する、という最新のオピオイドスイッチングの考えに即して行うことだと思います。当換算量でなくても、鎮痛マネジメントが見違えることはよくあります。


あとは「疼痛マネジメントが成ったら、もちろん再度貼付剤や経口薬に戻す」ことを約束する、ということも大切だと思います。やはり余計なポンプは付けて帰りたくない、という方も多いので、タイトレーション(説明例「現在もっとも適している量に調整しますね」)や、(別薬への変更による)耐性の解除(説明例「薬を変更することでより少ない量で効くかもしれません」)を目的としていることを伝えるとアドヒアランスが向上し、患者さんも一時の皮下注化に納得、ご協力してくださいます。



それでは皆さん、また。
失礼します。