【一般の方>医療者向け】
ある一例。
50代の婦人科がんの患者さん。
症状は左足付け根の痛み(動かした時に痛い)と左足のむくみ(足全体)。
時折左大腿(太もも)の前面にもしびれが走る。
既に撮影されている骨盤腔(お腹の下のほう)のCTをチェック。
左の大腿静脈(太ももの付け根を通過する静脈)の近くに大きなリンパ節転移を認める。他にも少し小さいリンパ節転移がぱらぱらと血管に沿うように複数個あります。
疼痛の性状から体性痛(簡単に言えば、骨や皮下組織などの痛みであり「内臓と神経」”以外”の痛み)と神経障害性疼痛(神経の痛み)の合併が考えられる。
がんが転移した大きなリンパ節が足からのリンパ液の流れを妨げているがゆえに、足がむくむというリンパ浮腫があり。
症状緩和は予想通り難渋。
内臓の痛みと比べて、体性痛の「動いた時の痛み」を緩和するのはけして容易ではない。
医療用麻薬以外の痛み止めや医療用麻薬を使用しても、体動時の痛みは緩和することができず、むしろ眠気やせん妄(意識が変容し混乱したりする病態)も出現。
左の大腿静脈近くのリンパ節転移が悪さをしているのですが、それが痛みとリンパ浮腫の原因となって対症療法たる医療用麻薬などの緩和策では和らげることが容易ではなかったのです。
医療用麻薬を変更したり、鎮痛補助薬(痛み止め以外の薬剤なのですが痛み止めの効果を有する諸薬剤)を使用しても、ご本人が満足する緩和ができない。
足の付け根の腫瘍が大きくあるために、リンパ液の流れはかなり遮断されてしまい、足は日に日に大きくなって歩けなくなってしまった。
痛み、むくみ、歩行困難の三重苦。
なにせこれは腫瘍が小さくならなければ解決困難な課題である。
そこで腫瘍医が抗がん剤を開始。
1回使用時には変化なし。2回使用時にも大きな変わりがない。
しかしその後急速に「むくみ」が軽減し、「痛み」も劇的に軽減(鎮痛薬は継続が必要でしたが減量を達成)、一度は左足がぱんぱんに膨らんでしまって重くなり、ほとんど歩くことができなくなってしまったのが歩行可能となりました。
抗がん剤、という言葉は一般の方に、ひょっとすると医療者にも、様々な思いを呼び起こすものだと思います。
とりわけ普段この言葉に馴染みがない一般の方には「猛烈に強い薬」で「劇薬」、病気を治せるかもしれないが身体はボロボロにする・・等というイメージを抱いている方もいらっしゃるのではないでしょうか?
しかしそれは事実ではありません。
抗がん剤の使用法は確実に進歩し、また副作用対策も進んで来ています。
その不利益な部分をできるだけ抑えて、良いところを活かすのが現代の抗がん剤の使用です。
この方も、緩和医療医の技術を駆使した緩和策でも、症状を軽減するのがやっとであり、症状を消すことはできませんでした。
しかし抗がん剤が転移したリンパ節に作用してその部位のがんを殺減し、リンパ節が軒並み縮小したため、まず足からのリンパ液が流れるようになってむくみが改善、膨らんだリンパ節が神経を圧迫して、また周囲の皮下組織を侵していたことによる痛みも軽減し、劇的に症状が軽くなったのです。
「がんが小さくなった」のだから、痛みも減るわけです。
この例は抗がん剤治療も上手に使えば、最大の緩和策となる、それを示す好例であったと思います。
患者さんは痛みがほとんどなくなり、むくみも減り、歩くようになり、QOL(生活の質、生命の質)が改善したのです。その最大の功労者が抗がん剤でした。
とにかく身体をボロボロにする薬剤、もはや毒、等々の誤解は解かれなければならないと考えます。
ある一例。
50代の婦人科がんの患者さん。
症状は左足付け根の痛み(動かした時に痛い)と左足のむくみ(足全体)。
時折左大腿(太もも)の前面にもしびれが走る。
既に撮影されている骨盤腔(お腹の下のほう)のCTをチェック。
左の大腿静脈(太ももの付け根を通過する静脈)の近くに大きなリンパ節転移を認める。他にも少し小さいリンパ節転移がぱらぱらと血管に沿うように複数個あります。
疼痛の性状から体性痛(簡単に言えば、骨や皮下組織などの痛みであり「内臓と神経」”以外”の痛み)と神経障害性疼痛(神経の痛み)の合併が考えられる。
がんが転移した大きなリンパ節が足からのリンパ液の流れを妨げているがゆえに、足がむくむというリンパ浮腫があり。
症状緩和は予想通り難渋。
内臓の痛みと比べて、体性痛の「動いた時の痛み」を緩和するのはけして容易ではない。
医療用麻薬以外の痛み止めや医療用麻薬を使用しても、体動時の痛みは緩和することができず、むしろ眠気やせん妄(意識が変容し混乱したりする病態)も出現。
左の大腿静脈近くのリンパ節転移が悪さをしているのですが、それが痛みとリンパ浮腫の原因となって対症療法たる医療用麻薬などの緩和策では和らげることが容易ではなかったのです。
医療用麻薬を変更したり、鎮痛補助薬(痛み止め以外の薬剤なのですが痛み止めの効果を有する諸薬剤)を使用しても、ご本人が満足する緩和ができない。
足の付け根の腫瘍が大きくあるために、リンパ液の流れはかなり遮断されてしまい、足は日に日に大きくなって歩けなくなってしまった。
痛み、むくみ、歩行困難の三重苦。
なにせこれは腫瘍が小さくならなければ解決困難な課題である。
そこで腫瘍医が抗がん剤を開始。
1回使用時には変化なし。2回使用時にも大きな変わりがない。
しかしその後急速に「むくみ」が軽減し、「痛み」も劇的に軽減(鎮痛薬は継続が必要でしたが減量を達成)、一度は左足がぱんぱんに膨らんでしまって重くなり、ほとんど歩くことができなくなってしまったのが歩行可能となりました。
抗がん剤、という言葉は一般の方に、ひょっとすると医療者にも、様々な思いを呼び起こすものだと思います。
とりわけ普段この言葉に馴染みがない一般の方には「猛烈に強い薬」で「劇薬」、病気を治せるかもしれないが身体はボロボロにする・・等というイメージを抱いている方もいらっしゃるのではないでしょうか?
しかしそれは事実ではありません。
抗がん剤の使用法は確実に進歩し、また副作用対策も進んで来ています。
その不利益な部分をできるだけ抑えて、良いところを活かすのが現代の抗がん剤の使用です。
この方も、緩和医療医の技術を駆使した緩和策でも、症状を軽減するのがやっとであり、症状を消すことはできませんでした。
しかし抗がん剤が転移したリンパ節に作用してその部位のがんを殺減し、リンパ節が軒並み縮小したため、まず足からのリンパ液が流れるようになってむくみが改善、膨らんだリンパ節が神経を圧迫して、また周囲の皮下組織を侵していたことによる痛みも軽減し、劇的に症状が軽くなったのです。
「がんが小さくなった」のだから、痛みも減るわけです。
この例は抗がん剤治療も上手に使えば、最大の緩和策となる、それを示す好例であったと思います。
患者さんは痛みがほとんどなくなり、むくみも減り、歩くようになり、QOL(生活の質、生命の質)が改善したのです。その最大の功労者が抗がん剤でした。
とにかく身体をボロボロにする薬剤、もはや毒、等々の誤解は解かれなければならないと考えます。