【共通】


たまたまあるFacebookの記事を拝見しました。

千明さんという方の記事です。
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エントリーはこちら

面識がない方ですので、もし引用に問題があれば申し訳ありません。

(以下引用します)


「3週間でギブアップ」

最近 「医者に殺されない47の心得」近藤 誠著を読んで、検査、検診は止めようと決めました。ところが、11月29日のセーリング中に体調を崩し、微熱・筋肉痛・悪寒等が続き、仕事をするのがつらく、診療所に駆け込んでしまいました。
胸部・腹部のX線検査・尿検査から痛みは「尿管結石」の疑い有の判定でした。対処薬が処方され、
私の決心はわずか3週間で終わったのです。お恥ずかしい。


(以上引用)


このような影響が出ています。

ブログで100万部の影響は無視できないのではないかと書きました。
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こちらのエントリー

やはり危惧される事象が起きているのです。


いや、誰も病院に行くなとまでは言っていない、必要ならかかりなさいとは言っている。

そのように著者や出版社の方は仰るのでしょう。

けれどもあの本を読んで、「病院に行くのを止めよう」となるのはむしろ普通だと思います。医者にとんでもないことをされてしまうのではないか、と。


結果、この記事を書かれた千明さんのように、病院にかかるのが適切であっても、「決心」が「終わっ」て「恥ずかしい」とまでなってしまう。恥じる必要はないのに、病院にかかることがまるで悪いことや情けないことのように感じてしまうのです。

必要な方が、変に我慢して受診を抑制し、結果病院にかかった自分を「悔いる」というのはよろしくないことだと思います。


確かに、必要はないのに病院にかかることは良いことではありません。

明らかな風邪に対して、休養と栄養を中心に自己回復を図るのもとても良いことです。

けれども明らかに不調なのに、「検査、検診は止めよう」という決意から病院に行くのを遅らせ、あげく大変な状況となってしまっては元も子もありません。


「誰も病院にかかるなとまでは言っていない」

「患者も賢くならねばならない」

本を出す側はそのように言うと思います。完全な間違いではありません。

けれども私は、普段医療に関わることが全くないような一般の方に、あの文章でそこまで読み取れと求めるのは厳しいとも思います。

悪い影響がこれ以上広がらないことを願っています。


ヨミドクターの拙コラムの今週の記事です。
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近藤誠さんの「がん放置療法」でいいのか?


ヨミドクターで私を知って下さった方もいらっしゃると思いますので、念の為に書いておきますが、最近のエントリーで「治療も必要」という話や、ヨミドクターでのコラムも早期発見・治療の大切さの話をしておりますが、一方で病気が非常に進んで身体が弱っている場合はむしろ身体に負担をかける治療を適切に終了するということも重要なことです。

緩和ケアをがん治療と併用した群のほうががん治療のみの群より生存期間中央値が有意に長かったという研究(JS Temel, 2010)でも、その理由の一つとして適切な時期に抗がん剤の治療を中止したことも考えられています。緩和ケアを通して適切な選択が可能になったとも言えるかもしれません。

早期発見のための検診も、「意味がない」は言い過ぎですが、「全てのがん検診が科学的根拠に満たされて有効と結論できる」も言い過ぎです。

また全ての事象は、「時と場合」によって同じ選択でも結果が分かれます。だからこそやったほうが良いのか、やらないほうが良いのかは、対象者やその時々の状況でも異なります。

その決断に秀でているのこそ、本当の専門家と言えると思います。

実際に、本当の抗がん剤の専門家の先生(例えば腫瘍内科の先生)で、患者さんが弱ってもとことん抗がん剤治療をやります、という先生は聞いたことがありません。

同じように、本当の緩和ケアの専門家の先生で、とことんモルヒネを増量すればどんな痛みも取れるんです、という先生も聞いたことがありません。

抗がん剤の専門家の先生は抗がん剤の良さと欠点を他より知っているからこそ、”「時と場合」によって”、抗がん剤治療をやったほうが良いのか、やらないほうが良いのかをより確度を持って判断できるのです。

同じように、緩和医療の専門家の先生は、例えば医療用麻薬の良さと欠点を他より知っているからこそ、”「時と場合」によって”、医療用麻薬を増やしたほうが良いのか、あるいは他の薬剤を使用したほうが良いのか、むしろ減らしてみるべきなのかをより確度を持って判断できるのです。

専門家だからこそ、引き際もよくわかっていると言えましょう。

だから専門家が薬剤をむやみやたらと使いたがるというのは大きな誤解だと思います。むしろその逆だと思います。一方で効果が期待できる際は思い切って使用するのも専門家であると思います。

薬剤といえば、私も一般に薬剤の種類や量はできるだけ絞っています(それでも苦痛緩和ために全薬剤を3種類以内にするというのは厳しいです)。絞りに絞っているのですが、ここ数年それでも薬剤の処方を提案して厭われることが増えたのは、一部に誤解もあるのだと思います。医者はすぐに薬を使いたがるからなあ、という誤解がです。実際にはそんなことはなく、本当に必要な時に提案しているのではありますが。

真の専門家はむやみやたらと薬を出したがることはないというのが結論です。断定的な情報には惑わされず、専門家を上手に利用してほしいと願います。

それでは皆さん、また。
失礼します。