皆さん、こんにちは。大津です。



カーペンターズの歌を
彷彿とさせる週の始まりです。

Rainy Days and Mondays always get me down.


さて、

皆さんの家には『家庭の医学』ありますか?


実家にはあったんです。

僕が生まれる前に両親が買ったようなのです。
息子が生まれるので必要と思ったのでしょう。

昭和50年版。


何しろ僕は体が弱かったので
幼稚園生の頃や小学生の頃は高熱を出して
寝こむことがたびたびありました。


高熱を出したことがある方はお分かりだと
思いますが、・・結構つらい。
なかなか眠れないんですよね。

そうすると「いったいこの病気は何なのだろう?」
という気持ちも相まって、そもそも苦しくて
眠れないですし、よせば良いのに『家庭の医学』を
開いてみることが多かったのです。


昭和50年の『家庭の医学』

そこでがんは「死の病」でした。

読んでいて衝撃的でした。
幼い心を震え上がらせるのに十分でした。

がんばかりではなくて、治らない病気だらけでした。

とりわけ、そこに書いてあった数々のがんの予後(見通し)が
あまりに悪く、治る確率もとても低いというような
ことが書いてあり、がんって恐ろしいなあ・・と子供心ながらに
思った記憶があります。

例えば今は少なからず治癒に持ち込める
白血病に関しても、かなり厳しいことが
書いてあったように思います。
読んで、白血病は死の病だ・・とそう感じました。

このように死に至る病が数多く書いてあった、
とりわけがんに関してはそうであった、
それが昭和50年版の『家庭の医学』でした。


数年前、実家に帰ると、
『家庭の医学』が新しくなっていました。
平成20年代版です。

ボロボロとなった、無機質な表紙の昭和50年版は
お役御免になり、
きれいなビニールカバーに覆われたカラフルな表紙
の家庭の医学に取って代わられていました。
何かのポイントが貯まってタダで手に入れたという
ようなことを親は言っていました。


読んで拍子抜けしました。

「治る」ようになっていたんです。

かつて昭和50年版で死の病であった病気たち、
とりわけがんが。

それなので、まるで別の本のように感じました。

死をまざまざと意識させた『家庭の医学』に
比べて、その本は何もインパクトがない
普通の本でした。
僕がすぐに本を閉じたのは、自らが医師となって
既にその本から得る情報がなくなっていたから
ばかりではないでしょう。


週末も抗がん剤治療について勉強しに行って参りました。

緩和医療専門医も、治療法や治療する先生方の
知識やお気持ちをある程度以上(あるいは、とても)
理解することが必要です。

抗がん剤治療を行う先生方の気持ちを理解したゆえで
選択肢を示さなければ、
「反対ばかり言っている人」になってしまいます。
行うであろうあるいは行っている治療の知識が少なく
自らの専門性にのみ立脚して
何でもかんでも反対するのと、治療内容や副作用を
十分踏まえたうえで治療医側の気持ちも理解しつつ
より良い方法があると考えて提案するのとでは大きな
違いがあります。
(ちなみに緩和ケアと抗がん剤治療は当然併存し得ます。
抗がん剤は行ったほうが良い時期とそうでない時期が
あります。行ったほうが良い時期は、それを患者さんに
伝え、そのような選択肢があることも示すのが
「緩和医療」専門医です。その方のQOLを上げるのが
緩和医療だから、他に良い方法があるならば勧めます)

僕は抗がん剤治療もさせて頂いて来ましたので、
基本的な抗がん剤治療の知識と経験は持っています
(ので、だからこそ今は基本やるべきだ、やらないべきだ
ということに関してある程度判断可能です)が、
全国でもまだ39名の緩和医療の専門医資格を持つ身として、
さらに鍛えあげねばならない、そう思っての受講でした。

講義を受けて、まあ当然といえば当然ですが、
四捨五入すると40年ほど前の『家庭の医学』に
書かれていた頃の医学から凄まじく進歩したことが
わかりました。

がんも治る、そういう時代です。
それを改めて認識しました。

がんで死ににくくなっている、そういう時代でもあります。
昭和50年版の『家庭の医学』には今より死が色濃く
にじみ出ていました。
それは幼い僕に、病気の理不尽さと病者の苦悩の一端
を教えた「死の書」でありました。
けれども平成20年代版の
『家庭の医学』では、既に死は”背表紙”になっています。
ぱっと見ただけでは、ページはあくまで白く、そこに死など
書いていないのです。

それも世の中一人ひとりの努力があったからです。
医療者の努力、行政の努力、一般の方の心がけや
習慣の努力・・数限りない一人ひとりの力。
それらが積み重なって、『家庭の医学』は「死」の
本ではなくなったのです。

けれども、僕は昭和50年版の『家庭の医学』が
教えてくれたことをいや増して感じるのです。
文字通りお蔵入りした同書と再びめぐりあうことは
もうないと思いますが、それだからこそなおさら
懐かしく感じるものでもあるのです。



さて、11月12日。

Rainy Days and Mondays always get me down.

ではありますが、今週も徐々に調子を上げてゆきましょう!

昭和50年版『家庭の医学』の雨も晴れたように、また
気持ちも見通しも晴れると信じて。


それでは皆さん、また。
失礼します。