皆さん、こんにちは。大津です。



「痛み」


カルテを見ると、書いてあります。


患者さんの言葉として

「痛いです」

「ずっと痛いです」

「かなり痛いです」


そして・・。

「痛い」とは書いてあっても、

「どこが」

「いつから」

「どのように」

「どれくらい」

「どんなときに」

痛いのか。

それがちっとも記されていない
ことも稀ではありません。


せっかくだから聞いて書きましょう。
掘り下げて聞きましょう。

それがとても大事なんです。


痛みにはいろいろな種類があります。

特にがんに伴う痛みは

「内臓痛」「体性痛(たいせいつう)」
「神経障害性疼痛」と大きく3つあります。

そしてそれぞれに対して薬剤の効く・
効きにくいがあります。

ですから、どの種類の痛みなのかを
しっかり評価するのが大切なのです。

その種類を判別するときに、大切なのは
その性状です。

ですから私がぜひとも医療者の方に聞いて
もらいたいのは

「どのように」痛いのか

ということです。「どのように」は性状を
聞くための質問です。


一般に

○ 内臓痛は局在があいまいで鈍い。重い。

○ 体性痛は局在がはっきりし、明確な痛み。鋭い。
  (例えば骨転移痛などが典型です)

○ 神経障害性疼痛は異常感覚を伴う。
  (ちりちりぴりぴりしたり、しびれたりなどです)

とそれぞれ性状によって、ある程度種別を
予想することができます。

そして「どこに」「どのように」痛いかを
十分掘り下げたら、次は実際にその
疼痛の原因となる病変があるかを画像検査などで
チェックして、その存在が確認されれば、
診断に至ります。

例えば

「右の上腹部が重苦しく痛い。結構広い範囲でどーんと
している」

腹部CTを見てみましょう。

肝臓に腫瘍はありませんか? 

あれば肝臓の腫瘍に伴う痛みでしょう。実際は
もちろん他にも痛みの原因となる変化をしっかり
除外してから診断に至るわけですが、このように
お話をポイントを絞って聞いたことから類推して
それを画像検査で確認する・・というのが診断の
流れです。


「背中が動くとズキッと痛い。
安静にしていると大丈夫なのに、動くとひどい。
背中のココが痛いんだよ、と指で示せる」

骨シンチはどうですか?
(※骨シンチとは骨のアイソトープ検査)

腰椎に集積はありませんか?
(※陽性だと集積する)

あれば骨転移の可能性が高いでしょう。
MRIも施行し、骨変化を確認します。


あるいは

「右大腿が痺れて痛い。
びりびり電気が走るように痛い。
病気は子宮頸がん」

骨盤腔のCTを見てみましょう。

骨盤内に腫瘍はありますか?

あれば骨盤神経叢浸潤からの右足の
「神経障害性疼痛」でしょう。
もちろん他の病変を否定するのは
言うまでもありません。


このように
しっかり掘り下げて聞く→検査→診断、です。

聞くことがおろそかだとなかなか
スムースに診断に至りません。

痛みの原因がわからないと、
有効な鎮痛薬の選択にも影響します。

例えばよくある間違い。

骨転移痛や神経障害性疼痛に
やみくもに医療用麻薬を上げてしまって
眠気はひどく痛みも取れないという状況
を作ってしまっている・・。

骨転移痛にも神経障害性疼痛にも
それぞれ適した薬剤があり、それらを
併用することが必要です。

けれどもそれらの疼痛だとわからなければ
あるいは一緒くたに「がんの痛み→
医療用麻薬」だと短絡的にとらえていると
痛みは取れずに不利益だけ増やしてしまって
いることもあるのです。

ですからしっかりと、痛みは

「どこが」

「いつから」

「どのように」

「どれくらい」

「どんなときに」

痛いのかをまずしっかり聞き倒さなければ
いけません。それなしに迅速な診断も
適切な治療法の策定もないのです。

カルテに単に「痛い」が連呼されるのでは
なく(これではあまり仕事をしていないのに
等しいかもしれません)、きちんと

「どこが」

「いつから」

「どのように」

「どれくらい」

「どんなときに」

が併記されるようになってほしいものです。

そして「どのように」
必ず聞いてみてください。


患者さんにとって痛みは本当に辛いもの
なのですから。そして不安につながるもの
なのですから。聞くことを糸口に緩和に
至りたいものです。


それでは皆さん、また。
失礼します。