皆さん、こんにちは。大津です。



世の中には様々な種類のがんがあります。

そして出来る部位、そして転移する部位に
よって様々な違いが生じます。

例えば肺がんは、当然のことながら
呼吸困難がよく出現します。あるいは
咳や痰の症状等も初期から出ることが
あります。

あるいは腹部の中の臓器由来のがんは
腸閉塞(イレウス)といって、
消化管が閉塞することにより、そこから
上流(口側)に腸液が貯留することにより
腹部膨満感、排便の停止、嘔気・嘔吐など
の症状が出現し得ます。

それぞれのがんによって転移しやすい部位も
ある程度明らかです。
例えば肺がんは脳転移、骨への転移、肝臓への
転移などが起こりやすい等、です。

そしてその腫瘍によって、高度に進行した際の
苦痛症状の出方も多少異なりますし、その
対処にもまた多少の特性があります。


今日は「肝臓がん」と「血液のがん」を
簡単に取り上げましょう。

「肝臓がん」は現在ウイルス性肝炎(多くは
C型)からの肝硬変を母地に生じることが
多いです。

肝臓は沈黙の臓器と言われますように、
病気が進まないとあまり目立った症状が出ない
こともしばしばあります。ゆえに症状緩和を
しなければいけない! と医療者が思いにくく
その苦痛がしばしば見逃されます。

肝臓がんも、もし余命が短い月の単位以下となり
全身倦怠感など強くなるようでしたら、その
改善のためにステロイドを使用するのが有効
です。

肝臓の病気は専門化が進んでいるため、肝臓の
先生は肝臓を中心にご覧になっていることが多く、
消化器系の腫瘍の高度進行期に現在はステロイドが
使用されることが多くなってきているのですが、
これまであまり使わずに肝臓がんをご覧になって
いることもしばしばあるため、
中には「え? ステロイド使うの? 感染症等
のリスクを増やして危険ではないの?」と非常
に心配される先生もいらっしゃいます。

かつて(当院ではなく)ある研修医から聞いた事例として、
ステロイド使用を上級医の先生に相談したところ
「感染を増やすから使えない」と言われてしまい
患者さんの苦痛が取り除けなかったというものが
あります。

高度進行がんの場合のステロイド使用は長期間に
なりませんから、それほどナーバスになる必要は
本来ないのです。注意しながら使用すれば推定
余命短い月単位の際には心配されるような副作用
は少ないとされていますし、私の実感としても
そうだと思います。

そういうわけで、肝臓がんでも「余命短い月単位
ならばステロイドをしっかり使用する」ということ
と、もう一つは高度進行期に出て来る肝性昏睡
からの精神症状やせん妄に対して、しっかり
抗精神病薬の使用を行い、余命が「日にちの単位」
ならば躊躇なく(同意のうえ)「鎮静」を行う
ということが重要です。

私の研修医・専修医時代は、肝臓がんの最後は
とてもつらいと感じていました。患者さんが
もがかれる様子を見て、ご家族に涙ながらに
「先生、これだったらもう・・」
と仰られる・・ということが稀ではありませんでした。

適切な時期に(もちろん必要な方に)「鎮静」を行えば、
患者さんの尊厳は守られます。事前にその可能性を
伝えておいて、必要時には遅滞なくそれを行えるように
準備と心づもりをしておくのが重要です。

なお「鎮静」は適切な方法に則れば、例えば日本緩和
医療学会が出しているガイドラインに則ったような
方法ならば、生命を短縮させることは非常に少ないと
されていますので、それを恐れる必要はありません。
逆に医療者が過剰にそれを恐れることが、患者さんと
それを見守るご家族の大きな不利益となってしまいます。

残念ながら、鎮静に関しては医療者の説明が間違っている
こともしばしばあります。基本「呼吸抑制は出さない
ように投与する」「正当な方法ならばリスクは少ない」
「命はほとんどの場合縮めない」ことなどをしっかり
伝えていかねばなりませんし、知っていただかねばなり
ません。

肝臓がんの終末期は「鎮静」が必要かつ有効なことが
多いですので、それを知っておき、適切な時期に施行する
ことが重要です。


また血液のがんですが、
血液のがんももちろん「緩和が必要」です。
血液のがんも多くの場合血液の病気の専門家がご覧になっております
から、これまであまり緩和医療の専門家とのコラボレーション
が少なく、患者さんの苦痛を時に見逃してしまっていることが
あります。

当院は血液の先生が緩和医療に対して理解的で、
よくご依頼下さっています。血液の病気も緩和がとても
重要ですから、「治療することで腫瘍を減らすことが症状緩和だ」
と(一応これは確かに事実なのですが)、それに拘って
緩和医療の専門家に依頼しないのはいけないことです。

当院のように「科」ぐるみで高い意識を持ってくださっている
のは素晴らしいことだと思います。
何かと病院も「科」で動きますから、特定の科は緩和医療をよく
知って依頼もしてくれるのに、特定の科はなぜか(いろいろ
指摘されるからなのでしょうが)ほとんど緩和の専門家の関与を
望まない・・などというようなこともあります。
嘆かわしいことです。科や病院のトップから意識改革してもらわ
ないといけません。依頼して、苦痛が緩和されて、まず喜ぶ
のは患者さんですし、それで喜ばれるのはその科の先生なのですから。

さて血液の腫瘍に関しては、先ほどの
「治療することで腫瘍を減らすことが症状緩和だ」が一理あり
症状緩和に関しても、抗がん剤の投与が劇的に奏効することが
しばしば散見されます(だからこれまで依頼も少なかったのかも
しれません)。
例えば悪性リンパ腫の高度の難治性の痛みが、少量の抗がん剤
使用にて劇的に緩和された・・というようなことが実際にある
わけです。

私もたくさんのがん症例(1000以上でもう数えていません)を
経験してますが、明らかに肺がんや肝臓がんのような臓器のがんと
血液のがんはその点が異なると感じています。
臓器のがんに比べて血液のがんの「治療による苦痛の緩和」が
目立ちます。ですので、血液の病気こそ、より血液専門医と
緩和の専門医が話し合い協働してことに当たってゆく必要が
あると感じています。

残念ながら、このブログの読者さんにも血液の病気になられた
際、その機関・その先生は当初緩和医療を導入してくれなかった
・・という方がいらっしゃいます。嘆かわしいことです。
これは大きな間違いです。

肝臓の腫瘍も、血液の腫瘍も、専門家が単独で診てらっしゃる
ことがありますが、これまで見て来ましたように
「緩和医療を行うことがとても大切です」
きちんと併用してもらいましょう。病院ぐるみでそういう文化を
醸成せねばなりません。何せ肺がんでは
「緩和医療を併用することが命も延ばした」という結果が
すでに出ているわけです。なぜ命を延ばすのに、しないのか、
ということですし、これから益々医療者の意識が問われること
でしょう。むろん緩和は技術的な側面ばかりではありませんから、
緩和医療の専門家が関わることは、精神的な苦痛も含めたその他の
苦痛の緩和、良好なコミュニケーションを基盤としたQOLの向上
につながり、主治医の先生だけではカバーできないところが
しっかり手が届く、ということになるのです。薬剤を使って、それ
だけで「緩和ケアをしている」と言っているようならば、それは
本当の緩和をしていないに等しいのですから・・。

もちろん肝臓がんや血液のがんに限らず、例えば
肺がん、咽頭がん、腎臓がん・・そう全てのがんで緩和が必要なことは
明確です。どんどん緩和ケアチームに依頼し、アドバイスを
聞いてもらいたいと思います。


それでは皆さん、また。
失礼します。