皆さん、こんにちは。大津です。


皆さんは映画『硫黄島からの手紙』を
ご覧になったことはありますか?

太平洋戦争後期、日本軍は硫黄島で
アメリカ軍と壮絶な決戦を迎えます。

しかし日本軍は既に大きく劣勢で、
空と海からの援護は全く期待できず、
守備兵は孤立無援で闘うしかありません
でした。実際海からはアメリカ軍の
圧倒的な艦砲射撃が島の地形を変える
ほどです。日本軍は島に立てこもって
戦うしかないのです。

硫黄島もアメリカに占領されるのは
時間の問題であり、それがどれだけ
長く延ばせるか、とそういう戦いだった
のです。

守備隊は、「必ず死ぬ」戦いでした。
「必ず死ぬ」戦いに誰が喜んで殉ずる
ことができましょう。


しかし、映画の中で硫黄島守備隊の
総大将である栗林忠道中将はこう兵士
たちに訓示します。渡辺謙さんの名演が
光る場面です。

「我々の子供らが、日本で、一日でも永く
安泰に暮らせるなら、我々が守るこの島の
一日には意味があるんです」

映画の宣伝でよく流れましたから、この
場面はご覧になった方も少なからず
いらっしゃるのではないでしょうか?


栗林中将は、この絶望的な戦いにも意味が
あるということを訓示しました。
子孫を守るために、一日でも多く持ちこたえる
ことには大きな意味があることを彼は兵士に
伝えたのです。

先日紹介した小室直樹先生の本にも、
実はこの戦いが後世に大きな影響を与えたこと
が記されています。

栗林中将や兵士たちが、大切な人たちを守る
ために一日でも多く持ちこたえよう、簡単には
死なずに生きようとし続けたことは、大きな
意味をもたらすことになったのです。


さて、今日の私は何を言いたいか。

いろいろな患者さんがいます。

穏やかに最期の時間を過ごしたい、という
患者さんもいれば、最期まで闘いたい、そういう
患者さんがいます。

確かに最期まで闘うことは時に苦痛を増すことも
あるのかもしれません。
しかし私たち医療者が心しておかねばならないことは、
それを「意味がない」という言い方で表現しては
いけないということです。
そしてそれは医療者が決めつけることではありません。

もちろん明らかに苦痛のみ増やすと思われる場合は
それを率直に伝える必要がありましょう。
しかしそれでもなお、患者さんが求められる場合に、
私たちはそれを止めることができるでしょうか。

誤解があるのですが、緩和医療は延命を諦めさせる
ものでは断じてありません。
その定義にあるように、生命の質(QOL)を確保
するのが緩和医療の目的です。

また延命治療の範囲は、その人がどこまでを延命と
考えるかによって大きく異なります。これはかつて
拙著『すべて、患者さんが教えてくれた』で記した
通りであります。
その人が正しい情報を得たうえでなおかつそれを
望まれるのならば、それは本人にとって「単なる
延命治療」とはならないのです。

その一日には、意味があるのです。

ですから僕はかつて「意味がない」という言葉で
延命的治療を表現したことは一度もありません。

その人なりの頑張る理由がそこにはっきりとある
時、それに沿ってあげるのが緩和医療なのです。

たとえそのまま逝くことのほうが楽に見えたとしても、
その患者さんにとって、

「この一日には意味があるんです」
 


いよいよ本日、発売となります。

$大津秀一 オフィシャルブログ 「医療の一隅と、人の生を照らす」 Powered by Ameba

どうぞよろしくお願いします。


それではまた。
失礼します。