皆さん、こんにちは。大津です。

まず読売新聞の下記記事をご覧ください。
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こちらです

(以下転載)

過剰な使用、疑問視 穏やかな最期へ指針急務


口で食べられない患者のおなかに穴をあけて、管から胃に栄養分を送る「胃ろう」が医療現場で広まっている。

 患者にとって画期的な栄養補給法だが、かつてなら老衰死を迎えていた高齢者が意識のないまま何年間も生きる例もあり、利用の仕方を見直す動きも出始めている。

 胃ろうは1979年に米国で開発、国内では90年代から広まった。普及に尽力した「PEGドクターズネットワーク」の鈴木裕理事長(国際医療福祉大教授)によると、国内で設けている人は約40万人という。

 点滴や、鼻から管を通して胃に栄養分を送る従来の補給方法に比べて、十分な量の栄養が摂取できて、苦痛も少ない。家族でも取り扱えて、造設手術は10分たらずだ。

 普及の背景には、こうした簡便さに加えて、高齢化の進展がある。高齢者人口の増加に伴い、脳血管障害や認知症により、口から食べられない人が増えたからだ。

 患者にとって、回復して再び口から摂取できるようになるのが理想だ。しかし、そうした例は少なく、老人医療や介護の関係者の間で、回復が見込めない高齢者への造設を疑問視する声が出ている。

 東京都世田谷区の特別養護老人ホームの石飛幸三医師は、認知症が進み、意識も薄れた高齢者が胃ろうで生かされる姿に疑問を感じ、今年2月に「『平穏死』のすすめ」(講談社)を出版した。家族と相談のうえ、入所者への造設をなるべく見合わせて、過剰な栄養や水分の補給を見直したところ、急変での死亡が減り、穏やかな老衰死が増えた。その実践例を紹介し、大きな反響を呼んでいる。

 「欧米に比べて日本は造設が過剰に行われている」と指摘するのは東大死生学研究室の会田薫子研究員。フランスやオランダ、スウェーデンでは進行した認知症患者に胃ろうの造設は、通常行わないという。米アルツハイマー協会など欧米の専門家団体も「患者に利益をもたらす医学的証拠はない」と否定的な見解だ。

 これに対し、日本では、「口から食べられなくなったら胃ろうは当たり前」という空気がある。しかも、いったん造設するとやめにくいという。延命手段をあえて控えることになり、神経質になっている医師も多いためだ。

 都内で飲食店を経営する女性(47)の母親(81)は、パーキンソン病と認知症を患い、寝たきりで意思疎通もできない。のみ込む力も衰えたため、入院した病院で胃ろうを勧められた。

 女性は「母は延命治療を嫌がっていた」として当初は断った。だが、「とりあえず体力がつくまで」と医師に言われて同意した。その後、退院時に外すよう求めると「外したらお母さんを殺すということですよ」と強い姿勢で拒否された。

 鈴木理事長は「回復の見込みがないまま胃ろうを続けるのがいいのかどうか。胃ろうを試す機会を奪わないのはもちろんだが、治療効果がなければ使用を見直す機会を設けることがあってもいい」と指摘。現状把握を進め、中止を含む指針作りを検討したいと話す。全日本病院協会や日本老年医学会も胃ろうの実態調査に取り組んでいる。

 認知症が進めば、食べられなくなる。その時、どうするのか。死生観ともかかわる問題だけに正解はないが、誰しも元気なうちに周囲に自分の考えを伝えておくべきではないか。(医療情報部・藤田勝)

(以上転載終わり)

また参考文献として以下も有用なものです。
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余裕がある方、医療者の方はご覧ください

胃ろうには神話があり、上記文献から引用すると

(以下引用)
※ブログ筆者注 PEG=胃ろう


2006 年の Geriatrics という老年医学雑誌では、”TO PEG or NOT TO PEG”というシ
ェークスピアの『ハムレット』の台詞をもじったタイトルで「PEG の神話」(Feeding tube
myths) について述べられている。それによると、PEG を造れば、
(1)栄養障害を予防することができる
(2)褥瘡を予防することができる
(3)誤嚥性肺炎を予防することができる
(4)QOLを改善する
(5)機能状態や生命予後を改善する
といった5 つの神話には、すべて根拠がなく、PEG を造設しても、(1)栄養障害を予防するという根拠はなく、(2)褥瘡はむしろ増え、(3)LES 圧(lower esophageal sphincter pressure:下部食道括約筋圧)が下がり、口腔分泌物の誤嚥は予防できず、(4)苦痛や不快感を増す場合もあり、(5)機能状態や生命予後の改善は末期の状況では期待できない、と述べられている。
同様に、「これまでPEG 造設が誤嚥性肺炎を防止することを示したデーターはなく、むしろ経腸栄養が誤嚥性肺炎のリスクファクターである」ことや、「栄養状態と褥瘡の関連はほとんどない」こと、「PEG を含めた経管栄養の導入は予後に影響しないし、むしろ悪化させる」といった結果は、外国のいくつかの論文を引用した前野容、酒井義浩両氏の論文でも示されている。
PEG 造設による患者の利益を示すエビデンスがあまり示されていないにもかかわらず、PEG 造設の頻度は、高齢者において高く、「PEG を造設した患者の70%が、機能改善や自覚的な健康状態の改善がなく、認知症患者の約70%が何らかの抑制を余儀なくされている」との報告がある。


(以上引用終わり)


真剣に観察していれば、胃ろうを造設しても
誤嚥性肺炎を繰り返す症例は珍しくないこと
に気が付くはずです。
胃に直接栄養液を入れても、胃や腸管の
運動機能が低下していることが多いので
結局逆流したり、それなら胃よりさらに深く
小腸に管の先端を置くような方法もあります
がそれでも誤嚥するのは、消化液の注入で反応
性に口腔内に分泌物が増量するからという可能性
もありましょう、いずれにせよ胃ろうを造設
すると誤嚥しないということはないのです。


最近僕が驚いているのは、がんの終末期の患者さんに
まで胃ろうを積極的に勧めている施設があることです。
中には緩和ケア病棟にもそんなところがあるようです。

もちろん一律に否定はできません。
患者さんが望む場合、あくまで患者さんの意思に
則って行うという場合だってありましょう。
しかしメリット部分のみ強調し、あるいはがんで
食べられなくて栄養不良だからそれを改善しましょうと
いう不十分な説明で行ってしまってはいけないのでは
ないでしょうか。

なぜならば以前終末期の嘘シリーズ11で取り上げまし
たが
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終末期にはがんによって悪液質となっていることが
しばしばあるため、どれだけ栄養を入れても体力は
回復しないばかりか、相対的に栄養要求度が高い
がん細胞にのみ栄養が補充されて、腫瘍のみを利し
てしまう可能性もないとは言えないわけです。
また余命数ヶ月と推測される場合に、そもそもいくら
それほど痛くはないとはいえ、お腹に穴を開けてまで
顕著な効果が得られないものを行うべきかという問題
もあります。

あるお医者さんは自分の家族だったら絶対やらないと
言って、胃ろうを造設していました。
自分が患者だったら、余命数ヶ月の時に、本当に
効果が不確かな胃ろうを造ってほしいと願うのでしょうか?
極めて個人的な意見にはなってしまいますが、自分
だったら好まないです。家族にも、食べられる範囲で食べて
もらって、それが難しければそれで寿命と捉えると思います。

終末期のがんの患者さんの場合、胃ろうの余命延長効果は
明らかではないですし、あっても数ヶ月といったところ
ではないでしょうか。それと胃に穴を開けること、本質的な
栄養回復にはつながらないこと、もちろん誤嚥も防げない
ことなどのデメリットも勘案して決めねばならないわけ
です。

そしてもう一つの問題は前文献にあるように、

PEGを造設する患者の7割近くは何らかの疾患で意思決定能力がなく、よって、胃瘻造設を決定するのは、以下のとおり、たいていは家族(89%)ということになる。

ということでしょう。

このように、胃ろうの是非について説明するのは実は
とても大変です。
そしてまた、迷うことはけして悪いことではなく、
これらを十分皆で考え、答えのない問題に真剣に
向き合いながら見つけてゆくことが大切なのだと思います。

少しでも終末期医療の現場が変わってほしいものだと
思います。誰しも大切な人には長く生きてもらいたい
ものですが、いたずらに苦痛ばかり増やしているのは
本当に愛情なのか、それは自らの望みであって大切な
人の望みではないのではないか、
ということを厳しく問い直す必要があるでしょう。

それではまた。
失礼します。