皆さん、いつも温かいメッセージありがとうございます。
とても励まされております。感謝です。

終末期の嘘シリーズも7です。
今回は輸血を取り上げましょう。

輸血については『死学』とその文庫版の
『死ぬときに後悔しない医療』
$大津秀一 オフィシャルブログ 「医療の一隅と、人の生を照らす」 Powered by Ameba

及び、『すべて、患者さんが教えてくれた』
大津秀一 オフィシャルブログ 「医療の一隅と、人の生を照らす」 Powered by Ameba

にも記しています。よかったらご参照ください。

終末期の輸血の難点は、2つあります。

①腫瘍からの慢性的な出血が存在する場合は、輸血が
むしろ出血を助長することがよくあり、輸血→出血→輸血……
というサイクルを繰り返す可能性があることです。
輸血が大量の出血を招来する可能性があります。
輸血が招来した大出血で余命自体を短縮しかねないことに
注意が必要です。

貧血があるということは、症例にもよりますが、潜在的な
出血が存在することもままあります。破綻している血管が
ある可能性があるということです。そこで一気に有効循環
血漿量を増やせばどうなるか……。

それは破れているホースに勢いよく蛇口をひねって水を流す
のと同じことです。貧血で蛇口があまりひねっていないので、
ホースが破れていても水はちょろちょろとしか出ないのです。
そこに勢いよく水を流したらどうなるでしょう……出ますよね?

それなので、むしろ輸血をしないほうが、貧血の進みが
遅いなんていうこともあります。輸血で、経過を早めて
しまっているのですね。

そしてもし輸血を施行するにしても、最低限の量に留めるのが肝要です。
厚生労働省のガイドラインにもあるように、(MAPの場合)最小限の量の
2単位の輸血を施行してまず様子を見ることです。ヘモグロビン値を
正常値近くに戻そうとすると出血の危険性が上がります。健康な人と同じ
ヘモグロビンの値にしようとするのは危険です。輸血の基準は、厚生労働省の
ガイドラインでは「ヘモグロビン値6g/dL以下が輸血の一つの目安となる」
と書かれていますが、同ガイドラインにて「末期患者への輸血は禁忌」
とされていることもおさえておくべきでしょう。

末期がんの場合に「禁忌(してはいけない)」にしているのは、
血も涙もないからではなく、末期状態において輸血が有害無益な可能性が
少なくないこと、皆さんが献血してくださった貴重な血液を有害無益な
可能性が少なくないことに積極的に使用して良いのか、というあたりから
来ているのではないかと思います。理由としてガイドラインには
「末期患者に対しては、患者の自由意思を尊重し、単なる延命措置は
控えるという考え方が容認されつつある。輸血療法といえども、その例外
ではなく、患者の意思を尊重しない単なる時間的延命のための投与は控え
るべきである」と記されています。

そうは言っても、症状を緩和させるならばやってあげたら良い
んじゃないの? と思われる方もおられることでしょう。
もちろんです。
しかしここに二つ目のポイント(問題)が出てきます。

②全身倦怠感や息切れは貧血からというより腫瘍からのことが多い。

終末期の医療に慣れていない医療者は、がんの進行そのものによる
体力低下の結果としての「息切れ」「だるさ」「たちくらみ」
「めまい」を貧血のためと解釈しがちです。しかし通常、
ゆっくりと進行した貧血ではそれほど高度な症状は出ないことも
多いです。貧血が原因ではなくて、全身の体力低下の結果の症状
の可能性が少なからずあるのです。体力がかなり落ちた場合でも
「息切れ」「だるさ」「たちくらみ」「めまい」が出るのです。

ゆえに、貧血が症状の根本的原因ではないために、
輸血がプラセボとして効くことはあるかもしれませんが、
それほど大きな効果は期待できないことが多いです。
ステロイドの投与や、めまい等を起こしうる薬剤の中止等の
ほうが効果を期待できることが多いです。  

以上より、輸血のいかんを検討するのは、
まずはステロイド投与など他の症状改善手段がないかを十分
検討し、試みてからのほうが良いです。一般に思われているほど
終末期の苦痛症状に対しての貧血の寄与度は高くないのです。
ましてや輸血はリスクを増やす可能性があり、他をまずやってから
のほうが良いでしょう。

緩和ケアの具体的治療法については、下記の
拙著に色々書いています。ぜひご参照ください。
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一人でも多くの方の苦痛が、適切な治療で
取り除かれるのを祈ります。

それではまた。
失礼します