終末期の嘘シリーズ3です。
腹水の治療についてもまだまだ
誤解があります。今日は腹水について
治療を考えてみましょう。

まず余命が数ヶ月以内の患者さんのがんに
よる腹水に対して、ドレナージは第一選択
ではありません。

なぜならば以下の2つ(+1?)を押さえるだけで、
がん性胸水と同じく腹水の貯留を抑えられます。
まずは以下から始めてください。

①輸液を1000ml以下に減らします。
<経口摂取がある場合は、輸液は0でも良いです。
これは胸水の場合も同様です>
輸液が多ければ腹水も減りません。輸液が多い
からいつまでも腹水がひどい可能性があります。
50%ブドウ糖を使用すれば、500mlの点滴
でも1000kcalを確保できます。
利尿剤やアルブミンの使用の前に、まず輸液が
多すぎやしないか検討するのが大切です。経口
摂取が保たれているのならば、むしろ輸液は0
にしてください。水分メインで栄養分が少ない
輸液(つまり外液や維持液)は一利なしです。

②リンデロンかデカドロンを4~8mg/日使用します。
腹水の分泌を減らします。がん性腹膜炎を軽減させて
効いているものと思われます。リンデロンやデカドロンは
もちろん内服でも大丈夫です。

③利尿剤はスピロノラクトンにループ利尿薬を
併用します。けれども世間一般で考えられているほど
がん性腹膜炎に対しての効果はそれほどではない印象
があります。血管内脱水を助長することもあるので、
一番は不要な輸液を厳につつしむことと、ステロイド
の使用でありましょう。

輸液を入れて、利尿剤を投与するというのは、
相反する行為を同時にしているということになります。
体全体では明らかに水分貯留なのですから、輸液を
減らすことがまず優先されます。がんの終末期の場合は
低アルブミンですから、利尿剤も血管内の水ばかり
引いてしまって、腹水はそれほど減量しないこともしば
しばあります。

以上です。
ただ残念ながら、胸水と違って100%の治療効果
はないです。劇的に楽になることは残念ながら胸水
と比べると少ないです。けれども客観的腹水量が減
らなくても、自覚症状の改善はよく認められます。

まずは以上の①、②(+/- ③)を試みた後に、
症状がどうしても取れなければドレナージという
ことになるでしょう。

ドレナージにおける注意です。

腹水のドレナージをした際に、排液が多いか
らと輸液を負荷するのは、避けたほうが良いです。
ドレナージ量は少量でも症状改善効果が期待されます。
1回のドレナージ量は2リットル以内にしましょう。
500~1000ml/時で、早く抜きすぎないように
してください。ゆっくり、あまり大量にならないように
ドレナージすれば、血圧低下等は起こらないはずです。
輸液を負荷するのを避けたほうが良いのは、腹水の
ドレナージで腹水中の蛋白が失われますから、体内の
(そして血中の)アルブミンの低下が進み、入れた輸液を
血管内にとどめおくことが出来ず、速やかにthird spaceに
移行してしまいます。つまり入れた輸液は、血管内を通り越し、
速やかに腹水を増やしてしまうだけとなります。
腹水を抜いて、すぐにまた腹水を増やしているのと同じです。
気をつけましょう。

それと、なぜドレナージが第一選択ではないか。

それは腹水中には蛋白が含まれているからです。
結局蛋白の喪失を助長し、アルブミンの喪失が
進み、さらに腹水貯留が進みやすくなります。
腹水濃縮再静注もあまり効果がない印象があります。
結局、端的に言えば、抜けば抜くほど溜まりやすく
なると言うことです。経験豊富な臨床家は、ゆえに、
なるべく安易なドレナージを回避していることが多
いです。

頻回のドレナージを繰り返すと、腹水はどんどん溜まり
やすくなりますし、また一時的には劇的に症状改善
しますので、患者さんはドレナージをもっともっと
と希望するようになります。結局ドレナージの回数
が増え、また体力もその都度失われますので、経過
を早めている可能性もあります。それなのに患者さん
は症状の一時的改善効果が忘れられずに、もっともっと
とドレナージを希望されるような「ドレナージ中毒」と
でも表現されるような状態になってしまうことがあり、
注意しなければいけません。最初からドレナージの
回数に配慮していればそうはならないのですが、よく
頻回にドレナージをしていた患者さんは(実際腹水が
溜まりやすくなっていますし)「ドレナージしてもらわ
ないと我慢できません!」となってしまっています。
問題なのはそういうケースの予後が短いことがしばしば
あることです。ドレナージはやはり相当体力を削いで
いるのではないかと思います。

ではお腹の張った苦痛を放置するのか、と言われれば
もちろんそんなことはありません。対処法はあります。
腹水の高度貯留に伴う腹部膨満感には、経験上
抗不安薬がある程度有効なようです。僕はセニラン
坐薬を比較的よく使用していますが、それなりに
膨満感は緩和されるようです。高度な腹部膨満感の
場合は間欠的鎮静(ミダゾラム)も有効だと思います。

輸液の減量・中止とステロイドの使用を
一度ぜひやってみてください。僕が言っていることが
嘘ではないとわかるはずです。腹水の絶対量が変わらな
くても症状が大きく緩和されることもそれなりにあります。

ドレナージの欠点は、やればやるほど頻回になり、
結局患者さんの苦痛をトータルで見て緩和しているのか
どうか悩ましいことがままあることです。「ドレナージ中毒」
にしないためにも、できるだけ回避するのがベターでしょう。

詳細は僕の本、
『世界イチ簡単な緩和医療の本』をご覧ください。

$大津秀一 オフィシャルブログ 「医療の一隅と、人の生を照らす」 Powered by Ameba

一人でも多くの人の苦痛が、負担なく
取り除かれることを祈ります。

それでは失礼します。