皆さん、こんにちは。大津です。
今日も寒いですね。

『世界イチ簡単な緩和医療の本』を見て、
主治医にお願いしたら処方が出て、苦痛が
緩和されたという嬉しいメッセージが届き
ました。ゆらさん、ありがとうございました。
主治医の先生もゆらさんのお話を聞いてくれて
ありがとうございました。

ブログのリンク「本を読んで一言」のコメント
にも、拙著『死学』を主治医の先生にご覧に
なってもらって、変わったというエピソードが
あります。

一般の方と医療者のコミュニケーションを促進
する道具であることを願って、できるだけ平易
に記してありますので、これらのような使い方
をしてくださると本当に嬉しいです。

またきちんと患者さんやご家族の声に耳を傾けて、
方針を修正される主治医の先生方にも深く感謝します。
これまでの経験からは、それは一見常識と思われない
方針かもしれません。それにも関わらず患者さんやご家族
の声に耳を傾けようとされる姿は度量が広く柔軟で素晴らしい
と思います。

どうか拙著をうまく利用して、一人でも多くの方が
よい時間を過ごされることを願ってやみません。

さて、今日はベスト&ブライテスト、
という本を紹介します。
$大津秀一 オフィシャルブログ 「医療の一隅と、人の生を照らす」 Powered by Ameba
3冊ある、難解ではないけれども
読みやすくもないこの本。しかし、非常に
面白い本です。

世間では「人材がいない、人材がいない」と
お嘆きの管理職の方も少なくないと思います。
そんな方々から見れば垂涎の的であろう、
アメリカ大統領とその側近たち。

言うまでもなく、アメリカ大統領の周りは
アメリカの超一流大学出身者や超エリートで固められています。
時代は1960年代、ケネディやジョンソンが大統領の
時代です。ベスト&ブライテスト、は最高かつ聡明な
という意味です。当時のアメリカ大統領とその側近たちも
まさにそういう人材がきら星のように集っていたのです。
天才と秀才たちの集団・・普通に考えれば彼らが考え
行った政策は最善かつ最良のものとなるだろうと誰もが
予想することでしょう。

しかし・・・私たちは歴史を勉強すれば、彼らの行く末
が見えます。彼らは泥沼のベトナム戦争に引きずり込まれ、
敗戦を余儀なくされます。けれども、引きずり込まれた、
のではなく、「自ら破滅に向かっていった」、ということを
この本ははっきりと示しています。

なぜ最高の人材を揃えていたのにも関わらず、失敗したのか。

本を読むとわかりますが、政治に関わる人間も、それぞれ
主義主張が異なります。どんなデータをベースに考えるか
でもものの考え方は変わってきてしまいます。南ベトナム
のアメリカ軍人は誤った情勢を送り、それを鵜呑みにする
高官のせいで、政府はどんどん間違った方向へ進んでいって
しまいます。そして複雑な要因が絡み合うことで、現地の情勢
を見誤ったアメリカは、ベトナム戦争に突入してゆくことにな
るのです。

興味深いなあと思ったのは、ベトナム介入に対して懐疑的
だった高官もたくさんいたことです。けれども介入派は
あの手この手を使って、これらの高官を政府から追い出して
しまうのです。正しいことを言っていた人は追い出され、
あるいは無実の罪で烙印を押され、政府から姿を消して
いきます。残るのは誤った認識を持った人たちだけで、
彼らによってアメリカにもベトナムにも悲劇がもたらされる
のです。介入派は「現場への理解」が決定的に欠け、自らの
主義主張に凝り固まるあまり、柔軟な思考に欠けていたこと
も大きいでしょう。ベスト&ブライテストなのにも関わらず、
やっていることは反対派の追い出しなのです。

この本を読むとつくづく実感しますが、
ベスト&ブライテスト、でも当然人間は過ちを犯します。
賢く聡明だから間違いを犯さないわけではない。
いやむしろ、同じ考えのものを集め、それ以外を排斥し、
間違った方向へ一丸となって進んでしまうことで、
大きな破滅がもたらされてしまうのです。影響力が強く、
願ったことを実行に移す力も強いゆえに、ベスト&ブライテスト
の暴走はとても恐ろしいものなのです。

先日介護業界活性化フォーラムで出演されていた
猪瀬直樹さんの「昭和16年夏の敗戦」でも、
ベスト&ブライテストでも、戦争前のシミュレーションで
戦争の敗北は既に予想されていたことでした。それでも
1940年代の日本、1960年代のアメリカは
戦争に突入してゆくのです。

卑近なことに目を向けてみると、
医療の現場でも、人の価値観はそれぞれ違うがゆえに、
主義主張がぶつかり合い、心からの同意なき多数決で
物事が決まることがあるでしょう。けれども、

①その方たちは何を望んでいるのか、を知る。
・・ベスト&ブライテストなら1960年代のベトナム人、
現在の医療現場だったら患者さんやご家族の望みは何か。

②それを知るためにはどうしたら良いのか、を考える。
・・現地に行って、曇りなき目で見なければいけません。
このときに、自分の主義主張はいったんふたをしなければ
ならないでしょう。きちんと色々な意見を傾聴すること。

③より良いと思われる方法を、誰かを排除することなしに
達成する・・すべての人間がわかりあうことは困難ですが、
心を尽くして、相手の立場も配慮しながら、しかししっかりと
より良いと思われる方法を述べ、理解してもらう。

ということが大切なのではないかと感じました。

また、ベトナム介入反対派も、この本を読むときちんと自らの
意見を述べ、それがゆえに煙たがられ、最後追い落としされて
しまう人がたくさんいたことがわかります。けれどもこのように、
自らの正しいと思う意見をしっかりと述べることができる(それが
自らの地位の保全に不利益であっても)人が少なからずいたこと、
そしてまたこのベスト&ブライテストのような本が出版される
ところに、アメリカの底力を感じました。そしてまた1960年
代の失敗を生かして、さらに進化もしているでしょう(・・と
言いながら、イラク戦争等は同じことを繰り返しているようにも
見えますが、まあこれが人間なのでしょう)。

違う考えを持つのが当たり前であるがゆえに、
それをどうやってより良いものに昇華させていくのは
大きな課題だと思います。僕も引き続き考えていきたいところです。

週も後半戦、頑張って参りましょう!
それではまた。
失礼します。