NHKの大河ドラマはいつも時代の
要請に応えるのが上手いと思います。

昨年は『篤姫』。
「家族ですから」
と篤姫役の宮崎あおいさんがほっこりと
微笑む姿が印象的なように、
昨年の篤姫は
「家族」
が主要なテーマだったでしょう。
本質はホームドラマだったところが
大きな支持を得る一因となったのでは
ないでしょうか。

今年の『天地人』は
「義」
が一つのテーマとなって
いることは間違いないでしょう。
義、すなわち正義を、今年の大河は
主題として選んだのです。

さて、この数年を振り返るに
「家族」が何たるかを問われた時代でした。
親殺し、子殺しが頻繁に行われる時代。
家族と、心を通わすコミュニケーションが
取れないでいる時代。
終末期においても、たくさんの患者さんと
ご家族が、心の底から思いを交わすことが
出来ず、それがゆえに辛い最期を送ることも
少なくありません。

家族の復権。
これは今確かに求められているものであり、
『篤姫』で、徳川慶喜を篤姫が「家族ですから」
と赦したシーンなどは、大河ドラマの作り手の
強いメッセージを感じました。

さて同じように失われているものに
「義」
があります。

先般、僕も義が何たるかをもっと学ばねばならないと
思い、『武士道』(新渡戸稲造)を紐解いてみました。
結果、非常に瞠目しました。

今は本当に嘘ばかりの時代です。
人は甘言ばかり弄し、外見だけを飾りたて、
心の中には自己愛が満ちあふれています。
結果、「正義」や「まじめ」という美徳
おろそかにされることとなり、成功のためには
どんな嘘や卑怯な手を使っても構わないと
いうような、未曾有の乱れた社会が招来されています。

ただ、「品格」本が売れることからもわかるように、
僕は心の底でそれを憂えている人は
たくさんいるのではないかと思っています。

残念ながら、最も範を垂れるべき「上」が不正義なため、
その病が社会全体に広がっていますし、この不本意な状況に
日々耐えている人もたくさんいることでしょう。

仁義なき派遣切りや、職場でのいじめ。
約束破りの横行や、インターネットでの誹謗中傷。
それらに悩んでいる人も多いのではないでしょうか。

僕は「まじめ」に生きたいと思っています。
世の中には明らかに間違っていることはあると思います。
それはたとえどんな障害があろうとも
しっかり誰かが「間違っているよ」と言わなくてはいけないと思うのです。

ただそのおかげで
大変生きにくいと感じる時があります。

もっと別の時代に生まれたかったと思う時もあります。
(もっともいつ生まれてもそれほど大きな変わりは
ないのかも知れませんが)

まじめに生きる人間が、
バランスのとれた正義感を持つ人間が、
もっと生きやすい世の中となってほしいと思います。
そのためには、大多数の大衆層(僕も含めた)がしっかりとしていなければ
いけないと思います。

『天地人』の放映が、敵に塩を送った上杉謙信の精神が、
一般に膾炙することを祈ってやみません。