まず、7月30日の試合で、@カシマスタジアム

NHK動画
https://sports.nhk.or.jp/olympic/highlights/content/88ddb988-7c01-4fba-9aa9-fb83fa7b7caa/

今大会の特徴として、実力上位と見られた国に、コーナーキックの守備としてゾーンディフェンスを採用した国が多かったこと。
これまでは、欧米豪の大きな体格のチームが、なでしこJAPANなど身長の低いチーム用としてゾーンディフェンスを使うのが主だったが、
この大会では、欧米豪同士の対戦でもゾーンディフェンスを敷いている。
私は、守備はマンツーマンを前提として、ピックプレーをこのブログで扱ってきたが、
もう、世界の女子サッカーのトレンドからは、遅れているのかも知れないと思わされた大会であった。


ということで、ゾーンディフェンスを採用しているイギリス代表とオーストラリア代表の試合をピックアップ。
両チームともコーナーキックに力を入れていて、戦略を練って試合に臨む傾向が有るし、
ゾーンディフェンスを採用するからには、攻略法も検討しているだろう。
どんな攻略戦法と、守備の対応を見せのるか楽しみな試合である。


この試合の組み合わせが決まった時点で、イギリスの方が有利と私は予想していた。
①なでしこJAPANを物差しにして比較すると、イギリス代表の方が力的にやや上。
②3戦目、既に決勝トーナメント進出を決めていたイギリス代表は、主要メンバーを休ませているので、コンディション的にもやや有利。

 


 

試合を通して、後半の中盤~終盤以外の時間帯はイギリス代表が押していた。
が、88分:勝利目前に同点弾を食らう。
延長戦前半にPKを得たが止められて、その直後に失点。
延長後半開始に、ノーホイッスルで失点。
イギリス代表にとっては、ダメージの大きな失点を繰り返し、優勢に進めていた試合を落としてしまった。
シュートの状況は下図を参照ください。



 

負けたイギリス代表だが、このチームは(イングランド代表も)、勝ち運が無いですね。
ポストに嫌われ、PKを止められ、ブロックした相手シュートがゴール右上角に飛ぶ。


その中で、エース9ホワイト選手は、さすがの3得点。ヘディングシュートが恐ろしく上手いし、足下も確か。
だが、他の選手たちが決められないのは、2019フランスW杯の時と同じ構図。
 

また、守備に少し甘い部分があって、2カー選手に取られた2点は、防げなくもない失点で、
100%運だけで落とした試合ということもない。



勝ったオーストラリア代表は逆に、運に恵まれた。
その中でエース2カー選手が2得点。3カ国(豪米英)で得点王になった実力はさすが。
88分のゴールは、イギリス代表の足が止まっていたとは言え、落ち着いていたし、

延長後半開始時の得点は、ランニングジャンプで点で捉えたヘディングだった。

ただ、オーストラリア代表は力強い選手は多いが、決め手のパスが出なくて、2カー選手を十分活かせていない。
東京五輪ではゴリー選手(2017年ベガルタ在籍)を招集していないが、居たらもう少し形を作れたように思う。



では、いつものようにコーナーキックを見ていく。



(1)両チームのディフェンスシステム

イギリス代表は1-4-3(+2)のゾーンディフェンス。
3列目の3人は基本マンマークで、アメフトのゾーンディフェンスのように、担当範囲内に入って来た選手をマークし、次のエリア担当に引き継いいでいる。

オーストラリア代表は、1-5-3(+1)のゾーンディフェンス。
イギリス代表が、ゴールエリア内に人を集めて来たので、3列目の3選手がマンマークをどの程度やるのかは、正直判らなかった。
(なでしこJAPANとの7月14日の親善試合では、3人とも密着したマンマーク。)




ちなみに、先発選手を身長順に並べると以下のよう。

  イギリス代表              オーストラリア代表
 5 ホートン           174      10 エグモンド     179

 2 ブロンズ          172      14 ケネディ        176
11 ウィア             172       7 キャトリー       171
 9 ホワイト           170       9 フォード         169

16 ウィリアムソン  170       2 カー              167
 4 ウォルシュ       167        5 ルイク          166
12 デーリー         167       17 サイモン       164

15 ヘンプ            164      12 カーペンター  164
 8 リトル             163       16 ラソ             162
 3 ストークス        159      13 ヤロップ        158

GK
 1 ローバック       174      18 マイカ           176


ほぼ対等の高さ関係だが、10エグモンド選手が少し抜けている分、オーストラリア代表が有利という感じ。



(2)統計 

例によって、私が採っているSTATSを紹介します。

                        イギリス代表       オーストラリア代表
コーナー本数                               
得点(1次攻撃)                             


センタリング→シュート                   0/2
センタリング→パス        0/1          0/1
ルーズボール                                

クリアー                        2/5         0/2
キーパーパンチ                             
キーパーキャッチ                          
 * フリー/競り合い

オフェンスファール                          
ディフェンスファール                        
キックミス                                      
ショートコーナー不発                      
時間つぶし                                   
直接ゴール                                    
オウンゴール                                


フリーになった選手                       0/1
    (ボール受け/ボール来ず)
ピックプレー:推定含む    2/0          
     (成功/失敗)


(3)コーナーキックの内容と特記すべきプレー

両チームとも、私の期待通り、ゾーンディフェンスの攻略策を1つではあるが用意していた。
イギリス代表はゴールエリア内に6人配置してきたし、
オーストラリア代表は、ニアのスペースを狙っていた。
それぞれ理にかなっていると思う。

その攻略策に対して、イギリス代表は、即座に選手が対応しているところを見ると、
守備の原則をまず決めた上で、
さらにやられそうになったらどうするかまで、準備しているということが判った試合だった。


A.イギリス代表のコーナーキック

a)体制

キッカーは11ウィア選手(左利き)、10カービー選手(右利き)。
受け手は以下の体制で、G前密集陣形で始まっていている。
クイックスタートのショートコーナーと2本目以外は、ゴールエリア内に6人の攻撃選手を入れてきている。


・ニアへ:- 
・正面からファー:-
・GK脇: 8リトル選手
・ニアポルト前:15ヘンプ選手
・正面:9ホワイト選手5ホートン選手
・ファーポスト前:2ブロンズ選手16ウィリアムソン選手
・ショートコーナー: -
・コボレ狙い:4ウォルシュ選手12デーリー選手
・セーフティー:3ストークス選手


b)結果概要

1本目 (23:37 ポインタ33:57) 右CK 密集陣形 11ウィア選手→17サイモン選手ヘディング
4ウォルシュ選手シュート→14ケネディー選手カット16ウィリアムソン選手14ケネディー選手クリア
3ストークス選手回収・再組み立て。
2本目 (92:19+ ポインタ1:58:47)  左CK 11ウィア選手16ウィリアムソン選手ヘディング流れ
5フォートン選手回収・ドリブル・クロス→2カー選手クリア。スローイン。
3本目 (94:4 ポインタ2:10:52) 右CK 密集陣形 11ウィア選手2カー選手ヘディング
10カービー選手回収クロス→7キャトリー選手コボレ→9ホワイト選手シュート・GKマイカ選手ファインセーブ。再コーナー。
4本目 (94:42 ポインタ2:11:30)  右CK 密集陣形 11ウィア選手7キャトリー選手ヘディング
5ホートン選手クロス→14ブライト選手シュート。外れてGキック。

 



5本目 (112:29 ポインタ2:32:32) 左CK クイック・ショートコーナー 10カービー選手11ウィア選手クロス→6ロガーゾ選手11ファウラー選手クリア
GKローバック選手回収・再組み立て。
6本目 (113:44 ポインタ2:33:47)  右CK 密集陣形 11ウィア選手12カーペンター選手ヘディングクリア
6イングル選手回収→17スタンウェイ選手10カービー選手11ウィア選手クロス→9ホワイト選手4ボーキングホーン選手。再CK。
7本目 (114:19 ポインタ2:34:23)  右CK 密集陣形 11ウィア選手7キャトリー選手ヘディングクリア
10カービー選手回収・クロス→9ホワイト選手ヘディングシュート。ゴール!
8本目 (118:39 ポインタ2:38:43) 左CK 密集陣形 10カービー選手14ケネディー選手ヘディングクリア
6イングル選手回収・クロス→Gラインを割る。Gキック。



c)全般的な印象と特記すべきプレー

イングランド代表は、ゾーンディフェンスに対し、ゴールエリア内に6人の攻撃選手を入れて来た。
ちょっとした工夫として、一旦ゴールに近い目にセットした後、キック直前にGエリア枠線辺りまで下がっている。
6本目 (113:44 ポインタ2:33:47)が最もわかりやすいので、図にしておく。



イギリス代表の攻撃意図は、以下の理屈なのだろう。
①守備陣をゴール方向に寄せておくため、最初はゴール近くまで入る。
②その状態からキック直前に少し下がるのだが、オーストラリア代表のようにゾーンディフェンスだと、付いてこない可能性が高い。
③ゴールエリア線上あたりまで下がれば、その外側に広く空いたスペースがあるので、そこでのヘディングを狙う。

攻撃各選手は、基本的には場所取り合戦から、スタンディングジャンプ合戦を挑んでいる。
メインターゲットは、おそらくエース9ホワイト選手のニア。
6本目のように、最初からニアで場所を取っていたり、ゴール正面辺りからニアポスト前へと走り込んだりしている。

対するオーストラリア代表は、なんら対策を打たなかったが、危なかったと私は思う。



B.オーストラリア代表のコーナーキック


a)体制

キッカーは、9フォード選手(右利き)7キャトリー選手(左利き)。
受け手は以下の体制で始まっている。

・ニアへ: 17サイモン選手
・正面からファー: 2カー選手14ケネディー選手
・ニアポスト前:13ヤロップ選手10エグモンド選手
・GK脇:7キャトリー選手
・ショートコーナー: 5ルイク選手
・コボレ狙い:  16ラソ選手
・セーフティー:  12カーペンター選手


b)結果概要

1本目 (5:25 ポインタ15:45) 左CK 9フォード選手13ヤロップ選手
9フォード選手回収・クロス→16ウィリアムソン選手ヘディング→11ウィア選手持ち上がり。
2本目 (34:27 ポインタ44:47) 右CK 7キャトリー選手14ケネディー選手ヘディングシュート。ゴール!
3本目 (45:45 ポインタ1:12:12)  右CK 7キャトリー選手9フォード選手シュートミート出来ズ・混戦→12デーリー選手クリア
5ルイク選手回収・モドシ→GKマイカ選手
4本目 (60:49 ポインタ1:27:17) 左CK 9フォード選手11ウィア選手ヘディング→15ヘンプ選手競り
5ホートン選手回収・フィード→GKローバック選手キャッチ。
5本目 (86:40 ポインタ1:53:7)  右CK 7キャトリー選手16ラソ選手ヘディング叩けず→15ヘンプ選手ファール。



c)全般的な印象と特記すべきプレー

オーストラリアの基本戦略は、ニアポスト前7~8m付近狙い。
2カー選手17サイモン選手が走り込んでのヘディングがメインターゲット。
そのスペースを確保するために、ニアポスト前に13ヤロップ選手10エグモンド選手を立たせ、2ブロンズ選手5ホートン選手を出られないようにしている。

それを察知したイギリス代表は3列目の対応を変え、さらに2列目のポジションを見直している。

ア)1本目 (05:25 ポインタ15:45)
 

ニアへ走った17サイモン選手の1・2歩目を4ウォルシュ選手がカットしたが、2ブロンズ選手5ホートン選手が出られずに、引き継げなかった。
17サイモン選手はフリーとなっている。

イ)2本目 (34:27 ポインタ44:47)
 

1本目の結果を受けて、オーストラリア代表の意図を読み取った4ウォルシュ選手は、今度は17サイモン選手のマークを放さず、ニアサイドまでついて行っている。
11ウィア選手2カー選手についてニアサイドまで走っていて、

この2人の対応は、事前準備(指示)があったとしか思えない。

ボールは、ゴール正面で14ケネディー選手がヘディングしてゴールとなるのだが、配置と動きを見れば、あくまでも狙いはニアポスト前で、このゴールは副産物的なモノ。



14ケネディー選手が、バックステップして3ストークス選手をセパレートしたのは上手かった。
バスケットボールで言うところのフェイド・アウェーですね。

逆にイギリス代表の守備から言うと、159cmの3ストークス選手がこの位置で、176cmの14ケネディー選手との競りになっているのは、マズイ。
3ストークス選手としては、
14ケネディー選手をスクリーンアウトして、背負ってしまう。
14ケネディー選手が走り込んで、ランニングジャンプでヘディング出来ないように、ブロックしてタイミングをずらす。
の順で守るべき。


14ケネディー選手の1・2歩目を潰しにかかればいいのであって、3歩目以降は引き継げる味方がいたので、任せた方が良かった。
16ウィリアムソン選手(170cm)や12デーリー選手(167cm)なら、もう少し競れたはずである。

まあ結果論だが、1本目のニアの状況を見て、イギリス代表の3列目は「最後まで付く」と言う方針変更をしたのだが、
その範囲をニアだけとし、数的優位な正面~ファーまで適応したのが失敗だったと言うことになる。


ウ)3本目 (45:45 ポインタ1:12:12)以降
 

ハーフタイムを挟んで指示が出たのだろう。
2ブロンズ選手5ホートン選手が下がって、13ヤロップ選手10エグモンド選手の外側に位置した。
13ヤロップ選手10エグモンド選手は良いポジションを取れたので、それで満足したのか、受け入れている。



 以上です。

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結果 - 女子準々決勝
https://olympics.com/tokyo-2020/olympic-games/ja/results/football/results-women-qfnl-000100-.htm

NHK動画
サッカー 女子準々決勝 イギリス 対 オーストラリア
https://sports.nhk.or.jp/olympic/highlights/content/88ddb988-7c01-4fba-9aa9-fb83fa7b7caa/