
「ただいま、教子さんいますか」
玄関を勢いよく開けて、元気な娘が帰ってきた。
教子の一人娘、優子だ。

「お母さんと言いなさいといつも言ってるでしょう」
「教子さん、これなんなの」
「あっ、これモフモフ。押し入れにいたのだけど、住み着いちゃった」
「危険じゃないの」
「人畜無害だけど、役にも立たない」
「役に立たないなんて、酷いですよ」
「でも、優子にも見えるんだ。他の人には見えないのだけどね」
「なんかビックリしたら、喉渇いちゃった」

「お母さんなんて、小学生でおしまいです。女同士対等だから、貴方も私のこと優子というでしょう。娘って言わないでしょう」
「それは親だもの名前で呼ぶでしょ、優しい子になって欲しいと優子と付けたのに、文句を言う子になってしまって」
「それは教子さんの教育のせいですから、私に言われるのは困ります」
「コーヒー美味しい」
「でもなに、これ、話すの。それに、他の人には見えないの教子さん」
「そうみたいよ、外に付いてきても誰も何も言わないから」
「へぇ、そうなんだ。でも、鬱陶しいわね」
「そんな、冷たくしないで下さい、優子さん」
「ところで、今日はどうしたの」
「別に用事は無いのだけど、様子見に来たの。倒れていたりしたら大変でしょ」
「あら、優しいね、そんなわけ無いでしょう。何があったのよ」
「本当に何も無いわよ、ただ、この家がどうなっているか気になりまして」

「また断捨離の話。その話はしませんよ、この年で思い出の品を捨てろと言われるのは虐めですよ」
「虐めだなんて、教子さんがいなくなったら私がこの家なんとかしないといけないのですから、片付けてくださいよ」
「後片付けはしません。私が亡くなったらみんな捨てれば良いのよ」
「それが大変なのよ、私一人で後片付けなんて、ちゃんと片付けておいてよ」
「ヤダ、そう言われて片付けようとしたけど思い出の品ばかりだから、捨てられません」
「ガラクタばかりでしょ、骨董価値がある物ならまだしも、何に価値もないのでしょ」
「思い出という価値があります」
半日ほど親子げんかして、優子さんは家に帰っていきました。

「娘さん、怒ってましたね」
「いいのよ、あんなのいつもだから。会社で何か嫌なことでもあったのでしょう。本当は会社辞めようとかの相談に来たのだけど、あんたがいたら言い出しにくかったみたい」
「僕のせいで喧嘩」
「照れ隠しの喧嘩よ。喧嘩できるうちはお互い大丈夫」
「そんなもんなんだ」
「そう、そんなもんよ。でも、あの子もあんたが見えるのには驚いたわ。血筋でも影響してるのかしら」
「僕、分からない」
年寄りに断捨離、終活は憂鬱になります。
思い出のなにもない生活には耐えられないので、無理強いしないで欲しいです。