紅楼夢の物語は一度読んだだけではなかなか直ぐに理解できない、何しろ超長編なうえに登場人物の数が多い。
貴族上流階級の日常生活が描かれているのだが、登場人物も350人を 超えるのでその名前と役割などを覚えるだけでも大変だ。
しかも苗字・名前が似ている(中国の苗字の数は日本に比べて極端に少ない)うえに馴染みがないので、覚えにくく読者として、その人物のイメージがつくりにくい。
英語の名前でも ジョン・ジョージ・ジャネット・ジョウ・ショーン・シャネル・・・など。似ていても、それなりにそれぞれの人物について読者としてのイメージはある程度はつくりやすいが、中国語名の場合 漢字なので日本語の読み方に馴れているだけに例えば宝玉と宝釵の場合など宝(たから)の字にこだわりがあるなどして、イメージがつくりにくい。
350人の名前が登場してくる大長編の物語だからそれぞれのイメージ(記憶)づけが大変である。中国四大名著だけに、時間をかけて読み返しながらの大人的な読書姿勢が必要なのだろう。
この小説で、賈家の家長賈政の長女である賈元春は、 皇帝の貴妃となり、賈家に繁栄をもたらし、その里帰りを記念して皇帝より大観園が作られたというのが物語の舞台 となる大観園である。栄華を極めた一族だが(皇帝貴妃の)娘が病に倒れ31歳で薨去し、 賈家は滅亡の一途を歩み続けるという物語である。
この大観園で栄国邸の賈宝玉と林黛玉・薛宝釵ら12人の美女がからむ物語で、大貴族の華やかな生活の底に潜む腐敗やその心理描写が、巧みな筆裁きで中国の人からは理解しやすい物語になっており古来多くの人たちに読まれ親しまれている。
古典小説でもある紅楼夢は上流階級の賈家の賈宝玉を主人公とし、 繊細な神経で涙にもろい美少女の林黛玉と 賈宝玉の妻となる薛宝釵の三角関係の中で物語は展開して行く。当時の中国貴族の上流階級の生活を描きながら主人公たちの交わりを書いている。
小説紅楼夢の特徴はストーリーに織り込んだロマンではなく、 大貴族の息子や娘の揺れ動く心が繊細に描写されている点である。 三国志や水滸伝対して紅楼夢の文学は男女の情を追求している。また賈宝玉たちは儒教道徳や官僚の腐敗、不正に対する痛烈な批判を口にし、官僚としての出世のコース科挙試験を何度も拒否し受験しなかった。
だが賈宝玉は薛宝釵を妻に決め、挙式の当日に病床の林黛玉は、寂しくこの世を去る。この頃から、無常を感じた賈宝玉は、 科挙試験の勉学に打ち込み、官吏登用試験の科挙に合格する。 最後には薛宝釵を家に残して家を出て姿を消してしまった。
紅楼夢は毛沢東が「歴史小説」として読むように勧め 毛沢東自身も紅楼夢を手放さなかったと言う事も有名な話である。
紅楼夢は貴族上流階級の日常生活が描かれ、登場人物も350人を 超える人々を起用するという大きな規模の物語だが、1984年にテレビで放映されたことでより多くの人々の理解が得られて、更に文化史的価値が高まっている。
男女の人情を描いた中国の古典長篇小説として恋愛模様が、プラトニックに徹し情感も洗練を極めている点でも人気を集めた。
紅楼夢に描かれた天上界の、 遣香洞では警幻仙姑という名の仙女が治めており、遣香洞では、神瑛侍者(賈宝玉)が毎日、絳珠草に甘露をかけ、お陰で絳珠草は、林黛玉として生まれ変わる。草木が人に生まれ変わる転生を書いたものでもある。
賈宝玉として生まれ変わる神瑛侍者が下界に下り、後を追うように林黛玉も下界に下り、賈宝玉と何らかの縁がある他の仙女たちも、続々下界に降り、薛宝釵、賈元春・迎春・探春・惜春ら美女12人の、 金陵十二釵の物語を書き綴り、輪廻を繰り返す生命をも語っている。
過去世から転生した賈宝玉はじめ金陵十二釵の彼女らは運命に、導かれて都の大貴族・賈家のもとに大集結し賈宝玉は小さい時から、女の子と一緒に遊ぶのが大好きで、立身出世や科挙の勉強を嫌い、 官僚たちの事をあまり良くは思っていない。祖母の史太君の、 寵愛も度を過ぎ我がまま放題で育ち、聞き分けのない貴公子だった。
賈家の長女の元春妃が帰省のために大観園が造園されると賈宝玉も姉妹の迎春・探春・惜春達と大観園に移り、大勢の女性たちに囲まれ、好き放題に遊び暮らす毎日に、探春の発案でサークル海棠詩社が発足。 艶やかに詩を詠み競う彼女らの姿は賈家の栄華の絶頂を思わせた。だが賈家の経済と命運は音を立てて崩れて悲劇的結末を迎える。
賈宝玉や金陵十二釵の彼女らの運命は、太虚幻境の薄命司の、中に納められた「金陵十二釵正冊」に未来の事が書かれていた。
賈宝玉には父方の林黛玉と母方の薛宝釵の二人の女性がいた。二人は境遇や性格は対照的で、薛宝釵の家庭は商人で裕福だが、林黛玉は父母を亡くし、賈家に身を寄せて生活していた。
薛宝釵は商人の家に育ったのか周囲に配慮が行き届くのに対し、林黛玉は過敏で疑い深く、自分の運命に不安を感じ日々泣き暮す。
林黛玉は前世の因縁により賈宝玉のもとに生まれ心から尽くしたが 薛宝釵と結ばれる運命にあり林黛玉と賈宝玉は結ばれる事はなかった。
林黛玉は一生で流す涙を流し、その使命を終え、賈宝玉と薛宝釵の、結婚の時刻に息を引き取る。賈宝玉は再び夢に太虚幻境を訪ね、全ての因果を悟り、薛宝釵を捨てて出家し行方知れずになる。
小説紅楼夢は述べてきたように 栄国邸の貴公子・賈宝玉(か・ほうぎょく)と彼をめぐる林黛玉(りん・たいぎょく)、薛宝釵(せつほうさ)ら12人の美女の物語です。
次週はこれら12人の美女たちのプロフィールについて見ることにましょう。