元を辿れば昨年の11月に見る予定だったsumikaのライブハウスツアーである
去年の横浜スタジアムワンマンのあと、このライブハウスツアー「SING ALONG」を経て、ホール・アリーナツアー「FRIDAY CIRCUS」と続く予定だったが、片岡(Vo. & Gt.)の喉の不調でツアーが中断
「ダンジョン飯」の主題歌だった「運命」を収録した「Unmei e.p.」をリリースしてからツアーが再開されることになった

去年は横浜スタジアムでワンマンをしているバンド故にチケット完売は当たり前
元々仕事帰りに見ることを想定し、2階席を確保していたが、その2階から1階を見ると隙間を見つけるのが難しいくらい客席はパンパンである 

定刻ほぼちょうどにゆっくり暗転
「FRIDAY CIRCUS」から使用されているだろうリアレンジされた「ピカソからの宅急便」がSEで流れ、片岡達が一斉に登場

Gt.:上口浩平
Ba.:須藤優(from XIIX)
Key.:George(from Mop of Head)
Cho. :Nona
Cho. & Gt. :三浦太郎(from フレンズ)

からなるお馴染みのゲストメンバーも登場するが、ぴあアリーナ初日に見た際、NonaはLiSAのワンマンと被っていたので不参加
ベースも井嶋 啓介だったので須藤がsumikaのライブに参加した編成で見るのは久々

「持たせてしまってごめんね、sumika始めます‼」

と公演が昨年の11月から約半年近く待たせてしまったことを片岡は冒頭に謝罪するが、昨年のハマスタワンマンから地続きのようにこのツアーが始まっているからだろうか
最初に投下されたのはsumikaのテーマソングのようなものである「雨天決行」
ハマスタでは冒頭の「雨天決行」で、持ち主を失ったギターがモニターに映されたのがあまりに辛かったが、最後にもう1度やった際はグッとなってしまった曲
それを最初にやるのは改めてsumikaを続ける決意だろう
ギターソロは昨年からsumikaを支えている上口にバトンタッチしたが、ラスサビの

「やめない
やめないんだよ まだ
足が進みたがっている」
「やめない
やめないんだよ ただ
楽じゃ終わりたがってく」
「やめない
やめないんだよまだ
終わらせない為に歌う」
「やまない 止まない
雨の中で」

はあの時と同じく、客席にいたるあなたに歌わせるアレンジに
このツアーのタイトルは「SING ALONG」
ハマスタで発表された際に、

「おかえり 歌声」

とキャッチコピーが付けられていたように、発声を促すツアーになることは想像がついていたが、冒頭からこの合唱は感傷に浸ってしまわざるを得ない
序盤なのに全て持っていかれそうなワンシーンである

先日のぴあアリーナもそうだったが、今のsumikaは明日のことを考えずにやる
それは身近な人の死を受け、明日も生きていられるかは分からない
いつ死ぬか分からないから、悔いのないように生きようとしているからであり、

「今日が最後のつもりで歌います!!」

と宣言した片岡はハンドマイク(代わりにギターは三浦)となり、「Flower」で客席中から花を咲かせていくのだが、最後ということはツアーファイナルも同様
しかも片岡達は神奈川の出身だからホームタウン
それもあって、

「ツアーファイナル、そんなものですか!?」

と片岡は発声を煽りまくり
最後のつもりでやっているのだから、妥協はさせないということでもある

片岡がハンドマイクからギターにスイッチし、上口とともに和のテイストを漂うギターリフを弾く「1.2.3..4.5.6」は合唱しながらカウントするのが楽しいし、Nonaはタンバリンを叩きながらコーラス
三浦もステージ後方のロゴを指すようなアクションをしているのが面白いが、サポートメンバーの中では今年最も目撃しているだろう須藤はやはり事あるごとにベースを天井にむけてかがけている

バロン(Dr. & Sax.)の手数多いビートや言葉数の多い歌詞が情報過多の現在らしい曲な気もする「何者」とアッパーな曲を続けたあと、片岡は公演が延期になってしまったことを謝罪するが、

「来れたあなたが来れなかったあなたに届けるように‼」

と公演延期によって参加できる人もいれば、参加できなくなった方もいるので、参加出来た方が参加できなかった方に届けるように促すが、

「去年よりも何倍も良いものをやります‼」

という宣言は、中断される前のツアーよりもバージョンアップしたsumikaを見せるということ

それを証明するように「ソーダ」でボーカルを担当するのは小川(Vo. & Key.)
パートチェンジは2022年のFC限定ツアーから見られており、「Ten to Ten」のツアーでも行われていたが、[roof session]が再始動した2023年以降、パートチェンジは増えた
小川が短期間の間に大きな経験値を得て、歌唱力は大いに高まったからだ
片岡が伸びのある声を出すのに対して、小川は大きく聞き取りやすいボーカル
メインボーカルが片岡が歌えないのはとてつもないピンチ
しかしsumikaはそのピンチをむしろ活かし、バンドを進化させた
壁にぶち当たってもsumikaは止まらずに小川の成長に繋げた
片岡たち3人は逆境に強すぎる

UNISON SQUARE GARDENの斎藤とバンドXIIXをはじめ、色んなアーティストのサポートを行う須藤がなぞるベースラインで牽引しつつ、合唱や手拍子の裏で毒をぶちまける「ライラ」の直後には「Unmei e.p.」に収録されている新曲の「Poker Joker」
作曲を手がける小川は新たに導入したと思われるシンセを演奏していたが、直前の「ライラ」より不穏にきこえるのは、土台がハードロックにあるからだろうか
ちなみに「Poker Joker」は最新EP収録曲なので、当然中断前のツアーではやってないが、ここまでのセットリストはほほそう取っ替えになっていたりする

地元神奈川でのライブということで、片岡は初めて小川と出会った頃の話をするのだが、どうやら2人はBAYJUNGLE(BLUE ENCOUNTの辻村勇太がアルバイトし、2016年のツアーでは凱旋。なお現在は閉店状態)のイベントで出会ったようだが、当初2人はバンドしてなく、水ではなくアルコールを飲みまくっていたらしく、しかも小川は人生初のカバーとして清竜人の「痛いよ」をカバーしようとしたところ、何度も失敗した挙げ句、断念したらしい
「痛いよ」は清竜人の初期の名曲
まだ清竜人25やあの問題作「MUSIC」が世に放たれる前の作品
時期的には10年代に入る前か、入った後だろうか
ちなみにバロンはライブハウスなのに、パスタを提供する会場のことをよく覚えている模様
てっきり7th floorかと思ったが、違う模様

そんな思い出話を経て、またも新曲
「いつかの化け物」は小川がメインボーカルを務める曲だが、小川の声量はとてつもない
アリーナであっても、最後尾までしっかり届く声
すなわちライブハウスなら余裕綽々で浸透する声ということだ
今後、小川がメインボーカルを担う曲はますます増えるだろう
それに伴って小川の声も更なる進化を遂げそうだ

すると「Chime」に収録されていた「Monday」はドラムを打ち込みに変え、バロンがサックスを披露する特別編成
去年のCDJ23/24にて、「Babel」でバロンがサックスを吹き始めたことには大いに驚いたが、「FRIDAY CIRCUS」でもバロンはサックスを何曲か吹いていた
今やバロンのサックスはsumikaに欠かせない武器となった
以前sumikaはOfficial髭男dismとツーマンしていたが、ベーシストでありサックスでも楢崎とサックスで共演するのも見てみたい所存

するとここで片岡がステージを後に
「FRIDAY CIRCUS」でも抜ける場面があったし、序盤片岡はあまり声が出てない場面があった
もしかしたら片岡はまだ100%ではないのかもしれない
故に休みを入れている可能性もあるが、代わりに中心となった小川がこの日の参加者に誕生日を迎えたものがいるか調査を行い、実際に少なくとも1人はいたのだが、

「1000万差し上げますので、後ほどお楽しみに!!」

と祝福するも、そこから対象をどんどん拡大
最終的に参加者全員に拡大するので、

「300年かけて返します!!」

なんて言い出したが、その頃には会場に集った人間は間違いなく現世にはいない

そのうえでこのMCは次の曲への繋ぎであり、参加者全員を祝福する「Happy Birthday」は須藤がウッドベース、バロンがサックス、小川が鍵盤とボーカルというアコースティックのような編成に
しかも三浦たち他4人はステージを去らず、じっと見守っている
担当パートが無くても、ステージにい続けるのはたとえ音や声を出さずとも会場にきたあなたを祝福したいからと思われる
本当に素晴らしいゲストメンバー、並びにあなたが帰ることが出来る住処を作り出すバンドだ

片岡が戻ってくると、

「俺も1000万(笑)」

と大金を小川から貰う気満々でいるようだが、

「不思議だよね、前までは他人だった人がこうして繋がる。音楽を通して他人だったあなたとも繋がった。そういう曲を。」

と片岡がボーカルを努めた「卒業」へ

リリース前にTik Tolkのアカウントで卒業シーズンに合わせて公開されたので、卒業ソングとしての側面もあるだろうが、もう1つの姿はあなたとの出会えたことへの肯定
他人だったものが交わることが出来た喜びが描かれている
同時に片岡の声の伸びは凄い
そこにはエモさも充満しており、片岡がしっかりライブ出来るようになって良かったと思っている
失われてはならない声だから

どちらかと言えばじっくり聞くゾーンを終え、場内には壮大な同期(と思われるもの)が流れると、バロンが手数の多いドラムとともにキメを連発する「ペルソナ・プロムナード」から後半
ただ、これまでと同じように「ペルソナ〜」をやるのではなく、ボーカルは小川にスイッチ
それも特に告げることなく、しれっと始まっているので音源だけ聞いたら分からない方もいそうだ
そのうち小川ボーカルの曲を片岡がやっても不思議ではない
sumikaは自らの可能性を己の力で更新している

須藤のゴリッゴリなベースとバロンのビートに合わせてステージのほぼ全員が飛び跳ねる「Porter」は、イントロがチップミュージックっぽくなり、第2の鍵盤ことGeorgeによって更にアップデートがなされているが、片岡と小川がハンドマイクになってステージを駆け回る「マイリッチサマーブルース」ではよく見ると、上口が須藤やGeorgeに「前へ行け」みたいに促されており、「いやいや」と上口は断っているのだが、そしたら今度は三浦に飛び火というあまりにシュールな状況(笑)
このやり取りは定番化しているのだろうか?
片岡と小川は途中で追いかけ回していたけど(笑)

「なんかあの人歌わせてたり、腕上げさせたりするから疲れちゃったよ‼…あるじゃないですか?皆さん、タイトルコールお願いします!!」

と定番「ふっかつのじゅもん」は、片岡によるあまりにうますぎる前説からタイトルコールさせるが、ギターソロの場面はメンバー紹介も兼ねた各々のソロ回しに変更
ツアーによって黒田がかつて担っていたギターソロはこのように変化していくものだと思われるが、そのソロ回しの最後では、

「ここにいるあなたも含めてsumika」

とあなたなしでsumikaのライブは成り立たないと片岡は説明
発声が出来ない状態のsumikaのライブももちろん良かったが、片岡達にとってsumikaのライブは発声があってこそなのだろう
「SING ALONG」はあなたの発声がどれだけ重要かを強調するツアー
発声解禁を喜ぶだけでなく、そうしたテーマも存在しているような気がする

「言葉って難しいですよね。SNSが普及してから尚更。炎上しないように言葉を美化する。そうしたら上手く伝わらない。言葉も箱のようなもので、箱以上には響かない。」

と今日の言葉の難しさについて話す片岡

来る日も来る日もSNSは些細な一言で炎上
燃えないようにするためには、言葉を丁寧にすることを心がける必要がある
でもそしたら、何を伝えたいかが分かりづらい
今日のコミニケーションは簡単ではないが

「けど音楽は想像以上に響く。だから俺は音楽が好きです。」

と話すように音楽は届きやすい
歌詞を検閲されることなく、伝えたいメッセージを届けられるからだろう
音楽に制約はほとんどないから伝えたい言葉は届きやすい
だから片岡は音楽が好きなのだろう

「去年歌えなくて。ツアータイトル、シンガロング。俺はあなたと歌えるのが1番好き。音楽をしている時は幸せな人間。そうじゃない時は駄目だから。冷凍ごはんの解凍失敗するし、あずきバーは硬いし(笑)…幸せな人間の生き方を見てください!!何かあったらまたライブハウスへ‼」

とあなたと合唱する時、音楽をしている時が最も幸せであることを話し、残り2曲であることを伝えるが、

「どこ歌ったっていいよ。俺がそれ以上に歌うから‼」

と叫んでからの「イコール」は、まるでステージとあなたとの距離はないと言っているようなもの
ステージとあなたを結ぶ、そんなワンダーブリッジになっている

そしてラストは片岡が声を出すことを強く望んだ「Phoenix」
去年の秋のツアー開始直前、まるでジャクソン5のようなモータウンサウンドが盛り込まれたこの「Phoenix」が配信された
急だったので驚いたけど、歌詞を見ればすぐに分かった
これは合唱出来ることを喜び、音楽を共有することを強くライブ讃歌だと
ぴあアリーナでやった際と同じく、途中でバロンはサックスを吹いたりもしたが、

「明日からはまた仕事や学校!俺たちだって平時はキツイ!だから頑張れるためのものを‼」

と片岡はこのライブを日々を生き抜くための動力源にすることを促し、

「またここで会いましょう‼」

と再会を誓い合って本編を終了

アンコールで戻ってくると、

「もう少しやりたい?奇遇だね。俺も!」

と片岡は告げ、最初から合唱を煽ってきたのはsumikaの分岐点となった「Starting Over(この曲のみトリプルギター)」
演奏される度に大合唱が起こり、その度にsumikaのストーリーが続いてくことを感じさせるが、

「喜びや悲しみや
苦しみも全部持って
憧れや羨みも
隠さずに持っていって」
「諦めのその逆を
血の滲むような強さで
抱きしめて捕まえて
もう二度と離さないで」

の部分はメロディーを鳴らすことなく、合唱のみで

ライブハウスだからモニターは当然無い
会場に鳴り響くのはsumikaとあなたの声のみ
この日最も印象に残るだろう場面である
今後このアレンジはフェスでも流れる可能性があるが、メロディー一切無しで合唱する場面はきっと忘れられない

そしてラストは既にフェスでも定番となっている「運命」
変則的なリズムと共に合いの手を入れ、サビで壮大なアンセムに様変わりするのが楽しい1曲だが、

「勇者になんてないないし
賢者にも遠く」

の通り、勇者にも賢者にもなれない
第一現実にはダンジョンだってないのだから
なので出来ることは

「僕は僕だけのジョブを
生きていこう」

これはあなたを、現実で戦えるようにするアンセムでもある
そうして翌日以降を生きていけるようにして、送り出す
そんな夜を例えるならマイライフイズ共演さな一夜だった

sumikaの楽曲は合唱出来る曲が多いが、このライブハウスツアーは特に合唱している時間が多い
合唱出来る喜びを分かち合っている
そんな感想を抱いた
sumikaのライブに参加している時間は幸せな時間だった

このライブレポを書いている最中、自分の中で特に思い入れがあるバンドが無期限活動停止を発表
そこから全くレポが書けなくなってしまった
けどどのアーティストも完全無欠じゃない
長期休養に入ることもあるし、完全終了することもある
それはsumikaだってそう
だから自分が好きなアーティストとは、出会えてよかったと思える運命になりますように、そうこのKT Zepp公演を通じて思った

セトリ
雨天決行
Flower
1.2.3..4.5.6
何者
ソーダ
ライラ
Poker Joker
いつかの化け物
Monday
Happy Birthday
卒業
ペルソナ・プロムナード
Porter
マイリッチサマーブルース
ふっかつのじゅもん
イコール
Phoenix
(Encore)
Starting Over

運命


※前回見たsumikaのワンマン