タイトル︰「PORTRAIT
アーティスト︰フジファブリック
PORTRAIT (完全生産限定盤) (特典なし)

 

「桜の季節」でメジャーデビューを果たしたフジファブリックは今年でデビュー20周年
大阪城ホールワンマンが今から5年前
それもコロナ禍に入る前、最後の遠征だったので昨日のように覚えています

そのフジがデビュー20周年の今年、「I LOVE YOU」以来実に3年ぶりとなるアルバム「PORTRAIT」を発表
ツアーはコンスタントにやっていたし、新曲も定期的にリリースはしていましたが、アルバムがそんなに出ていなかったのかと、改めて思ったりしています

タイトルの「PORTRAIT」とは「肖像画」
山内もこのアルバムについて、「肖像画として「フジファブリックはこれだ」」と話していますが、フジのイメージといえばファン歴が長い方程、「変態ロック」のイメージ
そう、「若者のすべて」のイメージが世間で強いのに対し、この「PORTRAIT」は待ち望んでいたコアな部分に焦点が当てられた1枚です

なにせオープニングの「KARAKURI」から一筋縄ではいきません
フジの既存曲で言えば、「WIRED」から「蒼い鳥」に映っていくような感じですが、金澤がロッキンオンのインタビューで「ジャパニーズプログレ」なんて称してしまうくらい変態
一見イントロの低音がベースと思いきや鍵盤だったり、ドラムの手数の多さ、更にはラップ…
フジにしか出来ないようなシュール極まりない世界観です
山内が「「自分たちの居場所はここです」という意思表示」を音楽ナタリーのインタビューで話してますが、あながち間違ってません
こんな変態ロックやるバンド、メインストリームでは他にフレデリックくらいでしょう(笑)

続く「ミラクルレボリューションNo.9」もそうでしょう
ダンスミュージックがベースになっているのに、キメやシンセリフが強烈すぎて、世間の抱くダンスミュージックとはかけ離れる…
山内もそれを狙ったようですから、まさに狙ったりな1曲
今なお独自のレールを進んでいっているともいえます

しかもそうした変態ロックに、

「さらけ出せよ どこまでも
やり場ないこの 怒りをさ
再会の日 待ち侘びて
すがり付いても 祈ろう祈ろう
神よ仏よ」※「KARAKURI」
「ミラクルキャッチして どれもこれも欲張っていこう
どうにでもなっていけ 世迷ソウル砕かれないないや
君に届けたら 鮮やかな日迎えるだろう
叶うなら持っていけ you are my soul 共に行こう
なにがなんでもさ」※「ミラクルレボリューションNo.9」

とシリアスなフレーズやメッセージを載せる…
尚更存在感抜群でしょう
この路線を継承できるバンドはいるのかと

しかも変態ロックな一面を見せるだけでなく、王道もこなせるのがフジ

「ほら、あなたの言葉も 笑顔の魔法も
僕には失くせない宝物さ
見えるものはポケットに 見えないものは心に
また優しく響いた 泣きそうになった
ああ 未来は滲ませながら 新しくなるよ 新しくなるよ」

とバンドが抱くリスナーへの思いを綴り、歪んだギターに太いベースラインとロックバンドらしアンサンブルを見せつつ、鍵盤がキャッチーなポップに導く「プラネタリア」

「弾けた泡みたいに 気泡が生まれていく
何度でも始まりさ」

と何度でも始まりが来ることを示唆しつつ、重心低めなベースラインで踊らせる「Particle Dreams」
「みんなのうた」に提供された曲ながらアイリッシュやcountryなど情報量多め
なのにポップに中和する「音の庭」など先行シングルで王道をゆく姿は見せているでしょう

更にフレデリックとコラボした「人見のランデヴー」はフジとフレデリックの音楽性をドッキング
1つの曲に2つの世界観が混在…
それは一見情報が集中しすぎるようにも見えますが、聞きづらい方には行かない
それもフジの手腕とも言えます

一方で新曲たち
タイトルトラックにもなってる「Portrait」
デビュー15周年の際にリリースされた「F」には山内が故郷や志村正彦、山内のソロアルバムにはよりディープに志村への思いを歌った「白」が収録されてました
そのソロアルバムリリース時に「Portrait」は存在してたとのことですが、歌詞を書いたのは加藤
「山内以外のメンバーでフジを表したかった」山内の思いを代弁するように、そこには

「自分のためだよと 思ったことが
いつしか誰かの ためになりたいと
何かと比べたり 迷ってたなら
大丈夫だよと 背中を押すよ」、
「空っぽな僕が 何者かになれたのは
同じ景色を 見てきたからさ
映るものが 全てじゃないけど
清濁携えて 刻まれていくよ」

とファンへの想いが鮮やかなメロに載せて歌に込められています
あなたが聞いてくれるからフジが活動出来るし、奇想天外の曲も生み出される
周年イヤーだからこそ相応しい曲と言えるのでは無いでしょうか

ヒップホップに近い感じでベースラインが太く、鍵盤に浮遊感がある「音楽」には奥田民生やサザンが出てきたりしつつも、

「音楽聴けるだけまだマシなのかな 今日がダメでも明日はどうだ
そんな思いにさせてくれて 僕を救済する」

と体調不良時に湧き出た本音が記されていたり、FC限定ライブでお披露された際には「口トロンボーン」なるワードを爆誕させたものの、

「人生は 嗚呼どうして
こんなに こんなに
淋しさを連れる 淋しさを連れる」

と歌詞には山内が人生に対して抱いていたことを羅列した「月見草」とポップソングには山内の内心がよく出ている
これらはコロナ感染も影響したのでしょうか
コロナになったらメンタルも弱ってしまう
メロディーは心地よくても歌詞は重い…
「クロニクル」に収録されても違和感はない気がします

そして最後の「ショウ・タイム」、これが1番カオスです(笑)
何故か
最初ブルースだったのが途中でファンク、プログレに変わり、最後はブルースに戻るととてつもなく場面が変化する曲だからです(笑)
もしかしたらフジ史上最高難易度の可能性もありますが、山内はミュージカルのような曲を作りたかったようで…
それが実現したとのことですが、もう混沌しすぎでしょ(笑)

でもフジの核を山内たちは「ポップであること」、「チャレンジすること」と今回の「PORTRAIT」のインタビューで話してました
同じようなアルバムは作らない
それがフジファブリックというバンドです
今後もこの路線は続くと思います

今年のフジはツアーをやらないことを明言しています
もしかするとレコ発をやるのは来年、あるいはやらない可能性もあります
展望はまだ読めませんが、「PORTRAIT」のリリースツアーは絶対やって欲しい

そう願うくらいに「傑作」でした