令和を代表する大ヒット作品「東京リベンジャーズ」

口コミから徐々に評価を上げて、日本映画批評家大賞の2022年度アニメーション作品賞を受賞した「夏へのトンネル、さよならの出口」

これらの作品を彩ったのは女性シンガーソングライターのeill

以前からライブを見てみたいと思っていたミュージシャンである


そんなeillは昨年6月にデビュー5周年を記念して、EX THEATER ROPPONGIでワンマンを行っていたがそれから9ヶ月ぶりの国内ワンマンをZepp DiverCityにて開催

クレナズム、サバプロと、ここのところ見れなかったアーティストのライブをやっと見れる機会が続いている


チケットをギリギリで入手し、整理番号が1100後半近くだったことから察したように、Zeppはそんなに埋まってない(一部後方スペースは封鎖。去年見たアルカラやフジファブリックよりはまだ埋まっているが)

そのため1人1人のスペースは大きく感じるが、関係者サイドで来場される方は異常に多く感じる


定刻を少し過ぎた19時05分頃にゆっくり暗転

ステージは幕が貼られているので、全貌ははっきり見えないがステージに向かうメンバーがシルエットで映され、そこにeillらしき人物がいることもはっきり分かる


そうして準備を終えたところで「hikari」が始まるが、冒頭はeillの歌を引き立てるようなアレンジが為されており、透明なeillの歌がゆっくり会場に染み渡る

まるで祈りでも込めているかのように


一定の部分まで歌い上げると、幕も剥がれ白い衣装を身に纏っているeillの姿が顕になるが、サポートメンバーは


ギター:サトウカツシロ(from BREIMEN)

キーボード:レフティ

ベース:越智俊介

ドラム:松浦千昇

マニピュレータ:YosukeMinowa


という5人編成であり、レフティはもちろんOfficial髭男dismのサポートを担っているレフティ

山本健太のように色んなところでサポートをやっている気がするが、eillのライブではサトウと共にサウンドの骨格を担っている印象

R&Bよりのeillの楽曲をキャッチーにアプローチ出来ているのはこの2人の活躍あっての事だろう


「hikari」を終えると場内からは静かに拍手が生じるが、続く「花のように」でeillは、


「ヤバい!歌詞飛んだ!!」


と叫んでしまう程、冒頭でいきなりつまずいてしまった

ライブをほとんどしていなかった訳ではないが、国内でワンマンするのは冒頭で述べたように半年ぶり

その緊張が誘発してしまったミスかもしれない


とはいえすぐに立て直し、イントロからやり直すと、Yosukeが指パッチンを決めるごとに照明は青く光り、天使のような歌声に包まれる場内

アンサンブルも非常に繊細であり、その様子は簡単に散ってしまう花のようにも見える


神聖な曲が2曲続いたあと、デビューアルバムのタイトルにもなっていた「MAKUAKE」からは一気にギアチェンジ

ロッキンにも出演したことがあるBREIMENの佐藤のギターがアッパーに鳴らされるが、音源よりもEDMに傾倒したようなアレンジに変化しており、所々では激しいレーザーも織りなされる

本当の舞台はここから

そう言わんばかりのアクティブな演出である


また「palette」では越智がシンセベース、松浦が打ち込みのビートを刻んだりとエレクトロな一面をより見せるが、サトウのギターやレフティの鍵盤が際立つサビになると照明がカラフルに輝くように、全体を通してeillの曲はメロディーが良い

曲調的にR&Bにもカテゴライズされてしまいそうだが、R&Bと歌謡サイドの中間を歩める

それがeillの強みだと思う


挨拶するやいなや、先ほどのミスを謝罪するものの


「人生は最高のこともあれば悪いこともある。さっきみたいなことがあるのも仕方がない。」


と割り切るeill


「起こってしまったものは仕方ない」

そうすぐに切り替えられるスタンスを感じ取れ、「強心臓だなー」と自分は見えたが、久々にやるらしい「HUSH」で客席とのやり取りも楽しんだのも束の間、しれっとメドレーに突入

急にラテンテイストの「Succubus」に変化したので「これメドレーなの!?」と驚いた方は多いはず(普通メドレーは告知してから入るもの)

しかもそのメドレーも「初恋(Teleの「初恋」のようにそんなに内容はピュアではない」であっという間に終わるので「何が起こっていたんだ!?」な感覚に陥る

まさしく唐突なMAKUHIKI


そんな急な終わりに招かれるように、「happy ending」に移りゆくが、レフティの奏でるメロディーも、サトウの鳴らすギターもそこに幸福感はない

むしろあるのはドロドロとした不穏さ

何を持ってすれば、これを「happy ending」と名付けられるのだろう


サポートメンバーがステージを1度後にすると、eillの前には鍵盤が用意され、自身も着席


「去年の6月にも六本木でアニバーサリーライブをしたけど、大きな歓声を浴びれるのは幸せなことです」


とアニバーサリーライブを行った時よりも、歓声が大きくなっているからだろうか

eillは歓声を浴びれる喜びを噛み締めつつ、初めて来た方や久々に来た方にアンケートを取りながら、


「挙手してないひとは?(笑)」


と毒舌も発揮するが(笑)、


「嬉しいとき、頑張りたいとき、悔しい時、色んな時に私の歌を聞いてくれていると思う。今日はその思いに答えたいと思います。最後までよろしくお願いします。」


と自身の楽曲を聞いてくれる方の思いに応えたいことを告げ、「片っぽ」をアコースティックアレンジで


このアレンジは一昨年公開された「夏へのトンネル〜(以下夏トン)」の冒頭、塔野カオルが通学に向かうシーンにも起用されていたものだ

元々eillが主題歌と挿入歌を担当することは発表されていたけど、イントロで「片っぽ」が流れた際、eillを知らない方は「これは何?」と首をかしげたかもしれない

でも実際に劇場に足を運び、「夏トン」を見たものとしてはこれほど相応しい選曲は無いし、監督の田口智久が「この作品のためにあるもの」と称賛したほど

特にカオルの境遇を知ってから聞くと(カオルは妹のカレンを事故によって亡くしている)


レフティ達バンドメンバーがステージに戻り、ぼそっと


「ライブは楽しい」


とeillが告げた後は「プレロマンス」と「夏トン」に関連する曲が続く


カオルと花城あんずの関係が深まっていく最中に流れ、そのシーンは今でも思い出すことが出来る(流れている最中はロマンスの雰囲気はこれっぽっちも無いが)

ただこの日の「プレロマンス」は劇中のアップテンポな雰囲気は影を潜め、音数を非常に絞ったアレンジとなっていた

昨年のワンマン(キュウソネコカミのZepp Shinjukuと見事にバッティングしていた)や一昨年の夏フェスでは、原曲通り演奏されていたのだろうか


こうなると「フィナーレ。」も続けて演奏

こちらは音源に忠実でレフティが物語の終わりを匂わせるメロを鍵盤で奏で、そこにサトウが絵の具のように背景を付け足すのがとても良いのだが、「フィナーレ。」が流れるのはカオルがある人物と本当の意味で別れを告げた後

あんずがカオルの側に現れ、現実に帰っていくシーンがとても感傷に浸るのである

自分のように「夏トン」を通して、eillを知った方は多いはず

そうした方々にとって、この流れは「夏トン」を思い出させる演出になったし、あの名作を改めて多くの方に知って欲しいと心から思った(ちなみにサブカルブログには感想を掲載しているので、そちらも是非)


「夏トン」3部作を終えると、ステージ後方にスクリーンが

映されるのは最新楽曲「25」のPV

そこから「23」、「20」とどんどん時代を逆走していき、モニターに映るeillの姿も当然若々しく

「5年前からeill追ってた人凄いな」と思いつつ、この名場面プレイバックはただ過去を遡るではなく、「25」から始まる年齢シリーズのヒント

しかも普通なら「20」→「23」→「25」と現在に向かうのにeillはあえて過去に向かう

だから「25」で歌われるフレーズこそが今のeillなんだけど、昔に逆行していくのは初心忘れべからずといったeillのアチチュードのようにも思える

しかもサトウによる細かなギターリフはさることながら、松浦の生ドラムによって臨場感が増した「25」から、シンセベースからエレキベースに戻った越智とサトウによって轟音の壁を形成する「23」、K-POPを彷彿させるようなエレクトロポップに沿った「20」と中身も大いに違う

それだけeillの音楽の幅がどんどん広がったということなんだろうけど、どれもサトウのギターやレフティの鍵盤がいかに重要かを認識させる曲ばかり

ダンスミュージックが土台にあってもこれだけキャッチーに聞かせられる理由はここにあると思う


そうしてここまでを振り返ると、


「長い間続けていくと変わっていくものもあるけど、私は音楽をやり続けて良かった。私が歩いていければ道になっていく。そう思っています。」


とeillは自分が音楽を続けて来たことを肯定するが、直後に口にしたのは、


「私は自信のない人間だから「私の音楽なんて聞いてくれる人いない!!」なんて思ってしまう。」


という本音


2つのアニメタイアップのおかげでeillの知名度は大きく広がっているはず

それでもeillは自分に自信を持てない

ここまでストレートに自信の無さを伝えるシンガーも珍しいが、胸の内を隠さず明かすことで、


「でもこんなに私の音楽を聞きに来てくれる人がいる!

ここまで来れたのは皆さんのおかげです!!」


の意味合いも強くなる

自信を持てない方からすれば、少しでも支えてくれる人がいるのは大いにありがたいのだから


そうして支えられている人間だから、


「みんなが頑張っているのは知っています。だから私は「頑張れ」なんて言わない。

むしろ自分のヒーローになってください!!

あなたを救えるのはあなただけです!!」


は心に大いに刺さる

かつて[Alexandros]がリリースした「Kill Me If You Can」にも同様のメッセージがある

どんな状況になっても自分を支えてくれる最大の味方は自分自身

自分こそが自分の最大の理解者なのだ

成功するまで周りはとやかく言うだろう

心無い言葉もかけてくる

それでも断念したら奇跡も起こせなくなる

だから自分が自分のヒーローである必要があるのだ


そうして、


「SPOTLIGHTをあなた自身が自分に照らしてください!」


と導かれる「SPOTLIGHT」はまさしくマイノリティのための歌

人生は自分自身のためのもの

我々は誰かのあやつり人形ではないのだ

ダンサブルでキャッチーな曲調にこんなにもエモい歌詞を載せられるeillはもっと自信を持っていい

本当の自分に出会わせてくれる存在だから


そんななか、「FAKE LOVE/」は松浦のドラムソロを皮切りに始め、eillはクールにラップも決めつつ照明も一際派手になるがサトウやレフティのソロを終えると、ここで特効炸裂

まさかここで特効を持ってくるとは…

予想もしてなくて思わず声に出てしまった


終盤を彩るのはやっぱり「ここで息をして」

自分は「東京リベンジャーズ」をほとんど読んでないし、観ていない

追っている漫画やアニメがたくさんあって、時間が取れないのが主な理由なんだけど、R&Bや歌謡曲を絶妙に混ぜて、エッジの聞いたギターを炸裂させる…

これをカッコいいと言わなかったら、何がカッコいいのだろう

「東京リベンジャーズ」といえばOfficial髭男dismやHEY-SMITHが主題歌を担当しており、主題歌に恵まれているなと切に思う

自分が好きな作品のアニメ化は主題歌に恵まれなかったから


そして本編ラストはR&Bの王道を行き、誰もが孤独であることを突きつける「WE ARE」

レフティによる鍵盤ソロも素晴らしかったが、


「今日はありがとうございました。皆さん横を向いてください。隣に誰かいます。みんな孤独を抱えながら生きています。最後に「We Are」を歌いませんか!?」


と常に孤独を抱えていることを再確認させ、


「WE ARE, WE ARE ずっとひとりぼっちさ

WE ARE, WE ARE ずっとひとりぼっちだ」


を合唱


孤独は消えない

けどそれは自分だけではない

そう勇気づけさせるようなラストだった


アンコールでは先にレフティ達が戻り、越智のベースで踊らせる「罠」を始めるが、ステージには仮面を付けたダンサーが次々に

「何が起こってるの?」と困惑したが、そのうち1人は本物のeill

どうやらこれは「罠」に因んだフェイク演出だったらしい

サトウによれば、


「1人だけ動きがおかしかった(笑)」


とバレバレだったようだが(笑)

なお次回以降、客席で混ざって歌うことも考えたようだが、「挙動でバレる」と即座に却下された模様


そのうえで物販紹介を座りながら行うが、ここで告知として新しいアー写を撮影したこと、並びに東京国際フォーラムホールC(川谷絵音が誕生日に使用することが多いホールAとは異なる)をファイナルとする全国ツアーを開催することを発表

更に公式コミュニティとしてWeverseを4/9に始動させたりと、一気に動くようだ

去年は国内でワンマンがほとんど無かったゆえ、まさしく待望のツアーだろう

その前に新曲もいくつか聞けそうな予感がする


告知も一段落すると、eillは起立することはせず、


「みんなに手紙を書いてきた」


とラストは幸福な未来予想図を描いていく「letter...」

ステージの後方には歌詞も映され、メッセージも余す所なく伝わる

上げて終わるのではなく、しっとりと締めてライブを終えた


メドレーがあったとはいえ20曲をほぼ2時間

eillの歌唱力も良かったし、サトウやレフティを軸にしたアンサンブルは音源を何十倍にもアップデートさせたもの

またライブを見たいと思った


けれどもそれ以上にeillは自分という人間を偽らず、はっきり出す人間だった

自信が無いからこそ、多くの人が支えになっている

決して強い人間ではないから、一言一言に感銘を受けていた


この日の朝、自分は身近な人に「このままだと野垂れ死ぬぞ」と言われた 

確かにその通りかもしれない

年々ライブは増える一方で収入の大半はライブに費やしている


けど自分は「やらなくて後悔」より「やって後悔」がしたい 

ライブが無ければ自分は精神的に不安定になるのをコロナ禍初期に痛感しているから

むしろ政府が老後を苦しくさせたりして、明るい未来を想像できそうにない

だったら「行かずに後悔」するより「行って後悔」したい


生き方は変えない 

むしろ野垂れ死なない終わり方を作る

この日のeillのライブをみてライブ会場こそ、息をする場所だなと思った

運命を蹴っ飛ばして



セトリ

hikari

花のように

MAKUAKE

PALETTE

メドレー(HUSH〜Succubus〜初恋)

happy ending

片っぽ(acoustic)

プレロマンス

フィナーレ。

25

23

20

SPOTLIGHT

FAKE LOVE/

ここで息をして

WE ARE

(Encore)

letter...