音楽情報メディアとして知られるナタリーが、近年積極的にツーマンイベントを開催しているライブナタリー
今回はくるりとTele、昨年中野サンプラザで藤巻亮太も交えて開催予定だったものの、岸田が直前にコロナ感染
それに伴い中止となった組み合わせをナタリーが復活させたようなものである

・Tele
ライブナタリーの企画に参加するのは、フジファブリックとVaundyのツーマン以来
その時年功序列に伴ってか、Vaundyが先攻だったように、この日の先攻は谷口喜多朗のソロプロジェクトことTele
武道館のチケットがあまりにも取れず、長尺で見れる機会は恐らくこういうタイミングを逃すと、次はいつあるか分からなくなってきた

SEもなく、谷口を含めた5人で登場し、この日の編成は昨年見たワンマンと同じく、

ギター︰馬場庫太郎(from NENGU)
ベース︰森夏彦(from THE 2)
ドラム︰森瑞希(RADWIMPSのサポート)
鍵盤︰奥野大樹(BRADIOのサポート)

だろう
ドラムが瑞希であるか、聞き取れなかったので自信はない

準備を終えた谷口が客席に向けて軽く自己紹介し初手は、馬場とともに谷川がブリッジミュートを鳴らす「夜行バス」
意味深なフレーズが並べられつつ、

「バス停の知らない宝石の待つ街へ」

は、このライブに向けた谷川の意気込みのようにも見えるが、力強くビートを刻むとともに屋台骨となるグルーヴを築く夏彦が所属するTHE 2はまもなく終わりを迎える
夏彦が所属していたShiggy Jr.は昨年辺りから復活をちらしかせつつあるが、THE 2終了後はTeleやShiggy Jr.で動くのがメインとなるのだろうか

奥野の鍵盤がどことなく都会を連想させる「東京宣言」は、音源のままに演奏するならアーバンなポップサウンド
しかしそうはならず、谷川や馬場が思い切り歪んだギターを鳴らし、ドリームポップの様相を見せるのがTeleのライブの特徴
この日の客層はどう見ても、Tele目的の若者やくるりのために足を運んだ40代以上と客層は二分
以前見たフジとVaundyのツーマン以上に客層がはっきり分かれている印象を受けるが、初めて見た方はTeleのロックミュージシャンぶりに驚愕しているだろう

イントロから同期されている声が徐々に大きくなり、サビになるとリズム隊の森コンビが大いに牽引するEDM調の「ホムンクルス」、谷口がハンドマイクとなり神秘的な音色もノイズも同期させ、夏彦はウッドベースを用いる「初恋」とポップの範疇では到底収まりそうもないアートミュージックな空間を広げていくと、

「初めての対バン。あまりにも恐れ多いです!」

と恐縮しきりの谷口
その理由は後に、くるりの岸田が明かすのだが、どうやら谷口は小3の頃からくるりを聞いていたらしい
小3の頃、自分は特別すきなアーティストがいたわけではなく、アニソンを聞いていたくらい
第一、小3の頃に聞き込むアーティストがいるのがとても珍しく、谷口はその頃から音楽への愛着があった
それもシーンきってのカメレオンバンドであるくるり
谷口が23にして多彩な才能を発揮できるのも納得である

谷口「音楽フリークスに敬意を込めて、最後までMCはしない!!」

と宣言し、森コンビがモータウンのリズムで踊らせる「Véranda」は手拍子を客席に促してから突入
昨年の冬フェスでも演奏されるようになり、「Véranda」でTeleに注目するようになった身としては、演奏機会が増えてとても嬉しいが、馬場が轟音ギターを鳴らすことによって、音源では歌謡テイストが強かったのが嘘だったかのよう
ステージを動き回る谷口も、甘く包み込むような歌声を会場に広げていたのが、

「ざまあみろ!!」

の場面では急にシャウトするように歌ったりと音源との差が凄い
若手でこれほどギャップが生まれているのはTeleくらいでは?

再び谷口がギターを背負い、「私小説」は瑞希のパンキッシュなビートや奥野の奏でる流麗な鍵盤によって美しいピアノパンクとなるも、谷口が客席に飛ぶように促すと、そこからありとあらゆる音がぶつかり合ってシューゲイザー化
それは「金星」も同様で、最初は夏彦のベースが牽引していたのが自然にアンサンブルが強くなりオルタナへ
親しみやすかったアンサンブルが本性を晒け出すかのように、変貌
毎度ながら凄まじい緩急である

そんな大きすぎる高低差は「鯨の子」にて一度落ち着くが、青い照明によって客席はライブハウスからプールへ
この際、凄い速度でステージを歩き回っており、「JAPAN JAMみたいにコケるなよ…」と内心心配になっていたが、

「君のタフさに全てを委ねないで
自由を愛する事をやめないで
人を疑い憎み諦める事こそ
賢いだなんて決して言わないで
眠れない夜は君のせいじゃない
それはたぶん外の風が少し強すぎるだけ
喜びも悲しみも理由はないから、不安にならないで」

と救い舟を出すように歌うのは、いつか会えぬ夜が必ず訪れてしまうから
去年自分の身内も、好きなミュージシャンも亡くなった
いつまでも一緒にいられないのを嫌という程理解した
だから不安を少しでも和らげたい
谷口なりの願いである

そうして願いを込めるように歌ったあと、

「まだまだ行けるか!?」

と煽り、ステージを自在に動き回る谷口は紛れもなく新しい「ロックスター」
奇跡でもなく、令和が生み出した新たなカリスマも同然であるが、ここでも轟音を鳴らす馬場
Teleのバックバンドは恐らくこのメンバーで基本は行くんだろうが、その中でも特に存在が大きいのは馬場だろう
音源であれだけキャッチーでポップだったのを、オルタナティブロックに昇華出来ているのは馬場の轟音のおかげである
くるりを長年松本が支えているように、谷口はきっと馬場に支えられることになるだろう

アイリッシュやゴスペルを取り入れて、独自のロックを形成する「ことほぎ」、歌詞と曲調があまりにもリンクしてないもののアッパーに盛り上げる「Comedy」と踊らせつつ、気持ちを上向かせる谷口
そんな中で、

「喋らないって言ったけどやめます。みんなの声が聞きたい!!」

と序盤のMCを撤回し、合唱を煽るのはやはり「花瓶」
決して歌詞は明るくない
「花瓶」の歌詞を見たことがある方なら、それは重々承知しているはず
でも全てが嫌になることはない
それはTeleのライブを始め、色んな音楽が我々を前に向かせるファクターとなるからだ
きっとこれからも
花瓶はたとえ少量でも幸せをもたらす花瓶

そのうえで

「ありがとうございました。Teleでした」

と再度ギターを背負い、我々に何かを変えることを促す「バースデイ」はメンバー紹介も兼ねながらソロ回しをさせるが、馬場に対しては

「聴こえない!聴こえない!うるさい!」

ともはや無茶苦茶(笑)
あまりにも扱いがぞんざいでワラウしなかった

そして最後は、

「代わりたいまま、変われないまま。」

が重くのしかかっていく「ghost」

毎回毎回、「ghost」は参加者を現実に連れ戻す
自分もまた、今の自分の状況について考えさせられたが、

「ここにいるよ、すべて許して。
すり抜け落ちたあなたの涙が
今、ぼくを僕に変えて
頬を朝日が照らすだろう。
あなたの下へ僕が花を咲かそう。
僕が花を咲かそう。」

とKT Zeppに集った全ての参加者を救うことを約束し、シューゲイザーパートに突入するが、

「晴れわたる空の色 忘れない日々のこと」

と徐々にサウンドスケープはくるりの「ロックンロール」に近いものへ

1時間とは演奏された曲は14曲
ワンマンとほとんど変わらない曲数を尊敬するくるりの前でやりきった
くるりへの愛はここにあった
武道館のチケットもくれ

セトリ
夜行バス
東京宣言
ホムンクルス
初恋
Véranda
私小説
金星
鯨の子
ロックスター
ことほぎ
Comedy
花瓶
バースデイ
Ghost〜ロックンロール(くるりのカバー)

・くるり
Teleのライブを終えると、終演後にはトイレが封鎖されるので大多数がトイレへ
中にはここで帰るものもいて、それをとても残念に思ったが自分としては去年のフジフレンドパーク以来のくるり
なお当たり前ながら、ドラムはもっくんこと森信行ではない

Teleと同じくSEもなく暗転し、ギターに松本大樹、鍵盤に野崎泰弘、ドラムにあらきゆうことお馴染みの面子で登場して、

岸田(Vo. & Gt.)「こんばんわ、くるりです。よろしくお願いします」

と早速名曲「ブレーメン」から

去年ファンファンが脱退して以降、初めて見た時から感じていたけどここ最近のくるりはオルタナロックに回帰しつつある
それはホーンが居なくなったのもあるけど、オーソドックスな5人編成になったことや、かつては独自の音楽を探求していたくるりがストレートなロックをやるようになったからか、キャリアの中で1番ロックしているようにも
あらきのビートは今日も強くくるりを支えている

しかしくるりと言えば初見殺しの常習犯
かつてロッキンでトップバッターなのに、全曲新曲を行ったり、代表曲の「ワンダーフォーゲル」をそこまで積極的にやらなかった時期があったりととかくマイペースなのだが、この日のセトリはHomecomingsのイベントに呼ばれた際のセトリがベースなようで、

「暗くなったら五千万分の一から
六だけ引いて計算すればいい
それを七掛け十二で割って
君たちは泣きながら理解に苦しむ」

といったシュール極まりないフレーズを小細工無しで鳴らす「コンチネンタル(「ワルツを踊れ」収録)」、松本がブルージーなギターを鳴らす

「踊りたいのに踊れない」

状況が一体どんな状況を差すのか、気になってしょうがない「dancing shoes(「坩堝の電圧」収録)」と「Tele目当ての参加者分かんないだろ!!」な曲を連発するくるり

挙げ句の果てには、佐藤(Ba.)が太いベースで支えながら

「夕暮れ前の東向日駅梅田方面行きのホームが好きだ
本当に好きだ」

と鉄道オタクらしい岸田ならではのリリックと共に、あらきが性急にビートを刻む「図鑑」収録の「チアノーゼ」と初期の曲まで
ここ数年は見てなかった初見殺しのくるりが久々に本領を発揮したようである

しかもMCも緩く、岸田はTeleを何故か「Teleさん」と谷口ではなく、ミュージシャン名義で呼んでいたが、靴下の下りを関係者席から谷口とステージ上で会話する「あなた方何やっているんですか!?」なシチュエーション
あらきや松本もこのやり取りに笑いを隠せずにいたが、岸田のマイペースはいくつになってもきっと変わらない
いや、変わりそうにない

そうして何をやっているのか、理解しがたい光景を作ってしまったのだが、

「暖かくなってきたので」

と「春風」をやるのは春の訪れを告げるかのようで嬉しい

桜の景色はまだまだ程遠いけど、岸田が奏でるアコギや野崎の鍵盤が織り成すメロディーは春の音色
そろそろネックウォーマーや手袋をしなくとも良い季節が訪れたということだから

春の音色を届けてくれたあとに続くのは近年最大の代表曲「琥珀色の街、上海蟹の朝」
以前と比較するとやはり、ロック色が強くなっているが、谷口と違って岸田はハンドマイクになっても動くことはほとんどない
「じゃあなんのためのハンドマイク?」とツッコむ人もいそうだけど、岸田の声が昔と変わらないままでいて、今も音楽を鳴らす
それだけで十分に思える
初見への配慮はして欲しいが(笑)

神奈川ということで中華の話題になり、岸田は上海蟹を所望したり、佐藤の地元に上海蟹が提供される店をたずねたりと蟹づくしの話をするが、

岸田「お届けしたのは「上海蟹」」
佐藤「ちゃんとタイトル言わないと駄目でしょ(笑)」

というやり取りに、また松本とあらきは笑っていた
案外、くるりは今1番メンバー間の仲も良かったりするのでは?

そこに「California Coconuts」、「In Your Life」と昨年リリースされた「感覚は道標」の曲を続けていくが、森によるどっしり構えたビートはあらきによって忠実に再現
アルバムはスリーピースで録音されたものだから、松本や野崎の音が加わることで曲は更にブラッシュアップされる
去年のツアーには参加してないから、どのようなアレンジがなされたかは分からない
でも森も参加するライブがあれば、参加したい所存

決して速くないリズムと共に、良質なメロディーが場内に充満する「飴色の部屋」、今なおこれをライブで聞けることを嬉しく思う「everybody feel the same」で松本が前に出てギターを弾きまくると、岸田が佐藤に谷口の年齢が23であることを確認し、

「年近いな(笑)」

と唐突に謎発言をする岸田(笑)
これはくるりの活動年数と谷口の年齢が近いなという意味で話したのだと思う(ここら辺で谷口がくるりを小3から聞いていることを明かした)が、

岸田「精神年齢は小2」
佐藤「負けとるやないですか(笑)」

ともはや会話内容が凡人には理解不能な領域に(笑)
それくらい岸田がマイペースを発揮しているということだが、

「上海蟹以外でも我々のことを思い出して(笑)」

とトドメの迷言によって、「remember me」に繋ぐが、このライブが終わればまた何かが始まる
新しい日々も、新しいアイデアも

「すべては始まり 終わる頃には
気付いてよ 気付いたら
産まれた場所から 歩き出せ
歩き出せ」

とくるりは背中を押していたのだ

演奏を終えるとサポートも入れて、くるりは5人で前に出て挨拶
その姿を見ると、

「遠く離れた場所であっても
ほら 近くにいるような景色
どうか元気でいてくれよ」

のように、少しでも長くステージに立ってくれることを願わずにいられなかった

そこからアンコールで戻ってくると、

「また何処かで会えるように。身体には気を付けて」

と最後は「ハイウェイ」

旅に出る理由が必要ないように、再会するにも理由は必要ない
いつでも会いましょうと言わんばかりな終わり方だった

くるりの初見殺しは今に始まったことではない
初めて見た時もいきなり「水中モーター」をロッキンで見せられてポカーンとしたし、CDJでサブステージのトリをした際も「Tokio OP」をやる「ここでそれ!?」な選曲があった
去年のフジフレンドパークは有名曲だらけで「結構配慮しているなー」と思っていたが、やっぱり初見殺しのくるりは消えていなかった
「ワンダーフォーゲル」は無論、Teleが直前にマッシュアップした「ロックンロール」も定番の「ばらの花」も無し
それでもやっぱり凄いぞくるり、なライブだった
どうか元気でいてくれよ

セトリ
ブレーメン
コンチネンタル
dancing shoes
チアノーゼ
春風
琥珀色の街、上海蟹の朝
California Coconuts
In Your Life
飴色の部屋
everybody feel the same
remember me
(Encore)
ハイウェイ