タイトル︰「LANDER
アーティスト︰LiSA
LANDER (初回生産限定盤A)

 間にミニアルバム「LADYBUG」を挟んだものの、フルアルバムはコロナ禍初期、ツアーが出来ずに配信ライブのみとなってしまった「LEO-NiNE」以来となるフルアルバム

それも昨年リリースされたものですが、昨年のLiSAの活動スタンスは例年に無いものでした

何故なら、ガイドラインを守りさえすればライブはある程度出来るようになった2022年
LiSAのワンマンはわずか3本
年中ライブしまくるLiSAとしてはあまりに異例の本数です

その理由は恐らくこの「LANDER」の制作に力を入れていたから
それも考慮できますから、同時に新しい命を宿すことにも励んでいたようで
だから昨年、LiSAのライブはあまりに少なかったというわけ
出産も無事終えましたし、お疲れ様と一言お声かけしたい所存です

さて前置きが長くなりましたが、「鬼滅の刃」効果で知名度を大きく揚げたLiSA
前作「LEO-NiNE」にて、LiSAは愛される覚悟を決めました
この「LANDER」は「LEO-NiNE」の世界観を引き継ぐようなアルバム
「LEO-NiNE」と同時リリースされながら、コンセプトの違いから収録は次回作に持ち越された「炎」がどこにポジショニングされるかも気になってました

しかしながら、実際に核となったと思われるのは昨年のツアーで先行お披露目されていた「NEW ME」
今回のアルバムは、「LiSAが新しい惑星に着陸すること」をコンセプトにしてますが、新しい惑星への着陸
言い換えるならば新境地
それすなわち新しい自分になることです
なのでこのアルバムは、LiSAが新しい自分自身に生まれ変わることを肯定する
その過程を描いたものといっても過言ではありません

そのため先陣を切るのは、LiSAの背中を強く押すように「往け」
たくさんの方々がLiSAの名前を知るきっかけになった「Angel Beats!」と共に、切っては離せないSAOこと「ソードアートオンライン」のプログレッシブ編主題歌に起用された曲です
作曲したのは今や世界に名を轟かせたAyaseと豪華な楽曲提供になっていますが、シンフォニック色の強いこのギターロックは、

「昔から弱虫のくせに 気づかないふりをしてきたね
「ツラくない」
“大事”だって守りながら いつも「大丈夫」って笑いながら
「変わりたい」と泣いていた」

とSAOの登場人物であるアスナこと、結城明日奈、並びにLiSAの内心を代弁したような曲
ここから再び歩み出させる
それが「往け」を先陣に導いたのでしょう

またW杯のテーマソングとしてよくテレ朝でオンエアされていた「一斉ノ喝采」も、バッキバキなベースにサッカー名物のチャントが見られながら、

「過去も未来も 余すも味わうも
泣くも笑うも 自分次第なんだ
行かずにいられない 行けずに終われない
迷わず蹴り飛ばせよ」

の如く前衛姿勢が見られる曲
序盤はとにかくイケイケムードが漂っている、それが「LANDER」の序盤です

そんな「LANDER」は既発曲がとにかく多く、フィジカル解禁前に配信されていたのは14曲中10曲
それだけ世間からのLiSAの評判が高まったということですが、注目を集めて欲しいのはアルバム新録曲も
LiSAの楽曲に多く携わるPENGUIN RESEARCHの堀江が関わった「dis/connect」はベースがバッキバキながらも、主導権は鍵盤にあるというプログレ調子の曲

「アイサレタイ ユルサレタイ 識別 回路は 乱雑に 絡まって
アイサレタイ ミタサレタイ 祈りは 法則 形式に はむかって
アイサレタイ ユルサレタイ 吉日 口実 配慮で よく従って
無様な始末」

と暴走する愛は今の世の中に強く刺さりそうですが、「シャンプーソング」は佐々木亮介が作詞作曲し、a flood of circleが編曲した「もうそれ、フラッドじゃん(笑)」なロックンロール
惜しくも来年、フラッドのイベントにLiSAが出演することで完全版が実現しそうですが、友人はこれを「LiSAの最高傑作」と褒めちぎってました
LiSAっ子が最も愛するのは「Rising Hope」なんて、聞き入れてくれるだろうか

なおSAOや魔法科高校の劣等生についで、LiSAのイメージが強い鬼滅タイアップは今回ももちろん収録
「明け星」、「白銀」、「炎」と大体梶浦由記が携わってますが、インダストリアル・メタルを感じさせる「明け星」は、

「真実は勝ち残った後に
誰かが置いて行くもの
獰猛な獣が呼び合う
世界は傷を重ね
血の色に濡れた」

とリアルを書き残し、

「思い出よ哀しみよ僕らを
明るい方へ送り出してよ
東の地平空高く、明け星
遥か遠い道の上に」

と懇願する場面も見せれば、ラウドと歌謡を混ぜた「白銀」は、

「美しい世界を
君の涙を
守りたい」
「置いてきた物語と
もう失くせないものがある
暗闇を塗りつぶせ
業火の淵へ、まっすぐに」

と鬼滅の世界観とLiSAの願いがクロッシング
梶浦由記がLiSAの胸の内を代弁してくれたとも言えます
そのうえで、「LEO-NiNE」にはコンセプトの違いから収録されなかった「炎」は、

「懐かしい思いに囚われたり 残酷な世界に泣き叫んで 大人になるほど増えて行く もう何一つだって失いたくない」
「悲しみに飲まれ落ちてしまえば 痛みを感じなくなるけれど 君の言葉 君の願い 僕は守りぬくと誓ったんだ」

と年を経てば立つほど失いたくないものが増え、痛みを感じなくなってしまう世の残酷さを書いてますけれども、

「手を伸ばし抱き止めた激しい光の束
輝いて消えてった 未来のために
託された幸せと 約束を超えて行く
振り返らずに進むから
前だけ向いて叫ぶから
心に炎を灯して
遠い未来まで……」

と消えたものの文まで歩もうとする姿勢もある
テレビに出れば、鬼滅ソングばかり歌わされ、LiSAっ子は複雑な心境ですが、鬼滅ソングはどれも重い
テレビがオファーしたくなるのも分かる気がしてしまうんですよね…

そのうえで面白いのは「逃避行」
the HIATUSのメンバー、伊澤一葉が作曲に携わっているのですが、最初は浮遊感あったのに後半はスリリングに
それもプログレになっていくのが面白いところ
鍵盤が特に際立つので尚更印象的でしょう

また印象的なのは、盟友UNISON SQUARE GARDENの田淵智也が作曲を手掛け、舞踏会にいるような雰囲気を漂わさせてくれる「HADASHi NO STEP」を筆頭とするポップス三部作
LiSA本人が作詞作曲し、フォークテイスト強めな「シフクノトキ」は、
 
「がんばったわたし がんばれなかったわたし
いつもありがとう
ささやかで美味しい シフクノトキ
優しく風が 頬撫でてくれた」

と自己肯定愛に溢れてますし、まるでミュージカルを意識するかのようにダンサブルな「土曜日のわたしたちは」は、現在活動停止中のWOMCADOLEのマツムラユウスケ(実はFAIRY TAILの主題歌だった「追憶メリーゴーランド」を作曲した人物)が作曲し、

「騒がしい毎日よ 大人は楽しい」
「私たち手繋いで 風に吹かれながら
はぐれないように 迷わないように
どんなに最低な日も どんな大失敗も
いま笑えるの あなたがいたから
長い道のりの先 見えない明日さえも
怖いものなんてないよ」

とこれも自己肯定愛がずらりと
このポップ三部作って、もしかして裏テーマは「自己愛」なんでしょうか

そして終盤、LiSAが作曲し田中秀典と共に作詞した「悪女のオキテ」はロックヒロインの名を象徴するように、音と音がぶつかりあいますが、重要なのは「dawn」「NEW ME」の流れ

「見逃すな day by day ただ迷い 彷徨い いくつもの日々を追い越したんだ 生き残ったこの世界で 新しい 眩しい 幕開けを迎えに行こう」
「 巡り巡る Brand New Day 泣いても 逃げても 幸せをいつも願っていたんだ いつか終わるその日まで 新しい 眩しい 幕開けを迎えに行こうか 迎エニ行コウカ 」

の通り、新時代の到来を迎えにいかんとする「dawn」から「NEW ME」に行くのは、新しい時代になったということですが、新時代になったからって全てがキラキラ光るわけではない
どん底にいる方はどん底なんです
そんな方にLiSAは、

「cry in the night cry in the night
たとえ深い闇にいても
暗いんじゃない 怖いんじゃない
ヒカリを知るためのチャンスだよ」

と立ち直らせ、

「不時着の惑星にも 地球外の夜明けにも
誇れるものひとつ持って 旅を続けよう」、「GOOD LUCK GOOD LUCK
さぁ、行こう 未来“NEW ME”に会いに行こう」

と旅立たせようとする
自分が愛される存在になったことを受けいられたから、こうした母性本能を出させ、前向きにさせる
まさしく「NEW ME」にさせるアルバムでしょう

「LEO-NiNE」も傑作でしたが、この「LANDER」も当然傑作
明らかに「LEO-NiNE」からLiSAのモードが良くなっている気がします
どこが分岐になったんだろう…
鬼滅関係なく、「紅蓮華」で「ありがとう悲しみよ」と歌えるようになったから?

来年はどんな1年にするんでしょう
遅かれ早かれ、分かる気がしますが、やっぱりライブしまくるLiSAが見たいですね