世の中のオリジナルには全て元ネタがある
言い換えるならば、インスピレーションを受けて新しい創作物が生まれるという事である

なので「あれとこれは似すぎてる!!」なんて話が出てくるのは今に始まったことでは無いが、今のシーンで特に言われがちなのはあたらよだろう
ヨルシカファンである知人が初めて音源を聞いて「ヨルシカ?」と勘違いするくらいだ

だが自分はあたらよが今年リリースした「季憶の箱」を聞いて、「あまりにも素晴らしすぎる…」という感想を抱くにあたった
なので翌日仕事があるのに、普通に下北沢Shangri-Laへ足を運ぶことにした
初見がいきなりワンマンであるケースはかなり久々だと思う

Shangri-Laに足を運ぶのはThe Cheseraseraの復活東名阪ツアーに足を運んで以来
しかしあの時、チケットが前日まで普通に販売していたのにいざ会場入りするとチケットソールドアウトが明言されていたあの時と比較すると、会場内は比較的余裕がある模様(むしろ程よい間隔)
前回は降りれなかった中段ブロックに余裕を持って入れる程だが、自分の後方からは何故かアジア系の方々の声が聞こえてくる
てっきりTick Tolkで海外に広がったのかと思ったが、どうやら別の理由だと後に明らかに

「詰めてください!!」というアナウンスが異常になされる中、定刻を5分過ぎた辺りで暗転し、サポートドラムを加えた4人でサポートドラム、たけお(Ba.)、まーしー(Gt.)、ひとみ(Vo.)と1人ずつステージへ
音源で鍵盤を用いる曲はあるものの、サポートに鍵盤は入れてない模様

ひとみは最初アコギを背負わず、ボーカルに専念するように始めたのは、あと2日で秋が終わるので間に合った感じもする「アカネチル」だが、サポートドラムの強いビートと前には出過ぎないで、身体と共にベースラインをなぞるたけおによってリズムは力強い
それは音源よりもバンドらしいアンサンブルになっているということだし、ひとみの声は隠し事はなくただありのままに歌っている印象
その様子を見つめる客席
この時点ではロックバンドのコンサートを見ているというより、シンガーソングライターのライブを見ている
それくらい会場は静かだった

それは「季億の箱」において、最もパーソナル面が出たであろう「13月」に置いても変わらないが、

「うざったい世界に蔓延る有象無象が
当たり前のように刃向けても生きてやる
明日なんて来なくたって
悔いのないように
生きてやる生きてやる生きてやるさ
だれも僕になれやしないんだ
僕の生き様は
僕が作る僕だけの
証だ」

とひとみの意思が強く出たであろう歌詞はメキメキと頭に入り込んでくるし、ELLEGARDENの影響を公言しているまーしーのギターが火を帯びるように爆音を鳴らす光景はやっぱりロックバンドのライブ
あたらよにとって特に大切だと思われる「13月」を初っ端にやるのは意表を突かれたけど

あたらよは5月にJAPAN JAMに出演し、出演日に自分も参加していたものの、当時は音源すら一切聞いたことが無し
なのでひとみがエレキを持たず、アコギを奏でるスタイルを知るのも初めて
そんなアコギを弾くフォーマットに初めてなったのは「嘘つき」からであるが、まーしーがBIGMAMAの柿沼広也のように積極的にボーカルするのもあたらよの特徴
バンドプロフィールにはボーカルであることに触れられてない気がするし、たけおの性格がそのまま出ているくらい主張はあまりしないが、縁の下の力持ちのように安定感あるベースをなぞっている
こうした面ももっと注目されるべきだろう

「朝っていうかもう夜だけど」

と冒頭のセリフが変えられ、笑いを誘った代表曲の「10月無口な君を忘れる」は序盤で
代表曲を早めにやるのはワンマンでは見なれた戦法だが、これを聞いたまーしーがひとみに声をかけたのがあたらよの始まりだったと思う
しかもその時、照明はカラフルに輝いていた
あたらよは決して明るいバンドじゃない
むしろindigo la EndやreGretGirlなどのように、喪失をテーマにした曲を多々持つバンド
だかららしくない照明にも見えるけど、この「10月〜」でひとみ達の人生は変わったようなもの
世界が変わっていたから、照明も暗いものではなく、色鮮やかなものにしたのだろう

その直後ひとみは軽く挨拶するが、

「あたらよのライブは静かに楽しむもの。そう思っている方どれくらいいる?(結構な人数が挙手) 。そのイメージを壊してやる!!」

とも煽り、「空蒼いまま」ではまーしーが前に出すぎて、シールドやイヤモニが絡まり、まともに弾けないような状態に(笑)
ひとみも「渋谷ー!!」と、「いや、ここ下北沢なんですけど(笑)」と心でツッコミせざるを得ないくらいに煽りまくり、跳ねさせたり、

「泣いている!!」

の大合唱

静かに聞くだけのバンドではないことはここで証明できた

曲名こそネガティブな匂いを感じそうになるものの、ひとみがアコギをかき鳴らす姿に、たけおのうねりまくるベースライン、徐々にテンションが上がってきた姿に悲しさは微塵も感じられない「悲しきラブソング」にはSpitzの影響をどことなく感じるが、ひとみがイントロのフレーズを歌い始めただけで大きな歓声が起こった「ピアス」は流石にそんな事はない
そういえばreGretGirlにも「ピアス」という曲があった

あちらが

「忘れないように」

と悲しさをぶつけるのに対し、こちらは

「泣けばいいのに」

と捨てられた怒りを込めたかのように歌う
「ピアス」には、悲しい記憶を歌詞に綴らなければならない十字架でも背通っているのだろうか

ステージがピンクに染まり、スモークもかけられていたらしい「眠れない夜を君に」は冒頭、ひとみが水を間違えてきどう(酸素が入る気管)に入れてしまい、序盤歌えなくなるトラブルが生じてしまったし、鍵盤やストリングスが同期は少し勿体なく思える
その分、エモやパンクをバックボーンに持つマーシーが歪んだギターを間奏で鳴らしているんだろうけど、透明で隠し事も背後に見せないひとみの声をより活かすためにも、生の音は増やしたほうがいい
失恋ソングの代表、back numberもサポートを交えることでドームでも通用する鉄壁なアンサンブルを構築
依与吏を支えているのだから

それは「今夜二人だけのダンスを」もそう
indigo la Endの「夏夜のマジック」のようなチルっぽさも、山下達郎をはじめとするシティポップらしさが孕んでいるから鍵盤は生がいい
でも、たけおのベースラインはこちらが思わず足を踏んでしまうくらいグルーヴィなもの
自分はドラムを多少触っていた影響で、足でリズムを踏んでしまう癖があり、右隣にいた女性が少し気になったため、左足で踏んでいたがそうして身体をノセるくらいたけおのベースは優れている
過小評価されている気さえする

普段から基本的にライブでMCはしないのだろうか
本編で唯一といってもいいMCで、

ひとみ「ライブの日は雨が降ることが多かったけど、今日は珍しく晴れた(笑)」

と話したように、どうも雨バンドの傾向があるようだが、この2日前にあたる11/27に「10月〜」のPVを公開
言わずもがな、この「10月〜」で多くの人はあたらよを知るようになり、ひとみに至っては3年前、普通に働いていた模様

「神様が今日はご褒美で晴れにしてくれたんだ!」

と感謝するのも分かるし、まーしーは最初の「アカネチル」でもう泣きそうになっていたとのこと
チケットがソールドアウトしているわけではないが、平日にたくさんの人が見てくれた
それで感無量というわけだ
たけおはベースプレイと表裏一体なくらいにほとんど話してなかったが(笑)

まだそんなに曲数をやっていないながら、もう残り数曲
「いくらなんでも早すぎない!?」と個人的に思ってしまったが、ひとみが再びアコギを背負い、細かいビートと共に爽やかなメロディーが会場に広がる「夏が来るたび」は、既にアンセムとなったようで前からも後ろからも手拍子が
動員を考えると、野外フェスで聞くのはまだ厳しいかもしれない
でも「夏が来るたび」は間違いなく野外で鳴らされるべきだ
夏に演奏されるたび、思い出として蘇る曲になるだろうから

更に代表曲の「夏霞」も続く
夏を感じさせる気候ではないし、イメージは涼しげな夏の日
季節柄、あまり合わない気もするけど、少年時代を過ごしたような広大な大地を連想させる事はできる
配信ライブでもいい
自然に囲まれた中でこの「夏霞」を拝んでみたい

しかしそんな雰囲気がダークなサウンドスケープ、ひとみのポエトリーリーディングと共に大きく一変したのが「52」
序盤に演奏された「13月」以上にアンサンブルは殺気立ち、なんなら音と音の衝突もこの日1番だった
ロックよりはフォークのイメージが強いかもしれない
でも「52」の刺々しさはロックバンドのダイナミズムといって過言ではない

それから本編はあっという間にラスト
15曲前後しかやってないので、あまりにも早すぎる気もするが、ステージと客席の関係、それはまさしく「僕らはそれを愛と呼んだ」
まーしーとたけおは向かい合う場面もあった
「俺たちのやって来たことは間違ってないよな!!」と確かめているかのように
ライブをやるたびあらたよは育ち、あたらよと我々の愛も深まる
彼らの進化、愛情の深まりを期待させるようにして本編は終了

かつて放送されていた東京フレンドパークの「パジェロ」コールならぬ、「たけお」コールが起こり、場内が起こり会場内は混沌
そんな中でステージに戻ったまーしーは、台湾のフェスに出演した際の思い出を語るが、

「もう10年近くバンドマンをやってきて、何度もバンドは解散してきた。今日みたいな光景が見えて幸せです!!」

と感無量な感じだった

その感動しているまーしーがキテレツ的な行動を取っている中で、ひとみはステージに戻ってきたが、

「3年前の11月27日に「10月〜」のPVが公開されたことをInstagramでも触れたと思うんですけど。それ(「10月〜」)をみんなが広げてくれた。お陰で普通じゃない体験が出来ています!!」

とこちらもやっぱり感謝を伝えずにはいられない模様
2020年といえばコロナ禍初期
ネガティブな事が多いけど、あたらよにとっては2020年11/27は運命の日になったと言える。

昔いたドラムも頑張っているものの、お互いにどちらから連絡を取ればいいか分からない状況を報告した後、何度も煽られながら話してなかったたけおは、

「中学の頃にベースを初めて、専門学校に入ってから無理やりバンドに誘ってくれて、こんな景色を見られて感謝している」

と恥ずかしながらも本心を口に
それを聞いて、まーしーは顔を真っ赤にして泣いていた
陽キャ2人と陰キャ1人の関係に見えるけど、たけおはまーしーへものすごく感謝していた
涙腺崩壊するのは自然なことである
涙を拭いたタオルが「SPAM」というオチは不要だけど(笑)

アンコールはKERENMIとコラボした「ただ好きと言えたなら」
まーしーのギターが音源より更に強くなっていた気がするが、それはバンドが更に広い場所でギターを鳴らす未来予想図も浮かばせた
これからもあたらよの事はきっと好きと言える

そして最後は迫ってきた冬の寒さを感じさせないくらい、スタイリッシュに力強くアンサンブルを鳴らす「雪冴ゆる」
もうコートがマストレベルになる水準で寒くなってきたが、この熱さは寒さに負けない
自信を持って伝えられる熱演だった

記念撮影をしたあとはピックやセットリストをファンなやプレゼントするなど、より感謝を伝えていたが、これは一応「季億の箱」のリリースツアー
演奏されてない曲があまりに多いし、きっと来年のアニメ主題歌に内定している「僕は…」を聞きたかった方も多いだろう
だから20曲近くやってほしかったのが正直な思いである

ワンマンが少なくてもfhánaはかなりの曲を演奏するし、シンガーズハイやAtomic Skipperなどコロナ禍でも頭角を現したバンドより、まだ熱量が足りない
平日の19時、下北沢
この好条件ながらShangri-Laをソールドアウト出来ないのはまだまだ厳しい現実を目の当たりにしたまである

来年は早々に、「僕の心のヤバいやつ」の大型タイアップがつく
確実にバンドを取り巻く環境は変わり、大注目を浴びるだろう
そのチャンスを掴めるかで未来は大きく変わる

自分があたらよから離れることことはしばらくないが願うは1つ
夏だけでなく、365日四六時中あたらよをただ好きと言えたなら

セトリ
アカネチル
13月
嘘つき
10月無口な君を忘れる 
空蒼いまま
悲しきラブソング
ピアス
眠れない夜を君に
今夜2人だけのダンスを
夏が来るたび
夏霞
52
僕らはそれを愛と呼んだ
(Encore)
ただ好きと言えたなら
雪冴ゆる