タイトル:「サーフ ブンガク カマクラ(完全版)
アーティスト:ASIAN KUNG-FU GENERATION


ここ近年、ことある度に「サーフ ブンガク カマクラ」の続編リリースすることを匂わせていたアジカン
まあ「荒野を歩け」が、「サーフ ブンガク カマクラ」に関連した曲だったり、元々「プラネットフォークス」の前に出したいやら、色んな事情が絡んでましたが、2023年になってようやく実現
オリジナルから5曲加えられて江ノ島電鉄の全ての駅が出揃うことになった模様です

ただ今回の「サーフ ブンガク カマクラ(完全版)」は一発取りではありません
線蜜に練られて「サーフ ブンガク カマクラ」の完全版が実現した次第です

自分はアジカンの最高傑作は「ワールド ワールド ワールド」と考えてますが、「サーフ ブンガク カマクラ」をがっつり聴き込んだわけではありません
ですか「藤沢ルーザー」が以前と明らかに異なるのは明白です
昔はゴッチの声、こんな伸びてませんから汗
今回のレコーディングに合わせて既存曲は再録されたようです

加えて先行シングルに収録されていたA面曲やB面曲も収録
なのでフルアルバムというよりは、フルアルバム+αのようはもの
映画主題歌として先にシングルカットされ、

「少しずつ影が背を伸ばしても
まだまだ終わりじゃないさ
今日
午後からは海の風になって
君らしく踊ればいいじゃない」

と物語が続いていくことを伺わせるような「柳小路パラレルユニバース」がアルバム初収録
エモーショナルな建さんのギターに、ゴリゴリしている山田のベースが耳によく残りつつ、潔が複雑なビートを刻む「鵠沼サーフ」も、江ノ島駅名物の有料エスカレーターをモチーフにした「江ノ島エスカー」に、今でも時折ライブで演奏されている「稲村ヶ崎ジェーン」と懐かしさを覚える曲の方が多いと思われます

なので必然的に多く触れるのは、最新楽曲となりますが、シンプルなギターロック「石上ヒルズ」に見えるのは、

「3年で化石になった
スマホの端まで
猛スピードの申し子」

という時代の変化
発表時は新作だったものの、時間の経過と共にあっという間に化石
時代の変化の速さに思わずドキッとしてしまうのではないでしょうか

続けて「西方コーストストーリー」、元ネタは言うまでもありませんが「チャコの海岸物語」(笑)

「チャコでもミーコでもない
あの人の幻を見てみたい」

なんてフレーズからもサザンを意識していることは明白でしょうが、建さんのギターが気持ちよく、山田のベースもまた良い
パワーポップの王道を見ているかのようです

オリジナルから存在する「腰越クライベイビー」は堅実なリズムが印象に残りますし、先にシングルカットされた「日坂ダウンヒル」はWeezerに岡村ちゃん、更にSLAM DUNKなどオマージュに溢れてますが、ブルースサウンドに乗った

「静かに明日を待つだけ
まだ終われないや」

は染みるの一言
まだバンドが発展していくような意気込みも垣間見られます

後半は更に既存曲が増加
…というよりも江ノ島電鉄に沿って制作されているので、元から制作されていた曲が多かっただけの事ですが、「七里ヶ浜スカイウォーク」は爽やかな波風を感じるギターから、静かに身体を揺らしたくなりますし、喪失を感じさせながらキャッチーなメロに滑らかなベースラインが印象に残りやすい「極楽寺ハートブレイク」はやっぱり名曲

「長谷サンズ」もギターリフやベースリフで耳に残る場面が多いのに、ビートも印象に残るものが多いと非常に計算されている構成に見えてきますが、ラストの3曲はどれも壮大なバラード
どっしりと構える「由比ヶ浜カイト」は夕暮れを連想させつつ、

「特別なことはないよ
秀逸な才能もないけど
それでも何度も君を探して
空に何度も弧を描くトビ」
「どうか海へ 投げ捨てないで
笑って捩れた あの日々を
線路沿いを歩き回って
迷い子になった あの頃を
今日という愛しい日も
もう二度と会えないんだよ」

というのはゴッチらしい情景描写でしょう
自分たちを鳥にたとえ、何度もあなたに会う
鳥目線からあなたへの思いを歌ったような曲ですし、「和田塚ワンダーズ」は山田が重心低めのベースをなぞりつつ、

「どうか海へ 投げ捨てないで
笑って捩れた あの日々を
線路沿いを歩き回って
迷い子になった あの頃を
今日という愛しい日も
もう二度と会えないんだよ」

と生命も願いも捨てないでという祈りが
シーンの大御所になったアジカン描ける貸しですね
そして最後、別れを告げるフォークのような「鎌倉グッドバイ」の説なさ

江ノ島電鉄をコンセプトに、こんな素晴らしい作品を手掛けられるアジカンに脱帽しました