今年4月、andropは名盤「One and Zero」の再現ライブを行ったのが記憶に新しいだろう
久々にサポート無しの4人でのライブ
ギターロックに回帰するようなライブでもあったと思う

フロントマンの内澤崇仁は有華に提供した「baby you」がヒットしたり、ビートたけし原作にして二宮和也が主演する「アナログ」の劇伴に参加
ドラムの伊藤やベースの前田もサポートミュージシャンとして活動の場を増やしているが、前作「fab」からわずか8ヶ月近くで新作「gravity」をリリース
2021年から3年も経たない間にアルバムを3枚もリリースしたことに
しかもリリースから1週間も経たずにツアーを開催するとんでもないスピードである

久々にZepp Shinjukuがある歌舞伎町タワーを訪れると、歌舞伎町タワー前ではどうやらプロレスが行われていた模様
「こんなど真ん中でプロレスやるのか」と思いつつ、Zepp Shinjukuに入ると、場内にはこの会場名物のLEDをフル活用するように、歌舞伎町タワー周辺の映像や機材の数々、ある曲の演出でよく見るものまで紛れ込んでいる
andropが用意したんだろうけど、圧倒されると同時に、あまりに不気味である

定刻とほぼ同時にゆっくり暗転すると、クラシックをアレンジようなSEが場内に
最近よくあるフロントマンが最後に登場するような方式ではなく、andropはサポートと共に一斉にステージイン
去年ならサックス、パーカッションのサポートもいたが、今回はコロナ禍前からもandropのサポートをし、何故かアロハシャツにサングラスと「SOS!」のジャケットのような別所を迎えた5人編成に
また一時期、佐藤(Gt.)の近くに置かれていたサンプラーも撤去され、前田(Ba.)のシンセベースはアンプのすぐ横に移動
割と細かい変更が起こっている模様だ

そうした細かい変更の理由は、新作の「gravity」が久々にギターロックに回帰しているからで、「gravity」のオープニングトラックである「Parasol」は佐藤のギターが際立つドリームポップのような形に(内澤も最初からアコギを背負っている)
しかもただギターロックをするのではなく、前田や伊藤(Dr.)からなるリズム隊はそのドリームポップにモータウンビートを載せる「diary」以降の路線も風習
原点に戻ったようで、R&B寄りだった頃の音楽性も捨ててない
つまりは双方の良いところを吸収し、新しいandropを見出している

内澤がハンドマイクに持ち替え、そのR&B路線が顕著に出ていた「Lonely」、前田が背中を見せながらシンセベースを弾くシュールな絵面が出来上がり、

「新宿は砂漠」

とある意味最もらしいフレーズに書き換えるが、会場中に流れる映像は時折ノイズが走ったりと不穏
別所や佐藤がどんなにキャッチーな音を鳴らしても、結局は「Lonely」であることに変わらないということか

JR西日本のCMに起用されているらしい「Arata」では、佐藤がアコギに持ち替えて、別所の鍵盤を中心とするピアノポップを形成
「SHE'Sみたいだな」と思ったこともあったけど、

「4つ打ちで背中を押せたなら」

と考えた伊藤の4つ打ちはただ、ハイハットとスネアを叩くのではなく、シンバルやタムを巧みに使い分ける「その方法があったか!!」なアプローチ
一時はエレクトロやポストロック的観点からもandropはアプローチを掛けていたバンド
キャッチーに見えて、難解な曲をいくつも編み出したandropだから出来る方法論だろう

昨年の野音ワンマンではオープニングとして記憶に新しい「SummerDay」は言わずもがな、佐藤はエレキに持ち替える
しかし夏うたといえばアッパーな曲が多いのに、あえてメロウな曲に仕立てるのはフェスブームとなっていた2018に「Cocoon」という脱フェス主戦場を掲げたandropらしいし、

「今は心で歌いましょう La La La
笑い合いましょう 歌いましょう
La・La・La」

は今では発声禁止期間を忘れさせないフレーズとなった
元々歌わせるような曲ではないから、発声禁止が解除されても、何か変わるわけではない
でも、

「光をくれたのはあなたでした」

のように、窮屈なガイドラインの中でもライブを見に来てくれたあなたが光だった
その感謝はこうして、曲に残っていく

エレキギターを背負って軽く自己紹介した後、内澤が伝えたのは、

「ライブをやるためにアルバムを作りました!!」

ということ

4月頭にツアーをやることは発表されていたが、その時点で詳しい詳細は出てなかった
なんのコンセプトもなく、ツアーをするのか
昨年リリースしたものの、ツアーが開催されてなかった「fab」のツアーをやるのか
ブラックボックスに包まれていたが、その中身はまさかのアルバム2枚を引っ提げたてのツアー
フジファブリックやMAN WITH A MISSIONが連作ツアーを行ったことがあるとはいえ、連動してない2作でツアーをやるのが仰天である

メンバー以上に目立っている別所を弄りながら紹介し、

内澤「夏の曲はたくさんやったので、秋の曲を」

と話したのは、これまで夏の曲をたくさん生み出してきたという意味で話したのだろうか
昨年の野音で初お披露目された「September」にて、一足早く秋を到来
このタイトルを聞くとEarth, Wind & Fireを浮かべてしまうけど、共通項はどちらも恋愛ソングということ
Earthはファンクに対し、andropはロックである

「Effector」は今でも最高傑作だと思っている
しかしそれは自分がブラックミュージックを好むからであって、自分よりも前、つまりは「door」よりも前からandropを好む人が受け入れられるかとなると、回答は困難だろう
でも「September」のように、佐藤が歪んだギターを鳴らして、伊藤が持ち味のパワフルなドラムを活かせる曲なら話は別
きっと、こうした曲を待ち望んでいたファンは多いと思うのだ
初期の「Roots」に「Grider」と元をたどれば、ギターロックにたどり着くだろうから

一方、「Happy Birthday, New You」は、

「アンタレス」「シリウス」

といったフレーズがあるからだろうか
都会の住宅街を突き抜けて、銀河までに飛び出す映像が流れるものの、

「もうどんなジャンルって説明すればいいか分からない(笑)」

と前田がツイートしていたように、オルタナロックか、レゲエか説明し難い世界観
過去の曲で話すなら、壮大になった「Image World」だろうか
来年で結成15周年を迎える分、andropは様々な音楽性をたどってきた
そのキャリアが反映されたのがこの「Happy Birthday, New You」

すかさず内澤がギターを鳴らし始めたのは、「これ何年ぶり?」と思った方も多いだろう「Halo」
去年の豊洲ワンマンでも「Colorful」、「Hoshidenwa」と当時の方向性に合うような曲が演奏されており、今回は青で照らさられた証明が走り出したくなる曲が選ばれた模様
フェスやイベントに出演しても、やる曲は限られている
過去の名曲も、今やワンマンくらいしか聞けないので貴重である

この日客席内は、最近のライブでは珍しいくらいにマスク着用者が多かった
マスコミがコロナ情報を流さないことに、違和感を覚える方が多いのか
それはそれで安全にライブを楽しめやすくなるので、良いことなのだが、何故か客席内は静か(笑)
内澤や佐藤がビックリしていたが、よく考えてみたら2017年の野音や2018年のパシフィコ横浜も静かだった
indigo la Endのライブのように、純粋に音楽を楽しみたい方がandropの主な客層と思われる(ちなみにこの日の埋まり具合は6-7割、何故かPA付近は余裕があった)

「惹かれ合う」意味合いを持つ新作「gravity」のタイトルに関連付けて、

「今年は4年ぶりに花火大会とかやってるよね?戻ってきている感じがしますね。その喜びを音で再現しました」

と制限が徐々に解除されていることに言及
それは良くも悪くもなので、こちらとしてはノーコメントだが、どんな状況であれandropの「Hanabi」はライブ会場で年内打ち上がるHanabiだろう
ここら辺から、前田のベースも徐々に前に出ていくが、別所や佐藤の鍵盤は去年や今年、花火が打ち上げたライブの記憶を呼び覚ます
昨年のロッキンや今年のsumika、King GnuやUVERworldを見た際に打ち上げられた花火を
もう昔のように、わざわざ花火大会に足を運ぶような事はないだろう
でも各地の花火をバックに、andropのHanabiをBGMに活用したら、相性は間違いなく良いだろう

何か話す場所でも無いのに、何か話そうとしてしまった内澤(ここで再びハンドマイクに)の天然ぶりを見せられたあと、「新曲」と紹介された「Black Coffee」はミルクやガムシロップも入れないようにR&Bのど真ん中
ジャズのように働きかける佐藤のギターや別所の鍵盤で親しみやすくはなってるが、それはコーヒーで言うならば水出し
本質は、自然に身体を揺らさせる前田のグルーヴィなベースと細かく刻む伊藤のビート
カフェラテでもカフェモカでもない苦味、すなわちR&Bはこのアルバムでもしっかり生きている

そのR&B路線は実質「fab」まで続き、andropの音楽性を刷新する分岐点となっていたのが「diary」
これが前兆となり、「Effector」で本格的にR&Bにシフトすることになるが、この日「diary」から披露されたのは「Saturday Night Apollo」ではなく、「Blue Nude」

初めて聞いたときは、00年代のヒップホップを牽引していたm-floのようで、「遂に時代がm-floに追い付いたか〜」なんて思ったりもした
前田のシンセベースが増えだしたのもこの頃
あの時、まさか「beautiful beautiful」なんて「Sunny Day」以上に強烈な曲が来るなんて予想するまい

そうしてR&Bに傾倒した結果、どんどんギターロックが薄れ、ギターロックに見えてエレクトロが強い「moonlight」まで生まれていったが、ブラックミュージック路線の終着駅は昨年いきなり配信された「Ravel」だと思っている
ブラックミュージック特有の重心低めのグルーヴ、街灯を照らす眩しすぎない光が絶妙な黄金比率を成り立たせていると思ってるから
この「Ravel」のリリース後、「One and Zero」の再現ライブを経て、「Happy Birthday, New You」をリリースする事になる
ギターロックに回帰する、重要な変化点だったのだろう

そんな中、アコギを背負った内澤はこの日の客席を見てグッとくるものがあるような感じだった
それはようやく、合唱や発声の制限がなくなったからだろう
発声や合唱は4月のZeppワンマンで一応解禁されたが、

「こういうの久々だから、グッと来る」

の通り、制限がほとんどなくなったツアーはこれが久々
だからグッと来たのだ
やっと縛りのないライブが戻ってきたのだから

この景色が実現するまで要したのは3年
それも音楽を愛する人々の協力があって、実現したもの
なので、会場にいる全ての人々に「Hikari」を注ぐが、以前も書いたかもしれないけど、

「光に変えてゆくよ どんな暗闇も
夢見た未来が途切れないように」

と「Hikari」のフレーズは対照的だ
逆に、Hikariをあなたに注ごうとするものだから
「Summer Day」は、必ずやる曲ではないだろう
でも「Hikari」の世界観を拡張するためにも、可能な限りやっていただきたい曲
「Summer Day」があるとないで、「Hikari」は大きく変わってくる

すぐに内澤がハンドマイクに戻り、じっとしてられないのか何度も何度も回転
その様子はステージ後方のLEDに映し出されてたが、その間に佐藤達がじっくりアンサンブルを形成
職人のように煮込んで煮込んで、アンサンブルが成熟したところで投下されるのは、開演前BGMの元にもなっていた「Tokio Stranger」
野音ワンマン、4月のZeppワンマンもそうだったが、「Tokio Stranger」の力の入れようは半端ではない
勝負手、andropの中ではそうした認識なのだろう

しかしその「Tokio Stranger」の最中、途中で音が急に軽くなってしまった
それもそのはず
バスドラムにトラブルが起こってしまったのだ
なので伊藤は急遽、ビートの刻み方を変えていたが、この「Tokio Stranger」において、伊藤のビートは非常に重要
なんとか復旧して良かった

「繋ぐ手と手
皆幸せの方向へ進めばいいさ」
「言霊をこのMicに込めて
「今を生きて行こう」」

と「Neo Tokio Stranger」を締めるフレーズも用いられると、そのまま手拍子の同期と共に、内澤がエレキギターを背負い「Mirror Dance」へ
サックスが無くなったのは少し寂しい
しかし変わりに戻ってきたものもある
それこそが発声
内澤のハイトーンボイスに続くように起こる高音の合唱があってこそ、「Mirror Dance」は完成する

「はねる はねる」

に合わせて、拳を上げる光景はとても微笑ましい

直後、内澤はまたハンドマイクに戻るが、「こんなに煽るキャラだったかなあ(笑)」と思う程煽り、Zepp Shinjukuを大いに揺らしたのは佐藤が軽快にギターをカッティングする「Hyper Vacation」
「これでもか!!」と言う程、曲全体が踊りに特化させているこの曲
LEDには曲のロゴも現れるが、そのLEDの演出はまるでEarth, Wind & Fireに触発されたようなもの
こうした演出は各地でもやるのだろうか
もしかしたら東京だけの特別仕様かも

更にギターを背負い直した内澤が、最初からコールアンドレスポンスを委ねたのは、コロナ禍以前は鉄板だった「Run」
ここのところやってなかったのは、キュウソネコカミが「DQNなりたい〜」を封印していたように、andropも封印していたのだろうか
あるいは「fab」、「gravity」の2枚に共通するロックなモードに呼応されて、呼び戻されたか
お互いを鼓舞するように、合いの手を入れて合唱するのはとても楽しい
伊藤の細かいビートもR&B路線が続いていたからこそ、感銘を受ける

そしてシンセリフが冒頭から鳴る「Voice」は無論、大合唱
去年はandropよりサポートしているfhánaの方がエレキベースを弾いている場面が多かったので、前田がandropでもエレキベースを弾くのは嬉しい
なにより、

「大事なものはすぐ側にあるよ」

の通り、我々にとってはandropのライブが大切なもの

「今
君は君で在るから
何したって良いんだよ
君が決める終わりだって始めだってあるから」

「君がいる世界なら
もうずっと離れないから
夢も嘘も愛も闇もずっとずっと忘れないでよ」

と肯定してくれる瞬間を忘れたくない

そんな今回のツアー、本編最後に投じられるのは、内澤がハンドマイクに戻り、参加者を肯定する「Toast」
MUSICAのインタビューでも指摘されていたが、「Parasol」と「Toast」で歌われていることは共通している
どちらも、聞き手を肯定しているということだ
LEDには客席の様子が映され、ジャズとロックが融合した「Toast」の終盤、内澤は

「よく頑張った!!」

と参加者を肯定した

合唱する曲が多いandropのライブで歌えないのはキツい
でもルールを守って、ライブに参加してくれたから今がある
内澤の言葉に心を洗われた後は、穏やかな合唱で本編を締めくくった

ツアーでは久々となる、「Encore」の合唱によって内澤が戻ってくると、「gravity」の中から唯一やってなかった「Cosmos」を弾き語り
メロディーも歌唱も素晴らしいが、昔、同じように弾き語りでリリースされた「Tokei」は後にリアレンジされた
この「Cosmos」も、後にそうなるのだろうか
バンドアレンジも聞いてみたい

内澤によって、佐藤たちも再登場し、物販紹介は明らかに打ち合わせされていたような内容だったが、そこで内澤が折りたたみ傘もイヤホンも、常に2つ持ち運んでいる事が明らかに
どう考えても荷物なようなきがするが、内澤みたいに2個用意している方はいるのだろうか

mol-78と10月にO-EASTでツーマンすること、内澤が同月に八戸市美術館にて弾き語り公演することも発表すると、

「もう1曲だけ」

とfhánaの佐藤純一が絶賛していた「Super Car」へ

発声禁止を逆手に取ったようなフレーズ達も、今では問題無く合唱できるが、内澤は歌詞を変えることはしない
コロナ禍を忘れないようにするためだろう
以前と比較すると、出演するフェスも減った
関東圏だと、SWEET LOVE SHOWERやビバラロックくらいか
発声禁止期間に聞いた方もいただろうけど、発声に関する制限がなくなった今が真価を発揮する時
多くの人にandropの良さを知っていただきたい

そして「Super Car」で終わらずもう1曲
内澤がエレキギターを背負ったのは、三ツ矢サイダーのCMとして大量OAされたこともある「Yeah!Yeah!Yeah!」
またもEARTH, Wind & Fireのような演出がなされ、「どんだけ好きなの?」と思いもした
けど「One and Zero」の再現ライブや今回のライブを通じて、やっぱりandropはギターロックが似合う
そう思ったし、仮にまた音楽性が変わったとしても、

「僕らの時間に無駄なんてない」

はず

「まっすぐ前に進んでる
君の向く方向が前になる
立ち止まったりしても大丈夫
もっと高く飛べる助走になる」
「まっすぐ前に進んでる
君だけのとっておきが待ってる
選択肢は幾つもあるはずさ
答えがいつも君の今日になる」

と参加者を全力で肯定し、ツアー初日を終えた

ここまでギターロックに寄ったandropを見ると2017年の野音ワンマン以来だろうか?
「Effector」以降にリリースした曲、「Tokio Stranger」や「September」はギターロックに傾倒していたが、「gravity」がギターロック志向のアルバムだから、こんなにロックなandropを久々に見れた
初めてライブを見た2012年のandropのようだ

またandropといえば、演出に特にこだわるバンド 
今は初期ほどではないものの、LEDが会場中にセッティングされたZepp Shinjukuとは相性があまりにも良く、久々に凝った演出をするandropを見れた
これから東京でワンマンするなら、O-EASTやZepp Shinjuku 
andropの現在の状況を考慮すれば適正だし、積極的に活用していただきたい
演出に力を入れるバンドには最高な会場だ

東京公演は初日だけ
mol-74とのツーマンはあるものの、ワンマンはこれが年内ラストかもしれない
そうなるのが惜しく思えるほど、今のandropは良いライブをしている
出来るだけ早く東京か神奈川でまたワンマンがあることを願う
それまで今日を抱きしめて離さないでよ
銀河の隅でランデヴー

セトリ
Parasol
Lonely
Arata
SummerDay
September
Happy Birthday, New You
Halo
Hanabi
Black Coffee
Blue Nude
Ravel
Hikari
Tokio Stranger
Mirror Dance
Hyper Vacation
Run
Voice
Toast
(Encore)
Cosmos
Super Car
Yeah!Yeah!Yeah!





※前回のワンマンのレポ