デビュー25周年を祝う横浜アリーナ2daysの後、坂本真綾は一度音楽活動を小停止するかのようにライブから離れ、声優活動やミュージカルへ出演などをしていたが、突然ミュージカルの降板が発表されると様々な憶測を呼んだ
降板理由が当時伏せられたからである
しかしその降板理由が真綾の妊娠だと判明すると祝福ムードに包まれた

そうした嬉しい出来事もあってライブは当然止まっていたわけだが、5月に「菫/言葉にできない」をリリースすると遂にライブ活動の再開を発表
復帰舞台は真綾といえば、「ここ!!」な東京国際フォーラムに
公演前日には「まだ遠くにいる/un_mute」のリリースが発表されるサプライズも

ステージにはコンパクトに折り畳めそうな大掛かりな幕
国際フォーラムのステージをずいぶん狭く使っているように見えるが、かつて年越しをやったこともある国際フォーラム
使用方法を熟知している真綾だからきっと驚くような仕掛けがあるはず

日曜日とはいえあまりにも速すぎる16時頃に開演を告げるブザーが鳴り、それから始まりそうで始まらない状況で待っていると数分後に暗転
場内に都会の喧騒が流れるのはミュートを解除したからだろうか
そう考察している間に、

河野伸(Keyboards & Bandmaster)
佐野康夫(Drums)
大神田智彦(Bass)
設楽博臣(Guitar)※上手
外園一馬(Guitar)※下手
金原千恵子(Violin)
笠原あやの(Cello)
稲泉りん(Chorus)
高橋あず美(Chorus)

という今回のバンドメンバーが
外園や佐野はワルキューレやスキマスイッチのライブでも目撃しているので、久々な感じはしない

そこからあまり間をおかずに、真綾もステージに姿を現すが、横アリで堂島孝平に

「美しいルンバ」

と称された時とは真逆で衣装はシンプルに水色のものを着用している
今回はそういうコンセプトなのだろう
「Follow Me Up」のツアーは途中、派手なドレスを着用していたし

今回のライブはシングルやアルバムのリリースに伴うものではない(横アリは「Duet」のレコ発を兼ねたものでもある)
なので大きな縛りはなく、「確実にやるだろうな」という曲も2曲だけだが、タイトルである「un_mute(無音を解除するという意味の造語)」がステージバックに映し出されるとその2曲のうちの1つ「菫」が早々に演奏
くるりの岸田繁が作曲したこともあって、佐野の柔らかなドラムや河野の鍵盤、外園のアコギが軸となっているのは「図鑑」の頃のくるりを彷彿とさせるものだが、

「ひとり またひとり 通り過ぎてく 右へ左へと」

を表現するような絵が後方に投影され、その歌詞は岸田ではなく真綾が手掛けたもの
しかも岸田が自分の曲に歌詞が乗ったのを喜んでいたのを思い出す
真綾はセルフプロデュース故に、椎名林檎やthe band apartなど驚くようなミュージシャンから楽曲提供してもらうのは珍しいことじゃないけど、序盤からやらなければならない曲をやるのはいかにも真綾
すぐに自身が作詞作曲した「言葉にできない」を続け、やるべき曲を序盤でやり切るのもフェスでは空気を読まずにやりたい曲をやりまくる真綾らしい

外園は今回アコギを奏でている場面が多く、設楽は独特なギターを弾いている場面、金原と笹原によるストリングス隊がリフを形成したりと注目するべき箇所は多々あるが、今回のライブは2daysしかないのであっという間に終わってしまうことやフルキャパライブは3年ぶりであることを告げつつ、

「今回のライブは25周年記念の横アリ公演でやりたくても出来なかった曲を中心にする対極になるセットリストになります」

と今回のセトリを事前告知
横アリ公演の実質延長線上のセットリストであることを明かした上で、横アリで演奏されても違和感を全く感じさせない壮大な「SONIC BOOM」は「Follow Me Up」のツアー以来
あの時はギター1人で回っていたので、その時よりもアンサンブルは強い

「これは昨日、聞いた方の方が得しているなあ…」と思う「雨が降る」では、設楽のギターが響きまくる一方でバックに映された風景がやがて雨の日の東京になるというのは見事な演出
東京で雨が降ったらきっと「雨が降る」を聞きたくなるだろう

大神田が歌うようなベースラインをなぞりつつ、自身もステップを踏みながら演奏するのが印象に残る「プラリネ」と「かぜよみ」収録曲が続く(演奏は2012年以来)が、

「「かぜよみ」は私にとって転機となったアルバム。当時あまりライブをしなかった私が今もですけど(笑)、久々に「ライブしたい!」ってなって、バンマス誰にするということから「ライブが嫌にならないように、優しい人がいいね」ってことで河野さんと出会いました。」

と「かぜよみ」は真綾にとって転機となった作品かつ、現在のバンマスである河野伸と出会うきっかけとなった作品
最大のヒット曲「トライアングラー」が収録されたのもこのアルバムだし、

「君と歩いた場所が増えて
星の名をいくつか覚えた
好きな色や 好きな本や 歌だってたくさん知った
このままずっとそばにいたら
好きなものだけを数えながら生きていけるなんて
そんなこと思ったりするんだ」

と「プラリネ」の歌詞はポジティブだ
真綾自身が「転機となった作品」というのも無理はない

「いないから悪口言うけど、入口付近に沢山お花が届くじゃないですか?菅野よう子さんが「ばぶ~」と書いたお花を送ってきました(笑)ふざけてるでしょ(笑)」

と過去にFlying Dogs主催のフェスにて、当日出演キャンセルした菅野よう子を

「菅野よう子〜」
「ふざけんなよ〜」

と「プラチナ」に載せて歌った毒舌ぶりはこの日も発揮
菅野よう子をこう容易くいじれるのはそういないだろうが、その菅野よう子が携わっていた頃の「DIVE」より「ねこといぬ」も久々に 真綾の曲でジャズによった曲はそう多くないだろう
けれども、

「だけどふたりとても仲良しなの
ふたりじゃなきゃ何もやらないの
不思議なリズムで息をするような
この感じが
ずっと
続くのでしょう」

は夫の鈴村健一との関係を歌っているかのようだ
ちなみに演奏は2011年以来
しかもあの東日本大震災の中でも、真綾はライブを開催しており、芯の強さに改めて気付かされた

まるで鳥が羽ばたくかの様子を描いた全編英語詞の「Here」では、ほぼアコギ担当と化している外園が奏でる繊細なメロディを中心に回っていくが、個人的に驚いたのは「Waiting for the rain」
何もなかった世界が煌めくように、自然が栄えていく映像が背景に投じられるものの、実はこれ「学戦都市アスタリスク」の主題歌として投じられたラスマス・フェイバーが提供した曲でもある
「Follow Me Up」のツアー以降、ほとんど演奏されてなかったからまたあの神秘的な世界に触れられたのが嬉しい限りである

最新フルアルバム「今日だけの音楽」に収録されたアイリッシュとカントリーが混ざりあった「ディーゼル」ではコーラス隊のドライブするような動きに、普段運転しない自分もドライブしたくなるが、ここで東京国際フォーラム2days前に突然発表された新曲に触れるも、

「両A面?今A面って言い方あるんでしょうか?」

ととぼけた様に話す真綾(笑)
5月にリリースしたシングルは何だったのかというと話だし、

「両方とも描き下ろしでとてもシリアスなので私が作詞作曲した新曲で現実に戻ってきてください(笑)」

と自虐するのはあまりにシュール(笑)だけれども、既にPVも公開されている「まだ遠くにいる」はサビとそれ以外の差がとてつもない1曲
「こんなに雰囲気変わる曲あった!?」と自問自答してしまうほどに
1コーラスだけなら視聴できるのでぜひ聞いていただきたいが、作詞を担当した真綾は

「遠い未来の話で私達のツケをあとの世代が払わされることになるけど、命を輝かせて人々は生きているという曲」

とのことで、「躍動」に匹敵するほどハードな世界観になっていると思われる

もう1曲の「un_mute」は今回のライブタイトルであり、恐らくライブタイトルはここから取ったのだろう
音を遮断した世界と遮断を解除されたが上手くコントラストされており、音源になる日が楽しみ

このように曲調が大きく変化する曲が続いたので外園のアコギや河野の鍵盤がとびきり良いメロディを奏でる「Remedy」が癒やしにさえ聞こえるが、真綾が1度ステージから引っ込むと「お望み通り」のインストセッションを開始
「今日だけの音楽」のツアーに参加できなかったので、真綾の歌声も聞きたかったけど、外園は初めてエレキギターを手に
ワルキューレやスキマスイッチのサポートでも魅せているギタープレイを設楽と共にバトルのように示すのは彼らのギターをフューチャーする目的があったのだろうか

ステージに戻ってきた真綾は決して派手ではない白い衣装に身を包んでおり、佐野が丁寧にビートを刻む「カザミドリ」を歌唱し始めるが、外園はここでもアコギ
そのため以前としてオーガニックな感じだし、これも「かぜよみ」収録曲
「かぜよみ」をフューチャーしたライブをしているようにも受け取られかねないが、真綾は否定
しかしながら「かぜよみ」がリリースされたから10年以上経過して、今になって歌詞の意味が分かったり、河野が飼っているペットの犬が年を取ったりと月日の長さを感じているようだ

一方で「カザミドリ」に携わった渡辺善太郎(名作「凪のあすから」にも携わっていたと知り、ライブ後に少し悲しみを覚えた)が昨年亡くなり、もっと感謝を伝えたかったことを真綾が告げ、実質追悼(ではないと真綾は話しているものの、別れを惜しむようにも聞こえた)のように演奏された「Hidden Notes」は渡辺が最後に携わった真綾の曲となったが、今聞いても新しくこれから何年も何十年も愛されるだろうポップス
彼が関わった曲を聞いてみたかったと心から思う

真綾のライブの楽しみ方は普段、自分がワンマンに足を運んでいるアーティストとは大きく異なり、純粋に真綾の歌声やアンサンブルを聞きに来る方が多い
故に最初から誰1人起立することなく、むしろ起立したら雰囲気を乱してしまうような危険性も孕んでいたが、サスペンチックなムードから一気に視界が晴れたように輝く「空白」はようやくこの日演奏されたアッパーな曲だった
外園は遂にエレキギターに持ち替え、佐野も激しくドラミングすれば、国際フォーラムの雰囲気も大きく変わる
いや、変わらざるを得ない

2019年のロッキンではリハとして演奏されたものの、フルで聞くのは久々な「レプリカ」で遂に起立するものも現れ、大神田がバッキバキにベースを鳴らしていくとライブは残すところあと数曲
それも2時間も経ってないのでかなりスピーディーに進んだが、

「子育てって私にとっては初めての体験なんですけど、1日1日を大きく感じるようになりました」

と初めて子供が出来たことで真綾の生活も大きく変わった
昔ラジオで聞いた際、結構丁寧に物事を進めている印象だったが今はどのように日々を送っているのだろう

そのうえで以前ロッキンオンのインタビューで「次のシングルコレクションは「ハナミチ」にすることも考えている」と話していたように、真綾のミュージシャン活動は終盤に入ってることを仄めかしていたが、

「まだやりたいことが一杯あるので、もう少し歌いますが、来年会える予定があります!!」

と来年ライブがあることを報告
引退はもう少し先だろう

「皆さんが望む限り、歌い続けます!!」

と宣言したし

舞台を突然降板したりしたことも謝罪したが、

「また会うために身体には気を付けて!!元気になれる曲で終わります!!」

と2020年にリリースされた「クローバー」
イントロが鳴った途端、ほぼ一斉に客席は立ち上がり自分も起立したけどようやく聞くことが出来た
あの年行われていたアコースティックツアーでは演奏されていたものの、当時は今のようにライブにはとても参加しにくい環境
自分のように、「やっと聞けた!!」な方が多かったと思う

そして真綾のライブの最後は「ポケットを空にして」が多いが、まだ合唱できないので今回も封印
変わりに最後を飾ったのは「菫/言葉にできない」にstudio live ver.が収録された「千里の道(念のため、「せーのっ」で始まる真綾があの吸血鬼として出演したアニメの主題歌とは一切関係ない)」
当然studio live ver.ではないので、この2日間でその全貌が明かされたが河野の鍵盤を中心に踊らせるダンサブルな曲で「いつ音源になるの!?」と期待を膨らませざるを得ないし、

「さあ今日も1日生き延びた それじゃあ乾杯」

とお互いの健闘を称え合う歌詞には、

「昨日、これで終わるのも良かったと思った!!」

と真綾が自画自賛するのも納得
今後のライブは「ポケットを空にして」と共に2枚看板となりそうな気がするが、アンコールはないので演奏を終えると挨拶が終わり次第、ステージからサポートメンバーは早々に撤収
真綾も客席に挨拶したらすぐに去って行った

初日参加された方から「セトリが凄いことになってる…」と話は聞いていたけど、流石はフェスで自分がやりたい曲を優先する真綾である
2014年頃からツアーには参加しているが、過去1番にマニアックなセットリストだろう
初めて参加した方はどのような感想を残すか、戸惑うほどの
自分ならミュートを解除したら爆音のロックを再生するが、真綾はゆったりと聞ける曲を望むようだ

終盤のMCでも告げたように、真綾のライブを見れる機会も次第に終わりが見えてきた
「もう少し」がどれくらいかは把握できないけど、真綾のライブはどのアーティストよりも音楽と向き合える時間だと思う
可能な限り、真綾のライブはますます見逃せなくなったが何はともあれ無事にライブが2つ終えただけで完璧
世界にこれ以上いったい何を望むっていうんだ

セトリ
言葉にできない
SONIC BOOM
雨が降る
プラリネ
ねこといぬ
Here
Waiting For The Rain
ディーゼル
まだ遠くにいる
un_mute
Remedy
お望み通り(バンドのみ)
カザミドリ
Hidden Note
空白
レプリカ
クローバー
千里の道





※前回の横アリ2days