前日見たORANGE RANGEが物心がついた頃、最初に追いかけたバンド

だとすればこの日見るPELICAN FANCLUBは全国流通を始めた頃から追いかけている数少ないバンドである


とはいえ、常に追いかけてきたわけではない

ギターが脱退して3人編成になってしまった後は、しばらく追いかけなくなってしまった


けれども一昨年配信ライブでペリカンを画面越しとはいえ、久々にライブを鑑賞

それから1月に見たバクホン最後のコーストライブにゲストとして出演した際、凄まじい爆音に彼らの底力を改めて体感した


そして3月にリリースされた「解放のヒント」が決定的

劇的な進化を体感してしまった以上、6年ぶりに彼らのツアーに参加することに


開場入り前、自分は「WWWっていつ以来だろう」と思いながら会場に向かっていたが、現地につくとWWW Xだったことが判明

同じ渋谷にあるクアトロとは異なり4階まで移動する手段が階段しかないのは不便だが、いざ中に入ると、会場内はCLUB CITTAに似ており、客席後方からも見やすいのがメリット

こういう会場は増えて欲しいものだ


当日券は出ているとはいえ、後方までぎっしり埋まるほぼ満員の中で少し定刻を過ぎた頃に暗転

SEが鳴る中でカミヤマ(Ba.)とシミズ(Dr.)が先に登場し、フロントマンであるエンドウ(Vo. & Gt.)もあとからステージに来ると、最初の「儀式東京」は「解放のヒント」のオープニングであり、スタジオコーストで行われたTHE BACK HORNのライブに出演した際にいきなり新曲として演奏された曲


カミヤマのベースが強く、シミズはトラップビートを刻んだりと身体を温めていくかのようにダンスミュージックを形成していくが、ギターも一部同期が用いられていることからエンドウはステージで奇妙な舞も踊って見せる

それは自身の曲に自身も踊らされているということでもあるが、終盤の


「儀式を 始める」


を歌い上げると間髪入れずにシミズが忙しくビートを刻み、やがては16分となるビートの上にエンドウがギターを弾きまくる「7071」では、早くもレーザーを展開

渋谷と言えば、常々喧騒している都会であるけれども、ペリカンが始めた儀式によってWWW Xは日常から切り離された

爆音と轟音が支配する世界に


「誰の人目も気にせずに東京 ここで一句」


と詩人のようにエンドウは告げ、同期も歌詞も主張が強すぎる「俳句」に手数の多いビートをシミズがロボットのように繰り返しながらも刻む「VVAVE」では再びレーザーを飛ばしつつ、エンドウは


「容赦はしない」


と宣戦布告するかのように歌うが、これは敵対しようとしているわけではない

あなたがこの場所を選んでくれたのは、信頼しているということ

だから遠慮なくやることを宣言しているのだ

エンドウが奇妙な舞をしている時点でもう自由だけど、ドキュメントの序文を終えたところでエンドウは、簡単に自己紹介していくが、


「05/15。東京 WWW X天気は曇り。やがて快晴に向かうでしょう」


と当日の状況を説明するエンドウ


太陽神であるBase Ball Bearが野音でワンマンを行っているものの、ライブが始まる直前に渋谷は少し雨がパラツイていた(当日は曇り予報。折りたたみ傘を持参している方がも多かったと思われる)

けれども雨雲を妨げるかのようにギターロック調の「青色のカウントダウン」で快晴を祈願すると、シミズがパンキッシュにドラムを叩き、エンドウやカミヤマはダウナーよりの音を鳴らす「Meta」と「快晴祈願はどこにいった!?」な曲に繋がるが、ペリカンのルーツはオルタナ•シューゲイザーにドリームポップ

並びにダンスミュージックの影響も受けているバンドだ

なので「Meta」のような曲のほうがペリカンの王道であり、「青色のカウントダウン」の方がペリカンには異色となる(インディーズ時代初期はドリームポップがとても強かった)


エンドウによるギターリフが非常に耳に残る「空は青くなかった」、無重力状態で宇宙を浮遊しているかのような「Astro Girl」でカミヤマはシンセベースを使用

よりディープな世界観を見せつけたところで、エンドウは「楽しいです」と一言告げるが、


「PELICAN FANCLUBってバンドなのに、鳥は嫌いなんですよね。」


と「ならなぜそのバンド名にした!?」と首を傾げたくなるような事を言い出すエンドウ


「なんでみんな空を飛びたがるか、不思議なんですけど空は自由だからでしょうね。みんなを浮かせて見せます。」


という哲学的な答弁も行っていくが、エンドウの言葉は少ないという訳でもなければ多いわけでない

言葉に熱を帯びているわけでもなく、冷静に話しておりその様子はストイックと捉えていいだろう


シミズが丁寧に四つ打ちを刻みながらカミヤマがどっしり構えるようなベースを「ユース•グラビティ」を展開すると、「星座して二人」は牛丸ありさ(yonige)の声を同期させる形式で演奏

Official髭男dismの「Cry Baby」の転調が多すぎて話題になったが、これも非常に転調が多い

アンサンブルもどんどん激しくなっていき、牛丸が実際にいたらどれほどの火力を生むか気になる所存である


「解放のヒント」収録のシングル曲のうち、スタジオコーストでは唯一演奏されなかったスケールの大きい「Who are you?」もこの日は余すことなく演奏され、拳が上がりまくるが、エンドウのリアクションは、


「まだ行けるだろう?」


といった感じ

言葉を発することなくジェスチャーでそのように伝えたあとは、「スリーピースでもペリカンは変わらん!!」とサウンドで訴えた「Telepath Telepath」

あまりに気持ちよかったのか、最後にジャンプを決めたエンドウは、また「楽しいです」と口にするが、


「アルバム作るのに4年かけたんですよ。途中でどう表現すればいいか分からなくて。」


と話したように、「Telepath Telepath」が収録された「Boys just want to be culture」からアルバムがリリースされるのにはかなりの時間を要している

ギターが離脱したことやコロナ禍に入ってしまったことなど様々な要因があったと思われるが、


「でも「三原色」、「ディザイア」、「Who are you?」。これらが「解放のヒント」となりました。」


とエンドウが話した際、場内に衝撃が走っただろう


なぜなら先行シングルは、アルバムを制作する際の途中過程としてシングルカットされるもの

タイアップが付いたことでパッケージ化されたり、アルバム制作までの途中経過として配信されたりとアルバムで繋いでいくためのものだ


けれどもエンドウは先行シングルを通じて自問自答を行っていった

その先行シングルが「解放のヒント」となって、アルバムにたどり着いた訳だが、このような方法で制作するミュージシャンは滅多にいないだろう

昔、サンボマスターがレコーディングするまで時間を掛けるという話をウィキペディアで見たが、エンドウの制作方法は極めて異例

エンドウアンリがいかに天才的なミュージシャンか、分かる一面だ


その上で、「解放のヒント」のテーマは「自己愛」であることから、


「昔、教室の隅にいたエンドウ少年を抱きしめたい。自分を肯定することが生きることに繋がるから。」


と話し、


「黒歴史も、ライトで照らすと明るい未来が浮かぶ。」


に繋げっていたが、自分にとっての黒歴史は2016年

ブラック企業に入社してしまったのが運の尽き、パワハラで退職に追い込まれ人間不信になってしまった


にもかかわらず自分はライブ会場に足を運んでいた

自分にとってのアサイラムがライブ会場くらいしかなかったからである


あの頃を振り返ると、


「同時進行で何か出来たのでは?」


と今でも悔やんでいる


その間にもっと読書、トレーニング、音楽探求…

挙げ出したら切りがない

自分は半年を棒に振ってしまったようなものだから


でもライブを見てなければ、きっとこの世にはいない 

ライブが自分が唯一自分で居られるような場所だったから


タイムマシンがないから過去に戻ることなんて当然不可能

しかしタイムリープ出来るなら、その時の自分を抱きしめたい

「ライブに行きまくるのは間違いではない」と


覚醒した天才、エンドウだからこそ思い付いたであろう「新世解」をカミヤマのスラップベース、シミズの16分ビートで踊らせ、


「透明になれたらいいのに 自由自在に姿を変えて」


とエンドウ流の表現で自己愛を描いた「透明願望」が透明のように会場に響くと、「Amulet Song」からはシングル3連発

「Amulet Song」に出てくる


「きっと いつまでも君は生きれない いつまでも綺麗に生きれない かける言葉はない 汚れる人は美しい」


のように、やがて死んでしまうのは分かっている

それどころか純白だった生命は次第に汚れてしまうことも

だとしてもこのライブを見たら、


「いつまでもここで生きていたい いつまでも綺麗に生きていたい いつまでもここで生きていたい かける言葉がない 戦う君は美しい」


に変化するし、ずっとここで生きていたいと思う

ライブハウスでいつまでもずっと音楽を浴びたいと


そのまま音を切らさないように、エンドウがイントロのフレーズを弾く「三原色」では三原色だった照明がやがて虹色に変化する美しい演出をオルタナサウンドとともに芸術的に堪能させれば、クライマックスはやはり「ディザイア」

ペリカンの武器であるオルタナを残しつつ、歌謡テイストを上手く吸収させるアレンジによって、ペリカンの音楽はより多くの人に届いた

そう届かせたのは、KANA-BOONの谷口鮪が制作に関わったのも大きいけど、轟音なのに切なくもある

長年ペリカンが積み重ねてきた音楽の1つの集大成がこの曲ではないか


「どうせ灰になるなら生命に燃やされて」


には無論、早すぎる

ここからペリカンは更に広い場所へ

そんな輝かしい未来へこの曲は誘うはず


最後の曲の前、エンドウはこの日3回目となる「楽しいです」を口に出すが、


「今日何回も言ってるよね?大切な言葉だから、簡単に言いたくない。でも言えるときにちゃんと言わないと。」


と言葉の重みを特に理解しつつ、けれども決して後悔しないようにする

だからスタジオコーストが閉館する際のイベントでTHE BACK HORNに招かれたんだなと感じるエンドウの人間性が出ているが、


「僕は感情をうまく出せない。だから音楽で感情を表現しています。」


とも話した


この日、エンドウは高揚してピックを後ろに投げたりするシーンや気持ちが高ぶってドラムセットから飛ぶシーンはあった

けど表情はほとんど見ていない

リズム隊の2人が笑顔を見せているとは対照的に

だからだろうか、ペリカンの歌詞が非常に独特なのは

初期の頃から特に個性的だったし

エンドウにとって、音楽は感情を表現するための大切なものなのである


エンドウ「このドキュメントが皆さんの人生のヒントになれば。」


と残して、ラストの「少女A」ではシューゲイザーサウンドが爆発する中、


「どうにかして 今日を守って 今日を祈って 今日を描いた どうにかして 今日を歌って 誰かが何処かで繫がる歌」


と1つの曲を中心に回る世界が描かれている「少女A」で終了


アンコールで戻ってくると、無事にツアーが完走できたのでこのツアーを振り返るが、


「久々のツアーで全国を回れて、楽しかったけど福岡に行ったとき、「PELICAN FANCLUB一行です」と名乗るんだけど、PENICILLIN FANCLUBにされていた(笑)あのホテルマン連れてくればよかったな〜」


と福岡で起きたエピソードを話すが、ホテルマンはPENICILLINのファンクラブと勘違いしたのだろう

ティーンエイジ・ファンクラブに対してどんな反応をそのホテルマンがするかも見てみたい


その上で、


エンドウ「You Tubeでこの前、2010年代のライブ映像見ていたんだけどめちゃくちゃ飛沫飛んでる。笑えないよね」


と話したが、コロナ禍にならなければ「笑えない」なんて言われなかっただろう

この状況下だと発声は最後に回される可能性が高い

飛沫やエアリゾル感染が危惧されるから

まともに発声できるのはいつになるのだろう?


そんな話題に通じるように、


「2020年に制作した曲だけど、まだ合唱できない(笑)。いつかは出来るようになれば。」


と紹介されたのは「Day in day out(「ディザイア」のカップリング)」

そう言えば、閉館したスタジオコーストのライブでもこの曲は演奏されていたが、この曲にそんな経緯があったとは…

合唱できるその日まで、3人は歌ってくれるだうけど、この次の光景

全員で合唱する景色を見たい所存だ


「続きはCDや作品の中で。またどこかで!!」


とエンドウは告げ、最後はドリーミーなサウンドに包まれる中で、


「今日の終わりを少しでも愛せたらな」


とこの日の風景を閉じ込める「騒がしい孤独」で終了

ライブが終わるまで2時間も経ってなかった


何気なくタワーレコードで見つけた「CAPSULE HOTEL」

これを手に取ってなかったら、ペリカンの音楽と長く向き合うことはなかっただろう


6年前のミイラズとのツーマンを見た際、自分は「売れてくれ」と願った

その後にメンバーが離脱してしまったわけだが、ペリカンはメジャーに移動

このWWW Xを見て、完全に売れたと確信していいだろう

離れた期間も含めたら8年近く応援している

これほど感慨深い瞬間はなかっただろう


次のツアーは未定

けれども、ここからまたペリカンとの距離は近くなるだろう

その次まではCDや作品で楽しむが、このライブの終わりを少しでも愛せたらな


セトリ

儀式東京

7071

俳句

VVAVE

青色のカウントダウン

Meta

海は青くなかった

Astro Girl

ユーラ•グラビティ

星座して二人 feat. 牛丸ありさ

Who are you?

Telepath Telepath

新世解

透明願望

Amulet Song

三原色

ディザイア

少女A

(Encore)

Day in day out

騒がしい孤独