コロナ禍になってから配信ライブで定期的に見たり、リスアニのイベントで久々に生で見てはいたものの、fhánaのワンマンに参加するのは2019年の12月、舞浜アンフィシアター以来

その前回のワンマンで翌年にあたる2020年、佐藤はアルバムの制作を明言していたものの、コロナ禍に入ったことで状況は一変

最終的に2019年から2022年の4年に渡るfhánaのドキュメンタリーというべき、「Cipher(17曲入で75分!!)」が完成したのである


この「Cipher」リリースに伴うツアーはわずか2週間足らずでスタート

関東は現状この公演しかない

そのためJAPAN JAMの翌日だろうが、参加を決断した所存である

前日にJAPAN JAMは参加できなくなってしまったが


fhánaが中野サンプラザでライブをするのは実に3年ぶり

当時はベストアルバムのレコ発なので、全国からふぁなみりー(fhánaのファンの呼称)が駆けつけたが、流石に今回はこのライブの後、7月に新阪名の地方公演が控えているので遠方からの遠征は少ない

けれどもどうやら客席は2階まで埋まったらしい

ハーフキャパながら1階がほぼ埋まったのは「愛のシュプリーム!」のヒットが大きいと思われる


GW最終日とはいえ開場16時、開演17時とあまりに早すぎる時間設定で定刻を少し過ぎたあたりで暗転

先に佐藤(Key. & Gt. & Vo.)とwaga(Gt.)、Kevin(Sampler. & グロッケン & MC)にサポートメンバーとしておなじみの前田(Ba. from androp)、山本に変わってピンチヒッターとなった北村(Dr.)が登場

最後にtowana(Vo.)が登場し、SEに導かれるように「Cipher.」からスタートするが、今回のライブは事前に「Cipher」を全曲演奏することがアナウンスされている

つまり「Cipher.」から始まって「Zero」で終わることが既にネタばらしされているようなもの


そのため始発駅から終着駅に至るまでの流れが1つのポイントとなるが、美しい佐藤の鍵盤により生命をもたらすかのようにwagaのギターは序盤から轟音

思えばコロナ禍直前の2019年からwagaのギターは轟音化し、前回見たワンマンでは最後に凄まじいギターを鳴らしていたが、初っ端からノイジーなギターが響くのは想定外

ちなみに「Cipher.」は今年になって、本格的に演奏され始めた曲だが、3年前の中野でもこの曲は演奏されている


プログレとEDMが混ざり合って、前田のゴリッゴリなベースと共にKevinは手拍子を煽る「Hello!! My World!!」、北村が手数の多いドラムをこなし中野サンプラザが虹色に照らされる中でtowanaのハイトーンボイスが響く「nameless color」とアッパーな曲を続けるが、この時自分はドラムは山本が叩いているものと思っていた

一時期ドラムを叩いていたよっちは多忙だし、山本はレコーディングで叩いたり、リスアニライブでも担当していたからこの日も叩いていると思ったが、諸事情で交代に

山本の公式ツイッターを見たところ、fhánaの佐藤とkevinのツイートには「いいね」しているので、喧嘩別れしたわけではない

緊急の事案が発生してしまったのではないだろうか


佐藤による挨拶変わりのMCを経て、


「今日は、音と光に酔いしれてください」


とこの後への期待を膨らませると、佐藤が奏でる鍵盤は美しいものの、


「きっと未来を掴むためには 何かを捨てなきゃいけない」


とシリアスなフレーズが目立つ「世界を帰る夢を見て」、佐藤もギターを背負ってwagaのギターと前田のバッキバキなベースからオルタナサウンドを形成する「真っ白」とwagaが作曲した曲が続く

fhánaを存じない人に「この2曲、カップリングだよ」なんて紹介したら信じてくれないだろうけど、CDJ19/20に出演した際にも演奏され、アーバンなトラックにkevinとtowanaがラップを載せる「Unplugged」も元はカップリングだったりする


そんなカップリング曲3曲が収録されたアルバムは、75分という大作になっているので、


kevin「CDの限界に挑戦している(笑)」


と自虐(笑)(昔、UVERworldが「TYCOON」をリリースする際、収録曲が多すぎて1枚に収めるために収録予定だった2曲を「DECIDE」に収録したり、曲と曲の間を詰めたりと試行錯誤していたことを思い出す)

それを2章に分けたのは名采配である


「前回のアルバム(「World Atlas」)から4年も経って。今回のアルバムは1番古い曲(「僕を見つけて」)だと2019年。新しい曲(「Zero」)だと今年3月に出来ているんですよね。その間に世界が変わってしまって、僕たちもみんなも失ってしまったものがあるけど、消えない創作の火を歌った曲」


と佐藤が話すように、あの「World Atlas」から4年も経過したわけだが、このMCに導かれた「星をあつめて」では、kevinが鳴らす鉄琴の音が新しいモノが完成したかのように輝き、天井にある回転するミラーボールはやがて虹色へ


この曲の断片は、3年前の舞浜アンフィシアター公演のアンコールで少しだけ演奏されていた

あのときは佐藤の鍵盤とtowanaの歌のみ

翌年2020年の3月に開催予定だった深窓音楽会で聞く予定だったものの中止となり、現場で聞くまで2年もかかってしまった

そのため、「やっと聞けた…」感がどの曲よりもあるし、ミュージカルで使われても普通に馴染むのではと自分は思っている

ダンサーが踊っている姿が想像できるから


その直後にステージはtowana1人となり、towanaは「Logos」を朗読し始めるが、この朗読、音源以上に長く感じた

その理由は新しい単語を加えた訳ではなく、towanaが丁寧に丁寧に朗読したから

その結果、音源で聞いているとき以上にドキッとなってしまう部分もあるが、


「武器と武器を持って争い続けたのは歴史が終えてくる。」


が響いてしまった方は多いだろう

この朗読劇のコンセプトは架空のアフターコロナ

けれどもそれは今では一部現実となってしまった

あの時は戦争が起こるなんて思いもしなかかったし、朗読劇の残りも現実になってほしくもない

フィクションのようで、ノンフィクションに類似しているからこの朗読は恐ろしく聞こえる


しかしこれは佐藤たちが帰還して配信ライブで見た際以上にエモさが増した「Pathos」において、


「悲しくない話をしよう」


をブーストさせるファクターでもある

このあと悲しい話(=「Zero」)は出てきてしまうけれど…


音源では佐藤とtowanaによる弾き語りに近かった(ように思われる)「願いごと」では、アンサンブルが入ることによって、この曲をドラマチックに仕立て上げるが、その強まった願いが引き継がれるように「where you are」の


「数え切れぬ痛みが僕ら離さないけれど それでも光探して歩き出す それぞれの未来へと」


を呼び出す


音源ではこの2つの順番は逆だったが、それは「僕を見つけて」に繋げるように曲順を組んでいたから

「僕を見つけて」はあまりに強すぎてなかなか配置が難しく、「Zero」で終わることを考えると一部の楽曲はポジションが固定する

その一部に「僕が見つけて」が含まれていたため、この2曲を逆にしたのだろう


サポートメンバーの紹介では、


前田→前日andropのワンマンで北海道から東京に移動してきたにも関わらず、「お世話になっております」の一言(笑)

北村→ピンチヒッターだが、リハ1回のみで見事にこなしたことから「パーフェクトヒューマン」と懐かしい言葉で表現(笑)

澤村(マニピュレータ)→ちょこっと顔を出す程度が最古参。しかしリハではかなり重要な役目を果たす


と紹介した上で、fhánaは先日結成11周年を迎えたばかり

これについて、ここまでほとんど話してなかったwagaが、


「干支が一周したね」


とうまく例えたが、佐藤が話した通り社会人になったり、家庭を持つようになるなど12年間は非常に濃い

自分も12年前は小説を読むことも文章を書くことも嫌いだった

12年という時間は劇的な変化をもたらす程に大きいのである


そんな話をしていると急にkevinが前に出てくるが、


kevin「佐藤さんが「早く出てこい」って顔してた(笑)」


とのことで、北村がリズム四つ打ちに佐藤が爽やかなメロディーを載せる「GIVE ME LOVE!」でtowanaとkevinが華麗にラップを決めると、ファンクやゴスペルなどのありとあらゆる要素が融合した「4分半のワンダーランド」こと「愛のシュプリーム!」はkevinに合わせてサビで踊りまくり

wagaも気持ちよさそうに跳ねまくっていたが、去年放送されていた「小林さんちのメイドラゴンS」で自分は一度もOPを飛ばさずこの曲を見ていた


ここまでアニメの世界観とシンクロした楽曲は珍しいし、最初に涙を流したことを覚えている

それは京アニが帰ってきたものあるけど、やっぱり「愛こそが全て」なんだなとこの曲でより思った

待ってくれる人の愛があったからこそ、京アニが帰ってこれたのである


ジャミロクワイを彷彿とさせるサビ(「Canned Heat」に近い)やど派手なホーン、並びにwagaのブルージーなギターが会場をダンスホールに変える「Air」、この曲のために用意されていると言っても過言ではないシンセを佐藤がアウトロで弾きまくってwagaのギターと激突するような「Relief」で踊らせると、towanaは今年から新装したマイクの距離感が上手く掴めないことを話しつつ、「Air」を歌唱しているときに感慨深くなっていたようだが、


「こうして人前でライブ出来ることが嬉しい」


と久々に全国ツアーを回れることを喜んでいた


幾度もfhánaは配信ライブをやっていたけど、やっぱり目の前に相手がいるといないでは違いすぎる

しかもfhánaはここのところ、こうした大きな会場でワンマンが出来てなかった

アニサマやリスアニには出演していたけど、長時間やれるわけではない

こうして大きな会場で長時間ライブが出来るのは特に嬉しいのだろう


一方佐藤は笑顔を作ることが苦手のようで、笑顔を作るのが上手いkevinとは対照的、wagaに至っては表情が読み取りにくいとのことだが、再びアルバムの話に戻って、


「最初のステイホームの最中に曲(「Pathos」)を作って。配信ライブも何度かやったりしたけど、ふぁなみりーの声を集めて作った曲(「Choir Caravan」)もあって、この状況にならないと生まれなかった曲もあったと思います。」


と佐藤が話したように、コロナ禍にならなければ「Pathos」も「Choir Caravan〜」も生まれてない

失われてたものがあまりに多すぎて、マイナスからプラスには変化するまではまだまだ時間を要するだろうけど、プラマイゼロのゼロにはこれからゆっくり近づくだろう

この状況下でなければできない曲が生まれたのは決してネガティブではないから

様々なアーティストも話しているけど、この経験は必ず生きてくる


そして、


「何度でも何度でも闇に火を灯したいと、思います」


と佐藤が「Zero」のフレーズを引用し、喪失からの再生をテーマにした「僕を見つけて」で再会を信じるようにwagaがギターを引き狂って、ふぁなみりーのコーラスを集めた「Choir Caravan〜」から遂に「Ethos」を聞ける日が訪れた

本来ならCDJ20/21で聞ける予定だったから、これもかなりの時間を要したけど、


「何度だって再生するんだ」


のようにシーンはここまで再生した


ライブが非常にやり辛かった状況がここまで帰ってきたのだ

フェスも戻ってきつつあるし、ここからはより再生が進むように信じたい

どんな困難が待ち受けようが、文明が再生する様子を描いたようなwagaのギターソロを聞ける日々が続ければ、希望を持ち続けられる


そして最後はデモの段階からレディオヘッドを意識されていたらしい「Zero」

佐藤が話していた今年3月の曲がこれ

このタイトルの通り、世界はゼロに戻ってしまった

コロナ禍から少しずつ元に戻ろうとしたのが、ロシアとウクライナの戦争によりリセット

だから歌詞があまりにもリアリティあるものになってしまっている(逆を言えば、それがなければこの曲のタイトルも歌詞も変わっていただろう)


それでもfhánaは止まらない

「何度だって再生する」と「Ethos」で歌ったから

そして、


「旅を続ける またゼロになっても 何度でも 何度でも闇に火を灯し続ける」


と決めているから


そんなゼロからゼロに向かい、再び再生へ向かって歩み出すアルバムの世界観を再現するかのように本編は終了


アンコールで戻ってくると演奏されたのはfhánaの代表曲である「Outside of Melancholy〜」と「青空のラプソディ」

アルバムの世界観を再現するライブでありながらも、毎回のようにやっていたこの2曲を外すわけにはいかない

となると演奏されるのは必然的にアンコールになるわけだが、「Outside of Melancholy〜」でオルタナティブロックのようにぶつかり合う音は閉ざされていた扉を破壊して、憂鬱を取っ払う

そうして憂鬱から開放された先には、理想郷が待っている

その理想郷が中野サンプラザ

だからKevinのように誰もが飛び跳ねるのだ

憂鬱な世界から抜け出してここにたどり着けたから


そのKevinは「青空のラプソディ」を契機に、ダンスしたりラップをしたりとこのグループを代表するエンターテイナーとなったわけだが、スウィングをこれだけポップに、しかもwagaのあのギターソロはこのグループでなければ生まれなかっただろう

この曲でfhánaを知ってくれた方も多いだろうし、fhánaの4人に取っても決して欠かすことの出来ない大冊な曲だ


それからライブの感想をどういうわけか、疲労困憊状態のKevinに振りまくったり、物販紹介は何故か一品ずつ持ち込まれて行われるわけだが、なんとTシャツは全て完売した模様

fhána伝統(ということにしたいらしい)漫画タオルも残り10枚だったのには驚いてしまったが、所属レーベルのランティスも流石に焦ったのでは?


そのアンコール後のMCで発表されたのは、towanaがソロ名義で音源をリリースすること

詳細はまだ話せないようだが、佐藤が「楽しみだな〜」と話していたことから制作にfhánaは関わってない

誰が楽曲提供したのだろう

リスアニライブでの共演を見るとHoneyWorksは普通に有り得そうだが


そして佐藤は、


「この前、FC限定のイベントがあったんですけど、そこでものすごく感謝されたんですよ。普通に出来ていたライブが出来なくなってしまった時期もありましたが、僕たちもここにいるみんなとふぁなみりーに支えられています。砂漠のような物語をみんなで歩んでいきましょう」


と先日行わたFC限定イベントを振り返りつつ、この砂漠のような物語を共に歩んでいくことを誓いながら、fhánaの象徴とも言えるフラッグが客席中で振られる「World Atlas」を持って終演

終演BGMも流れて、記念撮影も行ったので、流石に終わりかと誰もが思った


しかしながら、


「なんか忘れてるな…」


と佐藤が話し、その忘れていたと思われるライブハウスツアーで新潟が佐藤にとっての凱旋公演であること、名古屋を久々に訪れることを話した上で、


「もう1曲やろう」


と急遽、1曲追加


最後はブラックミュージックをJ-POPに昇華し、前田のスラップベース(やっぱり前田のスラップベースは聞いてて気持ちがいい)がミドルテンポの中で冴えわたる「星屑のインターリュード」で終了

気がつけば3時間近くライブをやっていた


前回の中野サンプラザから3年

その間に世界は大きく変化したし、「Cipher」はその4年のドキュメント

その「Cipher」の起点となったのは3年前の中野サンプラザワンマン後に初めてリリースされた「僕を見つけて」だから今回の中野サンプラザ公演はまるで繋がっている 

あの中野サンプラザワンマンの続きを見ているかのように

fhánaはどうなったかを確かめるかのように


思えばfhánaは早い段階から配信ライブを実施していた

2020年の夏に行われた「Pathos」に冬の「Ethos」、2021年の春にスプリングライブ

有観客ライブがしにくいことから一時、色んなアーティストが配信ライブを行っていたが、新曲を作って自主的にレコ発ライブを行っていたのはfhánaを除くとそう多くないだろう(FLOWは12ヶ月連続でアルバム網羅ライブを行い、nano.RIPEは4日でほぼ全曲を演奏するコンセプト合戦みたいになっていた)


けれども曲は生まれど、人前で披露出来ない日々が続いていた

去年の後半頃から有観客ライブに参加はしていたものの、ビルボードツアーは延期となって開催できたのは今年になってから

楽曲は生まれど、ふぁなみりーに向けて演奏できないのは非常に辛かっただろう


それはふぁなみりーも同じ 

ビルボードツアーは参加できる方が非常に少ないし、イベントに出演しても持ち時間はそう多くない

そのため、新たに生まれた曲がライブで聞けない日々が続いていた


だから今回のツアーは4年のドキュメンタリーの終着点

特に「Pathos」や「Ethos」を「ようやく聞けた…!!」と感慨深くなった方は多いだろう

幾度となくライブが奪われそうになっても何度も再生した

その集大成がこのツアーだ


明日どうなるか分からない世界 

けれどもfhánaは何度も何度も闇に火を灯してくれるはず 

だからこれからも悲しくない話をしよう


セトリ

Cipher.

Hello!! My World!!

nameless color

世界を変える夢を見て

真っ白

Unplugged

星をあつめて

Logos

Pathos

願い事

where you are

GIVE ME LOVE!(fhána Rainy Flower Ver.)

愛のシュプリーム!

Air

Relief

僕を見つけて

Choir Caravan with fhánamily

Ethos

Zero

(Encore)

Outside of Melancholy〜憂鬱の向こう側〜

青空のラプソディ

World Atlas

星屑のインターリュード