2ヶ月前、去年の春からずっと延期になっていたホール公演は昭和女子大学人見記念講堂からLINE CUBE SHIBUYAに会場を移したものの、無事に完遂したcinema staff

そのホールワンマンでリリースは発表されていたものの、唐突に発売日が発表された最新作「海底より愛を込めて」のリリースツアーが翌月の11月から早くもツアー開幕(初日のO-EASTに至ってはまさかのリリース当日)

あまりの早さに驚いてしまう


入口付近で検温やアルコール消毒、セルフチケットもぎりなどをして入場したF.A.D. Yokohamaに来るのはSIX LOUNGEとSPECIAL THANKSのツーマン以来

今年足を運んだライブ会場はほとんどがオオバコかホール

小さなライブハウスとなるとLIQUIDROOMとここF.A.D. Yokohamaくらいだ

この日、下北沢GARAGEの閉店が決まり、シーンが騒然としていたが、LIQUIDROOMやF.A.D. Yokohama、何度か足を運んだBASISや窓枠がなくなる未来は来て欲しくない


定刻から少し時間が経過した頃に暗転

LINE CUBEでは流れなかったおなじみのSEが流れ、先に久野(Dr.)と飯田(Vo. & Gt.)が現れ、次に登場した辻(Gt.)と三島(Ba.)は客席にお辞儀

辻の元にはこの日もマイクスタンドがあり、コロナ禍を契機に辻にもマイクスタンドは常設されるようになったようだ


ライブはアルバムのオープニングでもある「海底」からスタート


「気づけば俺は海の底にいた」


から始まる歌い出しは、三島がインタビューでも話していた「大海原から放り出された」ことを想起させるし、歌詞の至るところに綴られているのはライブハウスが風評をくらったコロナ禍初期のこと

あの頃のワイドショーは思い出したくもないし、春フェスやフジロックを誹謗中傷したメディアのことを忘れる気は一切ないが、あの頃どのミュージシャンも苦しかった

これが出来たのは最後のようだが、最後にこのフレーズが出てくるのが当時の傷が癒えない証


「最低を繰り返して それでも尚 生きたいんだ」


のような状態が去年続いてのだろう


飯田が軽く自己紹介して、アルバムリード曲候補だった「I melt into the Void.」はSNSを風刺するかのようにダークなアンサンブルが染み付き、三島のベースもバッキバキ

しかも三島は辻以上に動いたり、煽ったりと色んな意味で存在感を発揮している

トドメのシャウトまで主導権はほぼ三島のもの


「海底より愛を込めて」には進撃の巨人主題歌用に制作されたパーツがいくつも収録されているが、それに関連するように「OCEAN(「Name of Love」のカップリング)」も演奏

辻の笑顔はライブを楽しんでいると誰もが実感したが、今回のツアーは「Name of Love」が鍵を握っているとはこの時点では気づかなかった


「もう年末ですね。cinema staffのメンバーはみんな年末が大好きです!!」


と飯田が報告したのは「え?」だが、


「もうすぐ仕事終わりますよね?忘年会のつもりで楽しんでください!!」


と飯田が促し、辻のギターが心地よく「若者たち」で広がっていくも、この曲も進撃の巨人用に制作されていた曲だ


「2000年後」


というこのフレーズ、アニメ1話のタイトルに出てくる言葉であり、いかに進撃の巨人を意識していたかが分かるだろう


続く「リバーシ」も進撃の巨人用に制作されていた曲

三島による全曲解説兼セルフライナーノーツを知らない限り、この情報を知らない方は多いと思うが、かつてUVERworldが「REVERSHI」で


「基本のオセロの勝ち方を教えてやるよ」


とストレートに用いていたが、


「盤上を埋める黒を白に染めるまで」


と三島もあまりに上手すぎる表現を行っている

ちなみにUVERworldのメンバーは実際にオセロも強いようだが、cinema staffはどうだろう


久野のドラムと飯田のボーカルのみが響く場内が、殺伐とした緊張感(手拍子をしたら締め出されるくらい雰囲気が凄い)を生み、怒りにも似た轟音を呼び起こす「動脈」はポストハードコアに近いものもあり、雰囲気をガラリと変える

辻に至ってはギターを掲げまくり、しゃがみ込んで弾いたりもしている(客席からは見えにくい)


直後、三島が煽りまくったのは「dawnrider」

特別珍しい曲ではないが、今回のツアーでこの曲がセトリに盛り込まれるのは意外である


「皆さん楽しんでますか?1人1人が自分のやり方で楽しんでいるのが伝わってきます」


と飯田が会場内の空気を観察するが、その飯田は鍵盤にスイッチしており、奏で始まるのは「Name of Love」

LINE CUBEではハンドマイクでこの曲を歌っていたが、基本的には飯田が鍵盤を奏でながら歌う方針のようだ

そのため、ギターは辻1人

薄くなった音圧はサビで久野がドラムを叩きまくることで補っている


鍵盤を使うのは「Name of Love」ということもあり、飯田はすぐにギターに戻るが、続いたのは静寂な雰囲気から始まり、


「赤く染まっていく 記憶はもう忘れたいのに  季節は染まっていく」


で照明が赤く染まりつつ、これを合図に勇ましい軍歌へ変わっていく「Fiery」


更にLINE CUBEでも演奏され、辻がセンチメンタルなメロディーを響かせて、飯田と三島の美しいハーモニーが終わりを告げる「さらば楽園よ(これも「Name of Love」のカップリング)」とここまで来ると、「Name of Love」のリリースツアーの続編を見ているかのようだ


このツアーを年を跨ぐものとなっており、ツアーも10本目と中間地点


「最近緊張しなくなってきた」


に「今更かい!!」とツッコミを入れたくなってしまうが


飯田「俺と久野は神奈川出身なんですよ。だから浜風が似合う(笑)久野はいつまで住んでた?」

久野「幼稚園かな」

飯田「俺は小2までかな。あ、2人(辻と三島)が嫌そうな顔している(笑)いつも「岐阜から来ました、cinema staffです。」と話しているけど、岐阜出身は半分だから(笑)」


と飯田と久野が神奈川出身であることを明かした上で、


「俺は鴨居に住んでいたんだけど、住んでいる人いる?あ、いるね。ふと寄ったときに「ここがチャリを盗まれた公園か…」とか「ここが俺が昔遊んだ公園か…」とか。公園だらけだな(笑)。で街を歩いているときにピアノ教室を見つけて。「昔通ったなー」と思って、母親に電話を掛けたら「あなたじゃなくて通ったのはお兄さん」と言われた(笑)」


と鴨居での思い出を回顧するもののなぜか公園だらけで、しかもピアノ教室に通っていたかのように錯覚するAIMAIな内容に(笑)

「Name of Love」をライブでやるために鍵盤を練習したとインタビューで読んだのは気のせい?


「岐阜は第二の故郷かな…。2人も浜風が似合う男になったほうがいいよ(笑)」


と岐阜をフォローしつつ、辻と三島を弄りまくって、ディスコとオルタナロックが混ざった「TOKYO DISCORDER」から後半へ

このサウンド、メジャー後期のavengers in sci-fiが得意としていたものだが、最近アベンズの名前はあまり聞かない

ちょくちょく新曲をリリースしているのは知っているが、彼らはなぜブレイク出来なかったのだろう


三島がインタビューで「ファンならどの場面か、すぐ分かる」と「若者たち」や「リバーシ」同様、進撃の巨人用に制作されていた「雨の日のヒストリア」では三島と辻が合いの手を歌い、飯田と三島がサビをハイトーンで歌うこれまでなかったような作風

「Salvage Me」くらいでしかコーラスしてなかった辻が合いの手を行っているのを見ると、コロナ禍が終わっても辻にマイクスタンドは置かれそうだが、


「次の時代を僕らは生きよう」


はまさに今のこと

新しい時代を我々は生きている


キャッチーなメロディーとは裏腹に救いのないエゲツない歌詞を「極夜」で羅列していくと、LINE CUBEでは鍵盤とストリングスが加わっていた「Storyflow」は同期なしのアンサンブルのみで演奏

しかし、この曲を聞いている時涙が止まらなかった

なぜならこの曲、三島のイジメ経験を聞かされる側で綴られた曲だから

自分は過去にいじめを何度も受けている

学校に行きたくなかったこともあった(それでも意地でほぼ毎日通っていた)

これを聞いている際、当時のことを思い出してしまったのだ


そうした辛い現実を突きつけられても、


「赤く染まる水平線  苦しくなるほどこの世界は美しい」


のように世界は輝いている

あまりに対称的なほどに


けどその先には


「いつか未来は思い出を超えていくから」


と希望が待ち受けている

だからこそ終わらせない


「死ぬまで息をしよう」


と藻掻いていくのだ


「個人的な話していい?最近自宅の近くに、セレクトショップ、服屋が出来てたんですよ。そこにCDが1枚飾ってあったんですけど、そのCDはサニーデイ・サービスの曽我部恵一さんがやっている「擬態屋」ってユニットのもので、そのライブを見に行ったんですよ。キャパ39人くらいのカフェで。そこで印象的なMCがあったんで抽象的な形で話すね。「僕は新幹線で写真を取るとき、「ああ!!」ってなってしまって、食べ物を食べるときは「おお!!」ってなる。新幹線で外を見ているとき、降りて美味しいものを食べたくなるんだけど、食べるときは脳が食べることしか考えてない。僕は擬態語を使いまくっていて、それで擬態屋ってユニットを組んだんだと思う。」本を読んだり、曲とか聞いているときに何か想像することあるでしょ?そこに正解はない。けど想像させるのは凄いこと。そうした凄いライブをやっていきたいと思います。」


と前日、飯田が見た擬態屋のライブを見た感想を話していくが、凄い景色をこっちはたった今目撃した

つまり、凄いライブをやっているということである


エモさとキャッチーさが共存して、


「そして今が過去に変わる前に 歩き出せ」


と背中を押していく「白夜」からは終盤へ


久野のカウントから凄まじい轟音が押し寄せる「great escape」で辻や三島が、アウトロでは飯田も楽器を高く掲げ、コロナ禍に入らなければ確実に生まれなかった「3.28」では、オルタナサウンドをぶつけつつ、


「夜が明けたら 僕らの勝ちだ」


とコロナウイルスとの戦争には屈しない意思を示す

これは人間vs人間の戦争ではない

ならば希望を投げ出さない限り、夜明けはきっと訪れる


そして最後はカントリーな曲調に載せて、


「はじまりの場所だよ 今には全てがある 誰にも邪魔はできない 僕らの幸せ 真実の在り処なんて誰も知らないんだから これ以上求めなくていい ここからはじめよう」


とここから始めることを誓い合う「はじまりの場所」で終了

辻はギターでノイズを作ることなく、ステージを去っていった


久野によるビール開封の儀からアンコールが始まるが、


「俺も昔、上星川(相鉄線西谷の隣駅)に住んでいたんだけど、住んでいる人いる?いないのかよ(笑)久々に降りたら、昔住んでいたマンションまでの道を覚えていて、適当に部屋の前まで行ったんだけど、母親に聞いたら昔住んでいた場所だった(笑)」


と上星川に住んでいた頃の記憶を覚えていたことを話すが、実は2つ隣の星川駅はソードアート・オンラインで実際に登場した町であり、上星川が含まれる保土ケ谷区はSAOの聖地でもある

またASPARAGUSやMONOEYESの一瀬正和が経営するスタジオが天王町にあったりと、割と有名な場所が保土ケ谷区には多かったりする


そのうえで久野による物販紹介が行われるが、なぜか楽屋から笑いが起こるし、


「アンコールでやる曲知らない(笑)」


と色々衝撃なことを話す(笑)


しかも物販紹介を終えても、飯田達が戻ってこないので、


「おーい!戻ってこーい!!」


と久野が叫ぶと、飯田達が戻ってくるが、辻は何故かピースして出てくる(久野曰く「アイドル?」)し、


飯田「元気そうだったねー」

久野「元気じゃなかったまずいわ!!」


と久野が1人で飯田たちのボケを回収していた


「最新作が1番カッコいいとやっぱり思ってます。どこまでも付いてきてください!!」


と飯田が頼もしい一言を放ったと思われたが、


「って辻が言ってました(笑)」


と実際には辻が話したらしい

辻は否定していたが(笑)


「次が最後の曲です!!」


と飯田が告げると、最後は初期からのファンにはたまらない「AMK HOLIC」で爆音を撒き散らし、メンバーが1人1人お辞儀するなか、最後まで残った辻は自分で生み出したノイズを止めるとピースして帰って行った


演奏された曲の8割は「Name of Love」以降に発表された楽曲たち

「海底より愛を込めて」のレコ発ツアーなので制約が多いのは分かるとはいえ、ここまで思い切ったことをしてくれるとは予想もつかなかった

「great escape」や「Name of Love」を除くと、有名曲はほとんどない

あまりに攻めすぎなツアーである


最初通して聞いたときはあまりピンとこなかった

正直「熱源」が良すぎたのもある

でもライブを終えたら、「最新作が最高傑作」と飯田が以前話していたがこれは間違いなく過去最高 

海底より愛は伝わってきた


後述の件もあって1度はリセールも考えたけど、ライブを見て自分はcinema staffが大好きだと改めて思った

これからも付いていくし、またオオバコでcinema staffを見たい

死ぬまで僕らは繋がっていよう


セトリ

海底

I melt into the Void

OCEAN

若者たち

リバーシ

動脈

dawnrider

Name of Love

さらば楽園よ

fiery

TOKYO DISCORDER

雨の日のヒストリア

極夜

Storyflow

白夜

great escape

3.28

はじまりの場所

(Encore)

AMK HOLIC


LINE CUBEのライブレポを投稿した直後、心無い言葉を浴びせられた

過去に批判されることはあったものの、好きなアーティストのファンから批判されるのはショックだった

あの時「人気だから書いているんでしょ?」なんて言われたが、繰り返しになるけど人気でPVを稼ぐならVaundyについて書く

しかし、書く気は起きない

PV稼ぐために興味のないアーティストを書く気にはならない

好きだからこそ、そのアーティストのライブや曲について書くのだから

どうでもいいか おやすみ