近年、ライブハウスに足を運ぶようになった方からすれば信じられないだろうが今から6年前の2012年
この頃はバンドマンにとって苦しい時代だった

どんなに良い曲を製作しようがチャートはアイドルに占拠
メディアもアイドル戦国時代を謳うため、バンドマンに追い風なし
まさに苦境の時代だった(パラドックス的に言えば、この時期に浮上したバンドは今でも強く、THE BACK HORNやandropは未だに人気は根強い)

そんな時代にKANA-BOONが風穴を開け、ようやくバンドマンへの追い風が吹き始めると、ダンスロックが流行
「踊らせる」ことを若手やベテラン問わずに追い求めるようになり、急速に四つ打ちやブラックミュージックが台頭
ストレイテナーですら踊らせる曲を作成したほどである

しかしながらシーンのトレンドに見向きもしなかったのがくるり
この時期、大きく編成が変化しながらもシーンには迎合せず、新しい音楽を着々と開拓
その傾向は今も続いており、最新曲の「その線は水平線」もやりたいものをやるくるりのスタンスが鮮明に出た新たな名曲
まさに孤高のバンドである

そのくるりが現在行っているのが「その線は水平線」のレコ発ツアー
このツアーよりファンファンが本格的に復帰しているが、予定調和を嫌うバンドだけに何が来ても不思議ではない
この日はセミファイナルにあたるZEPP Tokyo初日

しかしながら開場18:30、開演19:15という何故か客入れ時間がいつもより少ない設定のためか、ドリンクカウンターが大混雑
「開演に間に合わない可能性がございます‼」とのアナウンスが度々行われていたが、それをどうにするのが運営の仕事
この運営には苦言を言わざるを得ない
まして3000人以上も動員するなら
自分がドリンクカウンターに着いたのは19:12だが、外にはまだかなりの人
彼らは無事開演前に入場できたのだろうか

そんな約5分後に暗転してSEが流れ、メンバーがステージに姿を表すがこの時点ではくるりの3人(岸田(Vo & Gt.)、佐藤(Ba.)、ファンファン(Tp, Key))に野崎(Key.)、朝倉(Dr.)の2人を含む5人
このところ常連の松本は?と首をかしげていると、岸田が軽く挨拶をして和のビートや合いの手が和風な「東京レレレのレ」から
オリジナルがスリーピースでの録音だったため、音圧は少し増しているが、早くも岸田がソロを弾き出すなど早くもセッション
ここのところ再現シリーズの「Now and Then」、ベストアルバムリリース記念のレコ発と節目節目のライブが続いてたが、このオープニングからモードが異なっているのは明らか

岸田のストロークが早くも鳴り響く「東京」、性急なギターロックの「愛なき世界」、初期から存在していた名曲「飴色の部屋」と再現ライブを行ったことにより曲の良さを再認識されたような曲もラインナップに加わっているが、鍵盤やトランペット、タンバリンなどを加えることによって2018年ver.にグレードアップさせているのはさすがくるり
ギターは岸田のみとはいえ、「既に完成されているのは?」と思ってしまうほど

「今日と明日、お目にかかる方は一期一会といいますが、我々は千秋楽の1日前、14日目のつもりでやっております。もう優勝は決まってるけどね(笑)」

と最近まで春場所が行われていたからか相撲ネタで笑いを取ると、「ハイウェイ」からは常連のサポートギター松本が合流
続く「ワンダーフォーゲル」で山本が合流し、ここからは7人編成となるのだがこの「ワンダーフォーゲル」が凄かった
その要因はドラムの朝倉
ドラミングをストローク中心に変えることによって勇ましさをもたらしたのだ
縦長のシンバルを使用する個性的なドラマーだが、今後のくるりのライブでは欠かせないサポートになりそう

ファンファン不在時はトランペットパートを松本が補っていた「Liberty&Gravity」はファンファンが復帰したことにより、ようやくオリジナル通りの音源になるが、山本がトランペットパートに意図的に音を重ねたのか、トランペットの音がでかい
合いの手は不発ぎみだったが、どこまで育っていくだろうか
まだまだ成長する未来地図が見える

ここまでは様々な曲をやって来たが、ここからは新曲、それもリリース未定の曲を連発
岸田が

「歌もないし、踊られない曲」
「次の次のアルバムに入る曲」

と自虐しまくったのは「東京オリンピック」
岸田曰く、

「オリンピックを我々のテクニックで再現した」

とのことだが、開会から入場、熱狂から表彰、そして閉会を見事にインストで再現
佐藤に至っては珍しくスラップ奏法を使用
岸田が、

「オリンピック関係者が居たら、この曲をテーマソングとして起用した方がいいと勧めてください(笑)」

と宣伝していたが、これがテーマ曲でいい気がする
ちなみにオリンピックを意識したから、ステージには虹色で描かれた5つのリングが投影(今回のステージには「その線は水平線」のジャケットを拡大したものしかないため、こうした演出がより印象に残る)

奇妙な曲調から一転ポップになる「スラヴ」という渋い曲を挟んで演奏されたのは「春を待つ」
ただこの曲、先日リリースされた「その線は水平線」のLP版には収録されているため、新曲ではない
しかしながら曲は本当に素晴らしい
岸田のノスタルジックワールドに優しく包まれた新たな名曲
なおこの曲は初期からあったもののお蔵入りになっていたものが、「その線は水平線」のレコーディング中に雰囲気が似ているということでようやく世に解き離れたとのこと
今後こうした曲は間違いなく増える

これら新曲2つを称賛で迎えられたことから岸田ははしゃぎ出し(笑)、

「ローリングストーンズだって「新曲作ったぜ‼」と言ったら、「brown sugar」やれ‼って言われるんだよ。これって凄いことじゃない‼」

と興奮しながら話し更に新曲を投下

「忘れないように」はR&Bを基調にしたポップス
佐藤のベースラインはジャクソン5の「I Want You Back」を連想させる部分もあるが、「上海蟹〜」といいこの曲といい、岸田は今R&Bを特に聞き込んでいるのだろうか
「ハイメケン」はこれら3曲と比べるとかなりポップよりだが、終盤ハードロックをルーツに持つ松本のギターが本領発揮

「指が泣きながら踊っている」

と岸田が評するほどのギターに、あまりに心地よかったのが「もっと前へ前へ‼」と言わんばかり、煽りまくって松本もガンガンギターを弾く
主役を奪った瞬間だった

「ツアーが終わると売れなかったグッズは箱詰めされて戻ってくる。箱に囲まれて会議する風景、プライスレス(笑)」

と事務所社長、佐藤による切実な内部事情を吐露した物販紹介が事前打ち合わせをしたのではと思わせるほどスムーズに進行させつつ、笑わせると、

「くるりも20年戦士。今日イチローが9番スタメンで試合に出て、無安打だったけど守備機会をこなして。イチローが引退したら俺も引退しようかな。しないけど。「イチローに捧げる‼」って言いたいけど、そんな曲でもないし(笑)」

といかにも野球好きな岸田らしいMCをから名曲「ばらの花」で終盤へ

チオビタドリンクのCMとして大量オンエアされていたのも懐かしい「loveless」、広大かつ壮大な「虹」と往年の名曲を連打すると最後は祝福感溢れる「ロックンロール」で終了

すぐにアンコールでくるりのメンバーが戻ってくるとスリーピース編成で「ブレーメン」を演奏
近年のライブでは定番ではあるが、今回は必要最低限の音だけを集めたシンプルな編成
この3人でもこの曲を演奏できるのは意外だった

サポートの4人が戻ってくると、

「演奏しそびれた新曲がある」

とのことでこの日(「春を待つ」を含めて)5曲目の新曲「ニュース」を演奏
難解なイメージこそないが、

「俺も親父になった」
「そこらじゅうでミサイル」

と岸田自身に起こった出来事や時事ネタを反映した歌詞にドキッと
特にミサイルという歌詞を選んだのは岸田が広島出身故からだろう
戦争を繰り返さないための危機感から

すると岸田がハンドマイクに持ち変えると、先日東横線に乗車した際、中目黒で花見をしている方が多かったため、降りようとするも断念し、窓側から撮影しようとするもぶれまくっていたことを告白
そして好きな食べ物の話になり、

「心のなかでナンバーワンは上海蟹‼」

から「琥珀色の街、上海蟹の朝」へ
BPMは全体的に遅めになっていたが、その分メロディーはよく染み渡った

そして最後に、

「まだ花見に行ってない方、是非花見に行って下さい。今年度もお元気で」

から最新シングルの「その線は水平線」で終了
メンバー全員で礼をしてからステージを去った

この日のライブは偶然にもMy Hair is Badの武道館と重複してしまったため、行けなくても行けなかったという方が多い
自分はくるりを選んだが、あんな楽しそうにはしゃぐ岸田を見たことがない
それだけでも見に来た価値はあった

そして今日演奏された新曲
どれも素晴らしかったが個人的には「東京オリンピック」
リリース予定のないインスト曲がお気に入り
更に最新音源の「春を待つ」をはじめ、次のアルバムは歴史に名を残す大名盤になる予感しかしない

近年は活動ペースが落ちてきているが、この日のようなライブをしている限り、くるりは健在である

東京レレレのレ
東京
愛なき世界
飴色の部屋
ハイウェイ
ワンダーフォーゲル
Liberty&Gravity
東京オリンピック ※新曲
スラヴ
春を待つ
忘れないように※新曲
ハイメケン※新曲
ばらの花
loveless
ロックンロール
(Encore)
ブレーメン
ニュース※新曲
琥珀色の街、上海蟹の朝
その線は水平線

Next Live is ... 坂本真綾 @ NHKホール (2018.4.1.)