タイトル:「mothers
アーティスト:My Hair is Bad

昨年の推薦アルバムでは18位にランクインさせたこのアルバム
去年の12月がかなり切羽つまったスケジュールだったので、そのなかで聞いていたのですが、前作「woman's」は初見で引き込まれるほど世界観がよく構築されてあり、メロディーの美しさが引き立っていたのに対し、今回はどうも後半がう~んとなってしまったため、そこまで順位を高くつけませんでした

しかしながらブルエンとのツーマンが近づいてきた頃、改めてこの作品を聞くために雑誌のインタビューを読んでいると、かなりインタビュアーが後半を好評価しているんですよね
なので後半に重点を置いて、改めて聞くことにしました

その結果
昨年、このアルバムを18位にした自分をぶん殴りたくなりました

でもこのアルバム、前半と後半では大きく表情を変えています
それも後半は人間の闇が溢れてるようにも感じられます

序盤はこれぞマイヘア‼な勢いのあるキラーチュン2連発
情報量の多い歌詞をパンクロックに載せて歌い上げますが「復讐」の狂気じみた歌詞の連続、エモーション全開な「熱狂を終え」とただ早いだけでは終わらせない
しっかり風穴を残させる鮮烈なオープニングです
名曲「運命」がこのセクションに入るのは必然でしょう

で「運命」といえばわマイヘアの十八番とも言われる失恋ソング
なのでこの曲が入った辺りで失恋ソングが続くのかと思えば、その期待を裏切るように続くのは濃厚なラブソング

「関白宣言」はキャッチーなポップスなんですが、そこに秘められたのは尋常じゃない愛情
もはやヤンデレと指摘されてもおかしくないほどの愛情ぶりです
それをこんなにポップに歌うことが出来るのは彼の才能のお陰
更に「いつか結婚しても」は幸福感が溢れんばかり
いい意味で誰もが予想するマイヘア像を裏切ってます
なお「元彼女として」、「元彼氏として」との関連を期待する声もありましたが、関係は一切ないそうです(笑)

そしてポイントの後半
インターリュードの「僕の事情」、死生観漂う「噂」から雰囲気は一気に変わります

最後に冗談と告げるとはいえ、過激なワードを連発し見に来たお客さんを「馬鹿」、「汚いディッキーズ」と称すハードな「燃える偉人」からは今までの流れが嘘のよう
溜め込んでいた毒が一気に排出されたダムのようにずしりと急転

ミドルテンポでありながらある意味人間の本性が出てる「こっちみてきいて」、問題作「戦争を知らない大人たち」の進化形にして椎木の同級生の名前が出てくる辺りが一層リアルな「永遠の夏休み」、「運命」の後日談に該当する「幻」
もうとにかく暗いです
前半が嘘のように

それは前作の「woman's」の「告白」で、

「いつか死んでしまうんだ」

と自覚しているから

「永遠の夏休み」でも終盤に登場する

「終わりが必ずやってくる」

のフレーズ

いつか終わりが来ると分かっているから
だからこそこうしてしっかり闇を描けたのでしょう

そして最後の「シャトルに乗って」
まるで上空から世界を見下ろすように綴られたリリック
赤裸々な失恋ソング、恋愛を描いていた椎木が見せた新たな一面
まだマイヘアは全てを見せてないと告げるかのよう
そんな余白を残してこのアルバムは終わります

このアルバム、今思えば後半は歌詞カードか歌詞を見ながら聞かなければ本質にはたどり着けないと思います
前半は垂れ流しでも聞けます
ですが後半からは大きくカラーを変える
SKY-HIの「OLIVE」がまさにこんな感じでした
歌詞を見ながら聞いてこそ真の姿を見せる
それくらい濃厚なアルバムなのです(だから椎木はあるインタビューでこのアルバムを最初から最後までステーキと例えました)

前作と比べるとセールスは良いものの「woman's」の方が勝ってるように聞こえる今日
武道館を前に改めてこのアルバムの本質に迫ってみてはどうでしょう