小学校6年生の時、聖マリアンナ医大病院に入院をしました。

両親が、『この子は子どもなのに手が冷たい。身長も伸びるのが遅い』と受診させてくれたのです。

外来には大きく白い聖マリア像がそびえ立っています。人でいっぱいでした。

小児科の女児室に案内され、入院しました。

食堂で初めて昼食をとる時、女の子たちが胸元に手で十字を切り、『天にまします我らの神よ』何やらつぶやいています。

ぽかんと眺めて、隣の子に『それをしないと食べちゃいけないんですか?』と訊きました。答えは、
NO。

次の日、隣のベッドに背の高い女の子が入院してきました。夜、ホームシックになり、泣いているようです。

ティッシュペーパーを1枚渡しましたが、泣き止みません。

ナースさんが来て私を指差し『この子は昨日入院してきたけどちっとも泣いていなかったわよ』と叱っています。

その子は驚いて私を見ています。渡したティッシュペーパーは涙と鼻水で卓球のボールより小さく丸まっています。

彼女は私と正反対の病気、背が伸び過ぎる子だったのです。

病棟にはひとり、頭にスカーフを巻いた子がいました。幾つもの色あせた千羽鶴に囲まれています。

その隣には、一番小さい女の子。夜、皆でテレビのバラエティー番組をラジオで聞きました。灯りは消され、窓からは青い闇が流れ来ています。

『今日もハガキが読まれなかった』と泣く小さな子に、スカーフの子が『いっぱいハガキが届いて大変だったんだね』と慰めています。

幼稚な私にはその優しさが分からず、『読まれるわけないのになあ』とぼんやり思っていました。

またある夜中、男の子が女児室に入院してきました。男児室には空きが無かったのです。

ビニールのカーテンの中、ぐったりとしてこちらを見ていると思ったら、目を開けたまま眠っていたのでした。ぜん息でした。その目に怯え、眠れない夜を過ごしました。

そしてこの病院には、教会がありました。ミサに誘われ参加しました。『マリアさまのこころ』という讃美歌を歌いました。美しいメロディーは今でも覚えています。

時季が過ぎ、退院する子も出てきました。赤いブロックチェックのシャツにオーバーオール。パジャマ姿しか知らなかった彼女は、何だかとても大人びて見えました。

入院してひと月、私も退院をしました。ビーズで作ったアクセサリー、天井からぶら下げられたぬいぐるみ…思い出はまだ沢山あります。

ですが私の入院生活は、まだ終ってはいなかったのです。