「天は赤い河のほとり」というアニメ作品が、いま話題を集めているようです
この作品については、2000年トルコ北西部大地震の後、
支援の方策を探して現地を訪れた前後、
当時話題を集めている歴史漫画として、情報を集める中で知りました
すでに四半世紀を経て、今アニメとして再び脚光を浴びるとは、
僭越ながら少しばかり、感慨を持ちます
あの頃とは隔世の感がある、AI含むネット環境で、
ほとんどの情報を、少なくとも広く知ることだけは自宅にいても可能な今、
日本の大河ドラマと通ずる、
時代考証をしっかり踏まえた上で、
自由な虚構(特に魔術)を組立てるあの作品が、
今の若い世代にどのように受止められるのか、気になっています
阪神・淡路大震災のあと、その被害を遥かに超えた最初の大災害に接し、
どのように受止められるのか
それを被災者支援とつなげるためには、何を知ればよいのか
これはその後の数々の大災害を経ても、未だに解のない、
私としては永遠の課題です
そのトルコ北西部大地震の際、
実際に訪れたトルコで、
近代共和国の祖となったケマル・アタチュルクが、
古代地中海世界で最初に多民族による大帝国になって、
エジプトすらも影響の下に置いたヒッタイトを、
高く評価したことを知りました
アタチュルク在命当時はまだ気候変動の知見は乏しく、
ヒッタイト滅亡理由は海の民はじめ蛮族の侵略という、
地政学的な要因とされていました
しかし近年は研究成果が重なり、
ヒッタイト滅亡の主因が、何と3年にわたって続いた旱魃による大飢饉
そのため王族はじめヒッタイト人が、
食物が枯渇した王都を放棄したということによると、
考えられているようなのです
これは以前から、B.C.1200年のカタストロフと呼ばれ有名な、
なぜ同時に高い文化を誇った地中海古代文明国が、
一気にいくつも滅んだのかという、世界史上のミステリーでした
それが、ほぼ間違いなく、
少なくとも地中海東部全域で起こった、
3年にわたる気温低下と、それを原因とする降雨量の極端な減少からなのです
「天は赤い河のほとり」の舞台は、
トルコ中央部、赤い河と呼ばれる、黒海に注ぐクズルウルマク川が、
その中流でほぼ円形に蛇行する内側にある、
現在で言うとアンカラに近いハットゥシャを都とする、
製鉄法の開発により青銅器時代を凌駕した大帝国になった、
当時の大帝国ヒッタイトの話です
高い文化を誇る北シリアのウガリットや、
当時メソポタミア北部の強国ミタンニを攻略し、
さらには南のエジプトとも、歴史上初の和平条約を結んで共存を実現した、
近代社会の法の秩序の祖型としてメソポタミアの法典文化のモデルともなった、
世界基準のスタートとも言える、古代の超文明ともいえる存在です
もちろん作品はフィクションで、
現代日本から召喚された主人公が、その文化と倫理観を持ちつつ、
歴史的に覇業をなした王ムルシリⅡ世に影響を与え、
共に生抜くというロマンを、同時に綿密な時代考証を基に描いた物語です
その物語を読むとなおさら、
高度に発達した物質文明を持ち、
現代にも通じる合理的な思考を基とする法制度を整えて繁栄していた強国が、
数年と持たずあっという間に滅亡したという歴史は、
今でも、まさかという感想のみです
その滅亡の元となった、3年間続いた旱魃は、トルコ中部、アナトリア地方を、
それまでの湿潤な温帯地域から、現代に至るまでの半乾燥気候に、
激変させたものだったようです
それを推し量る手掛かりの一つは、当時のゴミの分析です
旱魃直前までは、
家畜種ウシの原種であるオーロックス(クジラ偶蹄目ウシ科ウシ属)
を中心として、
大型野生動物を大量に狩って食料としていました
それが旱魃以降は一変し、
ウサギ類はじめ小動物を順番に、
食べ尽くしていった経緯が示されているとのことです
実際生物相の分析では、ヒッタイト全盛期を通じ、
シリアゾウ(長鼻目ゾウ科アジアゾウ属アジアゾウ亜種)、
アジアライオン(インドライオン,食肉目ネコ科ヒョウ属ライオン亜種)
といった大型哺乳類、
そしてカシ類,マツ類等湿潤気候にある樹木等繫栄していた生物が、
ほぼ地域絶滅したと考えられます
つまり森の木がそこに住む大型動物ごと、
ほんの3年間で消去ったという、一寸信じられない出来事だった
だからそこに住む人たちも命あるならば、
その地を放棄するしかないという、とんでもない話なのです
もちろんそのカタストロフの最後の一押しは、ヒトが担ったようです
3年に亘る大旱魃は、
次年に必要なコムギ、オオムギの種さえ枯渇させ、
森にまだ残っていたはずの大型動物、
さらには燃料として樹木の若木も取り尽くさせました
この影響は、アナトリア地域の生物相を半乾燥気候に変え、
それは3千年を超えた現代にまで、不可逆的に続いています
天は赤い河のほとりというロマンにあふれた作品は、
直接そのことを描いてはいません
しかしその上で、
主人公たちの活躍からほんの100年少し後に、
未だ原因が突き止められていない地球環境の激変が、
彼女たちのような人々の生活すべてを奪うような、
地獄とも言える世界をもたらした歴史があるというのは、
作品と共に、頭の片隅からは消さない方が、
良いとも思われるのです(2026.8)
