…朝になると、宿営の周りに露が降りた。降りた露が上がると、荒れ野の地表に薄く細かいものが、地の上の霜のようにうっすら積もっていた。イスラエルの人々はそれを見て、「これは何だろう」と互いに言った。彼らはそれが何か分からなかったのである。そこでモーセは彼らに言った。「これは、主があなたがたに食物として与えられたパンである。(出エジプト記16章13-15)
イスラエルの家では、それをマナと名付けた。それはコリアンダーの種のようで、白く、蜜の入った薄焼きパンのような味がした。(出エジプト記16章31)
アブラハムはベエル・シェバに一本のタマリスクの木を植え、そこで永遠の神、主の名を呼んだ。(創世記21章31,いずれも協会共同訳)
(前編から続く)
マナはシナイ半島に分布する、
タマリスクカイガラムシ等と呼ばれることのある、
カイガラムシ上科ワタフキカイガラムシ科の1種の分泌物との説を、
前編で紹介しましたが、
それは同時に、この昆虫が寄生する、
タマリスクという植物の、甘い樹液由来であるとも言えます
ハナバチ類は集めた花の蜜を、胃(蜜嚢)に溜めほとんど消化せずに、
吐出し保存して幼虫の餌に用いますが、
カイガラムシ類では、樹液の糖分の多くを同じく消化せず、
消化管にある、ろ過室で他の栄養素と分離して、
ほぼ純粋に近い糖液として排泄口から出し、
アリ類を惹きつける道具として用います
これは消化吸収後の残渣ではないため、
厳密にいうと分泌物であり、あるいはほぼ、
宿主の樹液ということもできます
マナを含む甘露は樹液である、という言い方もできるわけです
タマリスク類(ナデシコ目ギョリュウ科ギョリュウ属)は、
地中海周辺-東アジアにかけての砂漠や半乾燥地帯に分布します
恐らく葉からの蒸散を抑え乾燥に耐えるため、
針葉樹のような小さく細長い、
そして枝分かれをした葉を持つ、落葉広葉樹で、
大きな特徴として、非常に乾燥に強いうえ、
暑さにも寒さにも強い生態の植物です
日本には中国北西部-モンゴル原産のギョリュウが移入され、
庭木として植えられる他、
塩分に非常に強いため、海岸に植樹された例もあります
中東には多種類のタマリスク類があり、
分類が非常に難しいとされていますが、
その中の、シナイ半島に自生する何種かは、
マナタマリスク,マナギョリュウと呼ばれることもあるそうです
これはある意味、タマリスクカイガラムシと同じく、
マナの話がシナイ半島の説話由来と仮定した、後付けの通称です
創世記21章23節には、ユダヤ,ベドウィンの共通の父祖アブラハムが、
ネゲブ地方に居住する中、土地の王との諍いを和解し、
ネゲブ砂漠に隣接したベエル・シェバに、
アブラハムがタマリスクを植えたとの文章があり、
マナとネゲブの民由来の神話との関連も示唆されます
やはり、シナイ半島とどちらの可能性が高いか、
確定は出来ないと思われます
なお、タマリスクはよくタマリクスとも表記されます
特に日本語では、例えば「シュミレーション」と同じような、
覚え間違いではないかと感じられる表記ですが、
決して間違いでなく、
本当に英語表記ではタマリ「スク」、学名のラテン語ではタマリ「クス」です
タマリスク類は、スペイン北西部ガリシア地方の、
タマリス川から取られた名前が起源で、
ラテン語表記がTamarixであったことが原因です
ラテン語は死言語のため、各言語読みがなされていて、
-xの発音は、-cs,-s,発音なしと、様々になります
それに引きずられ、各言語での表記も、
Tamarics,Tamarisに加え、
どうやら古イギリス語等ではTamariscsとなったようです
それが現代の英語では、Tamariscに変化したため、
日本では多く、タマリスクと呼ばれているのです
なお余談ですが、
東アジアのギョリュウは、御柳という中国名から来ています
楊貴妃が愛し、後宮の庭園に植えさせた、柳に似た樹からで、
ギョリュウと日本で音読みして読んだことが由来です
枝も葉も柔らかく、ヤナギのように風に揺れる風情が、
昔から好まれているとのことです
聖書と中国故事の両方で愛されている割に、
あまり有名な植物と言えないのが、
逆に面白く思える植物です
さらに余談を続けると、「note」という、割合信頼性の高いサイトで、
「昆蟲菓舗蟷螂社」という菓子製造および昆虫食の店からの発信で、
甘露がカイガラムシ,アブラムシ由来であると述べ、さらに、
甘露をミツバチが集めた、ハニーデュー蜂蜜にイメージを得た、
「砂糖菓子に『昆虫のエッセンス』を落とし込んだシリーズ」販売、
さらにハニーデュー蜂蜜からの菓子制作の希望まで発信しています
それはかなりマニアックですが、そこまではともかく
あのカンロ製菓等が、甘露が昆虫および樹液由来と少しはこだわれば、
いずれ必ず来る、人類が昆虫食不可避の時代に、
何か生み出せる、道備えになるかもしれないのに、と思います(2026.1)
