イスラエル人の全会衆は荒れ野でモーセとアロンに向かって不平を言った。イスラエルの人々は二人に言った。「私たちはエジプトの地で主の手にかかって死んでいればよかった。あのときは肉の鍋の前に座り、パンを満ち足りるまで食べていたのに、あなたがたは私たちをこの荒れ野に導き出して、この全会衆を飢えで死なせようとしています。」そこで主はモーセに言われた。「今、あなたがたのためにパンを天から降らせる。民は出て行って、毎日、一日分を集めなさい。これは彼らが私の律法に従って歩むかどうかを試すためである。六日目に持ち帰ったものを整えると、日ごとに集める分の二倍になるだろう。」(出エジプト記16章2-5,協会共同訳)
流浪の民であった時代のユダヤ人にとって、
あるいは元奴隷である北米のアフリカ系の黒人にとって、
聖書の中で圧倒的と言って良いほど大切な箇所は、
旧約聖書、出エジプトの出来事ということです
昔奴隷だった民を無条件に解放し、約束の地にいざなってくれた
そして再び民が苦難に遭う時、必ずまた救い出してくださる
それは自分たちの祖先、あるいは信仰の上の祖に対してでもあり、
同時に、今苦しみを得ている自分たちへの約束でもある
このように強く信じる中、
預言者モーセに引き連れられた出エジプトの出来事は、
最大の救いの指針として受取られたのでした
中でもその「荒れ野の40年」において、
食べ物がなく飢えた民を満たした、マナとウズラの恵みは、
神の無償の救いの象徴である奇跡として、
強く語継がれて行きました
聖書信仰の長い歴史の中で、このような奇跡の話は、
ある意味素朴にそのまま信じる人々と、
一方で理性的•分析的に理解しようとする人々の、
両者の論争、あるいは共存の歴史でもありました
特に、マナとは一体どのような食べ物か
この話の中で、神から無条件に与えられた、
ユダヤ・キリスト教伝統の中で聖書信仰を持つ者にとって、
ある意味最大の不思議な恵みの1つとされて来た食べ物、マナ
それについて古代以来、沢山の説が唱えられて来ました
一応、思想信教の自由は前提ですし、
ユダヤ•キリスト教の中で一定、
全能の神が行なう奇跡は人の理解を超えており、
理性的な理解には馴染まないという信仰も、
一定の歴史的伝統として現代まで重んじられて来ました
その一方、旧約聖書の創世記-申命記、いわゆるモーセ五書は、
ヘブライまたはユダヤと呼ばれる民の、
祖先から伝わった創世神話が元になって記された書物で、
そこにはユダヤ民族が成立する前の、民の歴史の記憶が反映している
この考え方も、聖書信仰(≒ユダヤ•キリスト教全体の信仰)の歴史の中で、
ずっと支持されて来た考え方ではあります
もし後者の考え方に立つなら、マナは食べ物ですから当然のこと、
生物由来と考えて良いはずです。
従ってマナとはいかなる生き物なのか
ユダヤ教でもキリスト教でも、古代から沢山の説が唱えられていました
その有力な解釈の1つが、マナの物語を元々担ったのは誰か、
ということと関係しています
出エジプトの物語というのは、
それまで周囲の強い民に圧迫されていた弱小の民が連合し、
カナンの地を支配していた、エリコをはじめとする都市国家を打倒して、
国を作ったのが、古代のイスラエルだったことに起源がある
この解釈が、今はかなり可能性が高いとされています
そしてその中には、シナイあるいは今のパレスチナ南部のネゲブ砂漠の、
現在では例えばベドウィンと呼ばれるような、
砂漠の民、遊牧民が含まれるということ
部族連合に参加しヘブライの民に合流して、
共に出エジプト記の歴史を担った、砂漠の民によって、
出エジプトの物語のうち、「荒れ野の40年」の話には、
その砂漠の民が元々担っていた神話からの話も多いという説があります
旧約聖書学者の中でも、この解釈は近年主流になっているといえます
そこから考えると、砂漠の民の暮らしの日常にもある、
そのような食べ物は、果たして何かについて、
有力な説として、甘露と呼ばれる、
カイガラムシ類(カメムシ目腹吻亜目カイガラムシ上科)の分泌物が、
それにあたるという可能性があります
カイガラムシ類は、大きく言って植物に固着して、
多くの種類はロウ物質を分泌しコブのような姿になります
とは言え天敵に食べられそうになっても逃げられないので、
比較的近縁のアブラムシ(アリマキ)類(同亜目アブラムシ上科)と同じく、
植物からの栄養分から液を分泌し、
アリたちに守ってもらう生態を持っています
この分泌物は相当甘く、本来は腐敗し易いのですが、
砂漠地帯ではしばしば乾燥し、白い雪のように植物の根元に降積もります
おそらくそれがマナではないかと言われているのです
まさか植物の幹や枝についた全く動かないブツブツが動物で、
それが分泌した液体とは分らなかったので、砂漠の民が、
天から降って来た、甘く人々の食べ物になる、
不思議な恵みと受取ったとしても、おかしくないでしょう
その天からの恵みのマナは、砂漠を離れた後の民にとっても、
不思議な救いの恵みとして、記憶され続けたと考えられるでしょう
このカイガラムシ類のうち、シナイ半島に分布する、
同上科ワタフキカイガラムシ科の1種で、
書物によっては、タマリスクムシ,タマリスクカイガラムシとも呼ばれる、
幼虫時代は雌雄共にロウ物質に包まれているけれど、眼,脚があり、
完全に固着していないため移動も可能な種が、
甘露を大量に分泌するため、マナがこれだとされることが、
割合よく言われているようです
豪州原産の柑橘類害虫、イセリアカイガラムシ(同科)の近縁種で、
雄成虫のみ翅があり、メスのところまで飛んで行って交尾しますが、
雌のみで単為生殖する場合の方が多いようです(2026.1)
(後編に続く)
