かつて住んでいた家は、裏側が崖になっていて、

崖崩れの土止めの壁の上、1mほどの高さの、平らな砂地がありました

そこは子どもでも登ることのできる安全な場所で、

子どもたち含む家族の、格好の、ハンミョウ

(コウチュウ目オサムシ亜目オサムシ科ハンミョウ亜科)の、観察台でした

 

晩春-夏の日差しの強い日中が、ハンミョウに一番よく会える時間で、

タマムシ(同カブトムシ亜目タマムシ科)以上とも思える、

キラキラと輝く姿に魅せられていました

 

また、毎年数ヶ所、ハンミョウの幼虫が潜む穴も出来ていました

近くに巣があるのか、その場所はいつも、

クロヤマアリ(ハチ(膜翅)目アリ科ヤマアリ属)と思われる、

中型のアリがいつも歩き回っており、

観察していると、巣穴に来たアリを、一瞬で引きずり込む姿が見られました

 

わが家のハンミョウは壁から下に降りず、

「道教え」と呼ばれる、少しずつ飛ぶ姿を見せることはありませんでしたが、

他のコウチュウ類より明らかに長い足で、体を高く持ち上げ、

素早く走ってアリを捕まえ、大きなアゴで生きたまま噛み砕いていました

 

派手に見える捕食行動をとる動物がしばしば「獰猛」という、

ヒトの一方的な主観からの評価を受けますが、

その意味では、ハンミョウの食事風景は、

なかなか獰猛に見えると、言って良いかもしれません

 

そのハンミョウについて、

ペシャワール会でアフガニスタンの農業改革を行なった中村哲医師が、

最初、モンシロチョウの原産地にあたるということが、

アフガンに医師として行くことになった理由だと、

以前公演にお招きした時の雑談で、楽しく伺ったことがありましたが、

その中村さんが若い頃、ハンミョウとの出会いを通して、

虫と、そして自然の豊かさに魅せられたという話は、

中村さんの著作等で語られています

 

その中で、中村さんは、ハンミョウを捕まえると、

芳香がすると書いていますが、

私は、ハンミョウからは、一度も匂いを感じませんでした

かなり近くで見ていたので、

後から匂いのことを知って、不思議だったのでしたが、

もしかしたら、地域等で、フェロモン成分,量の差が激しいのでしょうか

 

どうやらその芳香も、理由の1つになっているそうですが、

ハンミョウは、毒があると誤解している人も多いようです

しかしそれは、ハンミョウとはそれほど似ていない、多少丸みがあり地味な色彩の、

ツチハンミョウ類(カブトムシ亜目ゴミムシダマシ上科ツチハンミョウ科)

と混同されているためです

 

ツチハンミョウ類は触ると、カンタリジンという、近縁のグループに固有で、

樹脂性の、皮膚に炎症を起こし、数頭分でヒトでの致死量になる、

毒が体液にあり、敵に襲われると関節から出して身を守ります

そのツチハンミョウ類の粉末を、斑猫粉,斑猫毒と呼び、

昔から、分布する東アジア地域では、暗殺等に用いてきたため、

日本では無毒のハンミョウが、よく目を引くこともあり、

危険な毒虫と誤解されてきました

 

それほど有名で、猛毒を持つツチハンミョウですが、

アカハネムシ類(同アカハネムシ科)他の昆虫で、

捕食により体内に毒を蓄える、

ノガン(ノガン目ノガン科)他の鳥類のかなりの種で、

丸呑みして体内の寄生虫を駆除する等、

毒がある故に、逆に多くの生物に狙われています

 

そしてツチハンミョウ類はいずれも、

1齢幼虫が花に来たハナバチ類に飛び乗り、

その巣に幼虫期に寄生して、卵や蜜を食べるという、

特異な生態を持ちます

 

ツチハンミョウ類の幼虫が、

きちんと宿主のハナバチ類の、それもメスに掴まるか、

あるいはオスに一旦乗って、

交尾中にメスに乗り換えて、初めて宿主の巣に辿り着ける

従って幼虫が生残る確率は非常に小さく、

だからこそ昆虫類では非常に多い、

約4千個の卵を一度に産むため、

メスの腹は非常に大きく膨れ、翔ぶことが出来ない

このようにツチハンミョウ類を記述した文章は、

いくつも見つかります

 

しかし、基本的に昆虫類では、

幼虫の餌がある場所近くに産卵する親が非常に多く、

そのためか、ツチハンミョウ類のように千個以上の卵を持つ種類は、

非常に珍しいのは確かでしょう

 

とは言え、ハナバチ類の交尾中にツチハンミョウ類のオスからメスに、

乗り移った観察例が本当にあるのか、

調べた限りでは分りませんでした

これはもしかしたら、都市伝説のたぐいではないのか、

いかにもありそうな話だけに、

研究例に辿り着けないのは、少し変に思われます

しかし、このような複雑な生活史を持つツチハンミョウ類が、

微妙な環境の変異から、大きな打撃を受けることは、

十分に考えられます

 

以前、タイワンタケクマバチの話で紹介した、

ヒラズゲンセイ(同科)を始め、

ハナバチ類の減少に伴い、ツチハンミョウ類の少なからずの種が、

絶滅の危機に瀕しているというのも、頷けることではあります

危険な毒虫と注意することと、

他方で絶滅が心配されていることの知識を持って、

見守るべき虫なのでしょう(2024.10)