はっきり覚えていないけれど、20年近く前でしょうか、

日本各地での漁港で、スクリューに絡み付いて、

漁船の航行の妨げになる嫌われ者だったり、

浜辺に打ち上げられた、

大量のゴミとして扱われるばかりの海藻の代表、

アカモクが、美味な海藻として、

昔から東北沿岸で珍重されていた上、

ウィルス予防等、

大切な栄養素を持っている、

すぐれものの食材であることが発見されたとの報に、

驚いたことがありました

 

以来、酢の物のパックはじめ、

様々な商品が、割合短期間のうちに、

それなりに良い値段で、出回るようになり、

今ではすっかり馴染みの食べ物になりました

 

アカモクは、

よく知られた海藻である、

ホンダワラと同じくホンダワラ属、

またヒジキ(ヒジキ属)とも同じく、

褐藻綱ヒバマタ目ホンダワラ科の海藻です

 

ホンダワラほどには目立ちませんが、

小さな気泡が葉の根元からたくさん出ていて、

また全長7mにもなり、ホンダワラよりはるかに大きく、

海底から水面まで立上がり、これがしばしば、

船舶の航行の妨げになる原因でもあります

 

また、ホンダワラと同じく、茎が途中でちぎれ、

気泡によって海面に浮かんだ流れ藻は、

外洋で、多くの稚仔魚や小動物の、

揺りかごとしての役割を担っています

 

このアカモクは、つい最近まで、

秋田,山形を中心とした、

東北沿岸でしか、ほぼ食べられていませんでした

しかし春の繁殖期、

生殖腺の付いた若芽を採り、

茹でてみじん切りにして叩くと、

もしかするとコンブのメカブ以上に粘りが出て、

大変美味な海藻です

 

このことが広く知られるようになり、近年は日本各地で、

重要食材として、収穫、販売されるようになりました

粘り成分となる、フコダインという多糖類の食物繊維、

またフコキサンチンという、

抗酸化性を持つカロテノイド(生物色素)といった、

優れモノの成分を、大量に含んでいるのです

美味しい上に、優れた機能性栄養食品です

 

このアカモクの「発見」により、

ホンダワラ科の海藻の多くが、今も未利用である中、

利用可能性を探る研究も進んでいるとのこと

 

ただ、その中に、本当はかつて日本中で食べられていたのに、

今は忘れられた「ごちそう」がいます

前述の、日本中で見慣れた海藻、ホンダワラです

 

アカモクと同じく、

春に新芽が出ると、柔らかくちぎれやすいため、

流れ藻になって、遠くまで漂っていきます

この新芽には、雌雄の生殖腺があるので、

流れ藻から生まれた幼生が、離れた場所に固着して、

分布を広げることになります

流れ藻は、決して残念な、海のモクズ

(藻屑=流れ藻のこと→消えていく残骸の意で使われる語)

ではないのです

ホンダワラは、記紀神話にも出てくる、

海で馬の餌として用いられた話から、

ジンバ(神馬),ジンバソウという方言でも呼ばれますが、

そのホンダワラの春-初夏の新芽も、

昔は日本中で常食されていたのです

 

島根県にいた30数年前、

年1,2回、会議で隠岐島に行くことがありました

そこで一番驚いたのが、

煮物、酢のものをはじめとしたジンバ料理でした

 

収穫は初夏までですが、

乾物にして、年中食べられます

コンブとワカメの中間ほどの硬さで食べ易く、

あっさりとした中に豊かな風味がありました

 

但馬はじめ山陰の一部でしか食べられていないそうです

本当にもったいないことです

夏の海水浴の際にまとわりつく、

あの硬くてブツブツの海藻のイメージを、

全く裏切る食べ物です

 

アカモクも、ホンダワラも、

春の新芽を採って、自分で簡単に調理出来ます

ただいくつかのサイトでも注意書きされていますが、

ワカメ,コンブ等と違う、細かい葉や組織が沢山ついた形状のため、

ワレカラ類,ヨコエビ類といった、

甲殻類の格好の住みかとなっていて、

たくさんの個体が張付いています

 

種類によっては、真水や湯に通すと、かえって強く貼付いて、

取れ難くなることもあります

甲殻類アレルギーのある方は、採集時に、

しっかり海水中でそれらを落とさないと、

ひどい目に合うこともあるそうです

お気を付けください(2024.4)