今回、群馬県に行く用事がありました

群馬県内に東京方面から行く時、

まず大抵、側を通ることになるのが、

日本で3番目に長い大河川である、

利根川および、烏川,吾妻川,片品川等、その支流です

 

利根川のすぐ近くに住んでいる親戚もおりますし、

関西在住の私にとっても、

馴染みの深い川と言えると思います

 

その利根川水系で、今、絶滅が危惧されている1種が、

クルメサヨリ(オヴァレンタリア類サヨリ科サヨリ属)です

 

クルメサヨリはサヨリに似ていますが、

比べると、下顎が長く、頭長を遥かに超えていることで、

容易に区別がつきます

 

関西にいると、サヨリの仲間が淡水の大河川にいて、

普通に漁獲されて、郷土料理にもなっていた、

というのは、ちょっと考えられない話でしょう

 

しかし近年まで、

利根川の下流-中流域までは、

川で獲ってきて、煮付けや唐揚げやさつま揚げ、

あるいは煮干しや丸干しが、

日常的に食べられていたのです

 

しかし、食べられていた、と書いたのは、

利根川水系に、かつて溢れるほど生息していた、

クルメサヨリが、今や、

利根川水系では、絶滅寸前なのです

 

クルメサヨリは、

内湾や汽水域という、塩分の少ない水を好み、

河川を遡上して、淡水域まで入り込む行動を取ります

 

「塩水くさび」という用語があります

満潮の時、河川を海水が遡上する際、

比重の高い海水が、河川の淡水の下に入り込み、

水が2層に分かれることを指します

 

そのため、海水に乗ってきた海洋生物が、

一見あたかも、淡水の川で、

泳いでいるように見えることがあります

 

しかし多くのサヨリ類は、表層近くを泳ぐ習性があります

餌は、水面近くにいる大型プランクトンや、

海面に落ちた小動物、

そして、成長すると肉食から雑食に変わり、

海面近くに漂う藻類を、多く食べるようになります

 

これは、今回色々調べる中で、初めて知ったのですが、

コイ類をはじめ藻類を餌とする魚は、

胃内で消化前の藻類が光合成を行ない、

発生した酸素ガスが内臓内に充満して、大きな浮きになり、

浮かび上がって、身動きが出来なくなることを避けるため、

多くは、腹膜が、遮光カーテンのように、

黒くなっているそうです

 

サヨリ類も同じで、「意外と腹黒い人」

のたとえとされるようですが、失礼な濡れ衣です

 

クルメサヨリも同じく、水面近くを泳ぎ回り、

そこにいる小さな動植物を捕食するので、

塩水くさびとは関係なく、

淡水の中を泳ぐ生態を持つ、証拠でもあるわけです

 

日本列島周辺には、

3属7種のサヨリ科魚類がいますが、全て表層魚であり、

かつ、サヨリトビウオ(サヨリトビウオ属)以外は皆、

内湾や汽水域を、生活する場所としています

ただその中で、淡水域での報告があるのは、

クルメサヨリだけなのです

 

クルメサヨリは、暖かい地域の内湾に広く生息していましたが、

近年急激に数を減らして何県かで絶滅し、

そこには利根川でまとまって獲られ、

惣菜魚として親しまれていたはずの、群馬も当てはまるのです

 

また、隣の栃木では報告されてはいますが、

利根川水系の渡良瀬遊水地では、

1970年以降、2005年に1尾のみ

また那珂川水系でも非常に稀

関東平野の淡水域で、日常的にクルメサヨリが獲れるのは、

利根川最下流の、霞ヶ浦周辺のみに限られています

 

原因は、大きく言って、

1971年に、利根川河口堰が完成してから、

利根川水系の魚類の種数が、

激減していることと、同じ流れといえます

 

しかしその上で、

クルメサヨリは、まだ筑後川水系などには多く見られ、

比較的陸からの確認が容易な、

表層魚にも関わらず、

あまり生態の研究が進んでいません

 

河口堰による淡水化が、

本来淡水に強いはずのクルメサヨリに、

どうして他の汽水魚と同じようなダメージを与えたのか、

その理由を解明できなければ、

他の地域のクルメサヨリも、

早晩同じ運命をたどるかもしれません

 

もうクルメサヨリに会えない群馬で、

そのようなことを、

ぼんやり考えていました(2024.4)