小澤征爾さんが亡くなり、しばらく経ちました

20代だった昔、属していた市民合唱団で、

小澤さんの指揮で第九を歌える機会があり、

リハーサルには参加できたのに、本番は病気でダメだった、

痛恨の経験がありました

 

もちろん、小澤さんの音楽性を云々するような話ができるとは到底思いません

その上で、小澤さんはオケや合唱団を前に、

後年になるほど、指揮棒を持たない機会が多く、

そのときも、途中で指揮棒を置いて指揮をした時があったにもかかわらず、

変わらず正確なリズムを感じて付いて行けるという、

感覚を持ちました

 

全くの主観というか、個人的印象ですが、

小澤さんの指揮は、

左手だけを見ていても、リズムも表現も、良く分るのです

もっというと、指揮棒を置いた瞬間は、

右手だけを見るなと、伝えてくれているような、不思議な感覚でした

前述のように、私などが恐れ多いですが、

これが世界の超一流かと、身体中が震える経験でした

もしかしたら、小澤征爾さんは、両利きかと

 

そのような思いをしたのは、

多分私が、左利きで指揮をした経験があったからです

 

私は、高校と大学で、合唱団に属し、

正指揮者ではないですが、指揮をした経験があります

アマチュア合唱指揮者の間では、指揮棒を持たない人が多く、

私も左手に指揮棒を持つ気になれず、素手の指揮でした

 

その時、歌っている人たちの雰囲気に、違和感があったのです

勿論、その多くは、私の音楽性の不足です

しかしそれだけでなく、

私の動きが、どうしようもなく、左右逆なのです

 

指揮法の基礎は、2,3,4拍子で、それぞれ拍をとるため、

定められた図形を描きます

両手で拍を取るときは、

左手は鏡字を書くように、左右逆の動きをします

右利きの指揮者でも、右手で他の指示をするため、

左手で拍を取るときは、逆の動きをします

左手で右手の図形を描くのは、ほぼないのが不文律なのです

 

おそらくスポーツなら、

相手を惑わす左利きの動きは、前に書いたように有利でしょうが、

一緒に合わせる音楽では、

逆の動きはかなり、足を引っ張る問題らしいのです

 

数年前、前年までの指揮者の病気のため、

冬のある日、鉄道駅前で、数十人での、

クリスマスキャロルの指揮をする機会がありました

約40年振りの指揮でとても余裕なく、

練習時から、歌う人の障害になる、左利き指揮しか出来ませんでした

これもまた、苦い思い出です

 

ここからの話は、一応、あまり研究の進んでいない、

現生哺乳類以外にはふれません

少なくとも哺乳類は、左右の手足の動きは、

大脳の逆側の支配の下にあります

 

NHKはさすがというか、

幾つかの種の左右利きの割合を、調査しています

その結果、雌雄の差を含め、多くの種で、左右利き違いがある方が、

大多数であるとの結果が得られています

 

哺乳類は、必ずしも右利き優勢ではなく、

少なくともゴリラ類や幾つかのカンガルー類では、

圧倒的に左利きが多いそうです

 

ヒトでの利き手の率は、多くの調査でブレがあり、

確定的な数値はないようです

全体的な傾向として、

識字率の高いグループの方が、少し左利き率が低いようです

 

恐らくその理由です

私の両親は、書道教師でした

毛筆は、撥ねやはらい、左利きでは非常に難しい動きが要求されます

私も、字と箸のみは、明らかに右手です

中途半端に、不器用に両利きに近い、感覚を持っています

 

その上で、憶測ですが、矯正がなければ、ヒトの割合では、

左利きは2割近くいることは、多分間違いないと感じています

少数派の左利きの生存確率を減らしても、

多数派の右利きの優勢な文化が全体的に、

ヒトとして生残るのに、優勢なのでしょう

 

少なくとも多くの哺乳類では、大脳は左右両葉に分れ、

しかも運動機能を司る領域は、体の左右と逆に分れた部位にあります

 

物心つく前から、

幾つかの働きを矯正された、左利きとして、

特に右でする動作を中心に、

中途半端に、両手とも、不器用になっただけの、

実感が昔からあります

 

哺乳類では、たとえばヒトでは、ほぼ全ての個体で、

心臓が左側にあり、胃が左、大腸が右回りである中、

内臓が逆転する例では、

一部だけでなく、全ての臓器が逆になっているそうです

これは、体の構造について、左右を決める遺伝子が、

1個とは言えないまでも、ごく少数である傍証です

 

ヒトでの左右利き手(と利き足)の遺伝子は、

研究によれば、かなり多数存在するようですが、

恐らく内臓の構造により、右利きの方が生存確率が高く、

結果、全ての地域や民族で、

右利きの確率が有意に高いのでしょう

 

その上で、例えば劇場で、演者が出てくる左が上手であり、

もっと言えば生物学の図像で、(カレイ類はどうしようもない例外)

伝統的に左向きがスタンダードという形式は、

多数派の右利きが、左側により注意を向けることで、

より有利に生き残ってきた、歴史の結果ではないかと、思うのです(2024.3)