私が生まれて初めて(のはず)の、

甘エビを食べた機会は、

1980年代中頃の、調査航海の研究船内でした

 

二ホンウナギの産卵場所を突止める、

その後20年余続いた調査の第1回目は、

残念ながら2個の台風が襲来する環境下で、

2週間余の航海の大半が、

高い波浪が24時間続く中、

ただ大型船独特の船揺れに耐えるだけの生活でした

 

その中で多くの方々が激しい船酔いに苦しむ中、

一部の人が、船酔いをせず、ただ食っちゃ寝するしかない、

何故かその中に、私もいました

 

毎食は船内食堂で摂る以外、

航海後半は、帰港後余ってしまってもどうしようもない、

調査員各自が出航前に酒や嗜好品を持込んでいた、

珍しい食材の饗宴でした

その中の、記憶に残っている1つが、

誰か知らない、もしかしたら寝台で苦しんでる誰かの、

デンマーク・グリーンランド産の、

冷凍甘エビでした

 

今でこそ各地で、生エビの寿司や海鮮丼も、

普通に食べられますが、

当時は、生のエビは(たとえ解凍であっても)、

庶民にはめったに食べられないご馳走でした

甘エビという名前だけは耳にしていましたが、

エビに甘みがある、という表現が、

これほどのことかと思わされた、味でした

 

甘エビと書いたのは、

当時、世界共通種と思われていたのが、

後に、北太平洋,北大西洋で別種と確定した、

前者、ホッコクアカエビではない、

後者、ホンホッコクアカエビだったということです

 

両種ともに、タラバエビ科そしてタラバエビ属という、

体長が大きくなる種は味がよく重要種となるものが多く、

特にこの2種は、

同じ味かつ非常に美味と、定評があります

 

ただこのタラバエビ科グループは、多く生息域が限定され、

全体的に、乱獲による絶滅が憂慮されています

 

これは科学的検証による結論のない、

そして研究を離れて久しい私には、

調べようもない推論ですが、

これらのグループの多くが、

雄性先熟の性転換をする生物であることが、

その一因かもしれません

 

その要因を考えると4つ

①  性転換をする種、特に雄性先熟種が、

世界的優占種となった例がない

つまり、生態的優位を得ない進化の袋小路に入っている可能性

②  だからこそ、小さな生態的地位=ニッチを獲得して、

「ビンの口効果」で種分化をして生きている中、

ヒトの乱獲のため根こそぎにされている可能性

③  雌雄の性転換というのは、安定した環境下、

生存確率を保証するし一方、環境が激変した中では、

雌雄の性遺伝子の変異により、

生存に適する個体を産出すことと比べ、かなり可能性が低くなる

④  そしてもう1つ、大部分のメスが1年前後

大型のメスが比較的少数の卵を大切に抱卵する生態は、

性転換の結果である、大型で(しかも美味しい)、

ヒトの抱卵メスの乱獲という環境下では、種の絶滅を招く要因

 

そういう生物種の代表の1つが、

能登はもちろん、

北陸4県での水産物の代表の1つである、

ホッコクアカエビ(甘エビ)かもしれません

 

能登の大地震により、

恐らく阪神・淡路大震災,東日本大震災よりも、

遥かに人口比で多大の方々が、

壊滅的な被害を被った中、

復興を後回しにして甘エビを守ると、

言う気はありません

 

しかしその上で、

これまでと海中の環境が激変した今こそ、

能登の方々を富ませる農水産品の主役として、

年間漁獲量の安定している上、

旬がなくいつでも高額で供給できるホッコクアカエビを、

どうすれば将来的にも安定的に供給できる、

態勢を官民共同で築けるかは、

考えても良いかと…(2024.3)