昨年に比べ、どうしても投稿間隔が長くなり、すみません

今、能登半島について、ネット検索する必要が多く、

今まで知らなかった、生物に関しての記事にも、

時折触れる機会があります

その中で、昨夏の新聞社ネット記事ですが、

金沢大による、能登のフクロムシ調査の報告が、

目を引きました

 

私が、フクロムシについて、最初に詳しく知ったのは、

スティーヴン・J・グールドの,

科学エッセイ(『ダ・ヴィンチの二枚貝』所収)からです

最初その文章を目にしたときには、ただただ、

こんなおぞましい寄生生物がいるのか、という感想

ホラーというよりスプラッター映画『エイリアン』や、

それ以上に、寄生した宿主を操る話、

『遊星からの物体Ⅹ』を彷彿させる、

想像すればするほど、身の毛がよだつ思いがするものでした

 

しかし、最初にその文章を目にしてから20年余、

少しずつ、目にはしたことのない、フクロムシ類

(節足動物門甲殻亜門顎脚綱フジツボ(蔓脚)下綱根頭上目)について、

多彩に生態系を彩る、いとおしい一員、という感慨を、

持つように、徐々に気持ちが移りました

 

フクロムシ類は、系統分類上の名、フジツボ下綱という名で分るように、

フジツボ類、そしてエボシガイやサンゴにつくツボムシを含む、

甲殻類の中でも、一部の二枚貝類等と並ぶ、

固着性で特筆されるグループです

 

このフジツボ下綱は全て、

甲殻類全体に共通する1つ目で遊泳性のノープリウス幼生の後、

キプリス幼生という、ただ目的地に固着するだけの、

目と触角と、海中で固化できる接着剤分泌腺だけに特化した、

不思議な幼生になります

 

ところが、フクロムシ類だけは、

その先が、エビ・カニ類,ヤドカリ類,シャコ類,海性ワラジムシ類、

そしてより近縁なフジツボ類といった、

生きた甲殻類がターゲットなのです

 

近年は誤解も解け、ズワイガニ類やセミエビ類に、

フジツボや、カニビル卵がついている方が、

脱皮から日が経ち、美味しいという知識も一般的になりました

それらは、あくまで殻の表面を間借りするだけの生物です

 

ところが、フクロムシ類のうちケントロゴン目は、

キプリス幼生が固着した後、

ケントロゴン幼生という、

宿主に針を突刺す注射針様に変態し、

多く最初は細胞数百未満の、

多くの内部寄生虫に似た細長いバーミゴン幼生を送込みます

この幼生が、まるで冬虫夏草の菌糸のように、血管を通じ、

宿主の体の隅々まで達します

 

ここで不思議なことですが、節足動物門で唯一、

フクロムシ類は、宿主に侵入した後、外骨格を再生しません

まるでキノコや蘚苔類のように、

宿主の腹部に、繁殖を目的とする、

エキステルナという、袋状の器官のみ形成し、

宿主の甲殻類は雌雄共に、あたかも自分の卵を守るように、

エキステルナを守ります

 

更に奇妙に感じられるのは、ケントロゴン目で、

直接宿主に寄生するのはメスのケントロゴン幼生のみで、

遅れて付着するオスは、

ケントロゴン幼生が雌のエキステルナに、

バーミゴン幼生を送込み、受精します

報告されている全ての寄生生物で、

メスの体そのものに、同じ寄生行動で、

オスが入込むのは、フクロムシ類だけです

 

また、フクロムシ類の中には、

キプリス幼生がケントロゴン幼生を経ずに、

宿主に幼生を送込むグループがあり、こちらは、

アケントロゴン目(ラテン語(学名)で「ア-」とは、

「no-」の意味です)とされています

こちらの方が、より進化的という記述もありますが、

調べた限り、逆の可能性も消せません

 

フクロムシ類は、昆虫含め、陸上に進出した、

節足動物には関わっていません

しかし海中では、報告にある限り、

寄生されていないものと、

生態がほぼ同じ=捕食・被食関係が同じと考えて良い、

フクロムシ類宿主は、

多細胞動物の王者と言える節足動物門生物だからこそ、

あくまで証拠のない憶測ながら、

陸上での蝗=バッタ類群生相の、

生態系を不可逆的に破壊するような、

暴走を止めるよう調節する、大切な役割を、

もしかしたら担っているのではとさえ、思われるのです

 

破滅的致死性の結果、自ら消えたSARSウィルスと違い、

知得る限り、ほとんどの生物は、宿主を根こそぎにせず、

程度の差こそあれ、捕食・被食・寄生・共生を通じ、

多彩な生物と共に、生続けるのです

 

上記の金沢大の論文で目を引いたのは、

能登町・九十九湾のイワガニ(カニ下目イワガニ科イワガニ属)で、

フクロムシ寄生率が、驚くべきこと、

理由不明で5割を超えているという結果です

恐らく定点的調査が非常に重要と思われるけれども、

この能登半島の被災者支援の妨げをしない前提で、

果たして調査を続ける余裕があるか

憂慮するばかりです(2024.3)