ロンサム•ジョージという、有名なカメがいました

爬虫綱カメ目リクガメ科ナンベイリクガメ属に属する中で、

ガラパゴス諸島に、

今,もしくはかつて生息していたゾウガメ類を、

生物地理学上のグループとして、

ガラパゴスリクガメ種群と呼んでいます

多くが諸島内の1つの島だけに生息している固有種で、

今はそれぞれ種として独立していると考えられています

 

ガラパゴスリクガメ種群には、15種が記載されているのですが、

主に航海用の食料として乱獲が続き、

ヒトがもたらしたヤギやブタからの植生の食害とも重なり、

5種が絶滅しています

 

その中で、5種目の絶滅種は、ピンタ島に生息していたピンタゾウガメです

一旦絶滅とされていた中、1971年に発見された、たった1頭のゾウガメが、

ロンサム•ジョージと名付けられ、

2012年に、推定100歳以上で死亡し、

近縁種と思われる、花嫁候補の個体との繁殖も成功せず、

再びピンタゾウガメは、絶滅種となりました

 

そのジョージの名を冠せられたカタツムリが、

ハワイ諸島に、いました

 

マイマイ目ハワイマイマイ亜科ハワイマイマイ属の、

アカンティネラ アペックスフルヴァ(和名なし)の、

ハワイ・オアフ島の研究所内で生まれた後、たった1頭生残り、

2019年に死亡したカタツムリです

ゾウガメのロンサム・ジョージにちなんで、

ジョージと名付けられていた、たった1頭です

 

カタツムリ類は、軟体動物の中では、

比較的寿命が長い種類が多く、

ジョージも10年以上にわたり、

繁殖が試みられました

大部分のカタツムリ類と同じく、

ハワイマイマイ類も雌雄同体なので、

繁殖の可能性はあるとも期待されましたが、

こちらも残念ながら、

実りませんでした

 

ハワイ諸島をはじめ、多くの島々で、

農作物を食害する外来種、

アフリカマイマイ(マイマイ目アフリカマイマイ科)への、

天敵として移入された北米原産のヤマヒタチオビ

(マイマイ目ヤマヒタチオビ科)という、肉食性カタツムリが、

あたかもマングースがヒトが目論んでいたハブを避けて、

アマミノクロウサギやヤンバルクイナを食散らしたように、

ハワイはじめ、太平洋諸島の固有カタツムリ類を攻撃し、

幾百種もの希少カタツムリ類を絶滅させた、

その犠牲となった1種です

 

外来種による生態系や農業への侵略に対し、

安易に天敵を移入することで、

かえって繊細なバランスの上に立っていた生態系を、

破滅的、不可逆的に破壊した、

生き証人の生物たちと言えるのです

 

そのジョージのすでに亡き仲間たち、

ハワイマイマイ類は、

ハワイ先住民によれば、

歌うカタツムリだったとのことです

 

ハワイ諸島の大地に無数に繁殖し、

ハワイにいないミミズ類の代わりに、

ハワイの土壌分解者として、大きな位置を占めていた、

ハワイマイマイが島々に満ちていた時代、

皆が集まる繁殖期、大群衆となり、

貝殻がこすれあい、また枯葉や土壌を食べて肥やす際の音が、

ハワイの島々には大きく響いていたとのことです

それがカタツムリの歌だったそうです

 

生態保護が進んでいたはずの小笠原諸島では、

1995年に初上陸が確認された、

カタツムリ類の天敵のプラナリア類の1種、

ニューギニアヤリガタリクウズムシ

(扁形動物門三岐腸(プラナリア)目リクウズムシ科)が、

おそらく船舶の陰に隠れて侵入し、

小笠原固有種のカタマイマイ類(20を超える種・型群が確認されている)が、

今現在、非常な速度で絶滅瀬戸際に追詰められています

カタマイマイ研究の第1人者、千葉聡さんも、

大きな警鐘を鳴らしていますが、

絶滅の速度は食止められていません

 

千葉さんによれば、小笠原のカタマイマイ類も、

かつては島の森を覆いつくし、

「歌う」のだったそうです

こちらも今は、幻です

 

ヤマヒタチオビも、ニューギニアヤリガタリクウズムシも、

かつてはアフリカマイマイ駆除のため世界中に放たれ、

今では世界中で固有カタツムリ類に猛威を振るい、

アフリカマイマイ共々に、

「世界の侵略的外来種ワースト100」とされています

この積重ねは、単に珍しい生物の消滅に留まらず、

おそらく1種ごと、共生微生物はじめ多くの生物種の絶滅を招き、

いつか、ヒトの絶滅へとつながる道なのでは、と、

思わされます

 

昨年は、タイで5種もの「光るカタツムリ」が発見され、

ほんの少しは楽しいニュースとなりましたが、

歌うカタツムリの方は、

ヒトの絶滅までの残された日月にも、

もう誰も、目に、あるいは耳にする機会は、

望めないのかもしれません(2024.2)