先月家族が亡くなり、

その後、また家族の別の1人の病気で、

看病に、遠方まで通うことになりました

ここでの文章を書く気力が、

なかなか出なかったのですが、

自分を力付けるつもりで、一文、書いてみました

 

身が柔らかく、揚げて美味しいキス

(シロギス,旬は春−夏,スズキ亜目キス科キス属)

関東の方々からは、特に天ぷらで、

ギンボ(旬は秋−冬,ゲンゲ亜目ニシキギンポ科)と共に、

アナゴやエビ類のような、

通年並び、そして高級感を一般に与える魚よりも、

江戸前の粋な魚文化の代表の1つとして、

珍重されている魚でしょう

 

ところが、その江戸前文化を、

担っていた中心のはずの、

江戸の町民の間では、

キスは大量に獲れ、いわば安い大衆魚扱い

味も決して、最高とされない、

庶民のものとして、日常的に食べられる、

魚だったそうです

 

そしてその魚は、

どうやらキス(和名シロギス)ではなく、

当時は多く、漁師の間で、

シロギスと区別され、ヤギスと呼ばれていた、

和名アオギス(キス属)だったのです

 

アオギスは、

第1背鰭の棘条が12-13本とシロギス10-12本より多め、

第2背鰭の軟条に小さく黒い斑点があり、

シロギスより青というか,

全体にグレーぽい体色という違いがあります

しかし他は、

ほとんど目に付く違いがありません

シロギスでも30cmくらいには育ちますが、

アオギスは50cmにもなるとのことで、

大きなシロギスを釣りで揚げたという、

少し前の話の中には、

もしかしたらアオギスの見間違いもあるかもしれません

江戸時代の江戸庶民も、

区別せず、どちらもキスと呼んでいたようです

 

一方、瀬戸内では、昔から、

アオギスよりも、シロギスがたくさん採れていましたから、

全くの憶測を許していただければ、

もしかしたら江戸前のシロギス文化は、

遅れての西日本文化との、

交流の中で生まれたのかもしれません

 

アオギスはシロギスと全くの別種で、

味もかなり違っていながら、

見分け難いため一緒にされ、

おそらく昔は西日本沿岸に広く生息しただろうけれど、

今はほとんどの地域でいつの間にか絶滅し、

周防灘以外については、

少し前まで報告のあった、鹿児島や宮崎でも、

絶滅可能性高いようです

 

また、韓国台湾はじめ海外の報告もありますが、

採集数が非常に少なく、

誤ってアオギスとされた可能性高いようで、

周防灘のアオギスは、

イリオモテヤマネコやトキ並みに、

危機的な絶滅危惧種のようです

 

そのため、海水魚ではまだ例が少なく、

本来ならしっかり調べるべき、

地域絶滅の理由の研究報告も、

ほぼないようです

 

あまり重要視されず、記憶されていないながら、

それでも東京湾では、

江戸期から1960年代にかけ、

アオギスを漁獲するため、遠浅の海に大きな脚立を立て、

船影を嫌うアオギスを獲る、

脚立釣りという漁が、広くおこなわれていたそうです

 

少なくともその少し前まで、

アオギスは東京湾に大量にいたはず

江戸前の、豊かな海の風情に溶け込む、

その絶滅の時までの、

大切な登場人物だったのです

 

東京湾では最近、

脚立釣り復活を試みる活動が、

あるそうですが、

その主役のアオギスが、すでに絶滅した中で、

どこまで意味があるのだろうか、とも、

どうしても思えてしまいます

 

まるでリョコウバトや、あるいはトキのように、

ありふれた存在が、

あっという間に死んで、いなくなってしまう

そのようなことが、

最早どうしようもないかもしれない

そう、つい、

感傷に襲われてしまうのです(2024.2)