間もなくの来年は、辰年です

水産の研究をしていた時から、ずっと年賀状を下さる方に、

毎年えとにちなんだ魚の写真を載せておられる方がいて,

次はどの魚だろうと、毎年楽しみにしています

 

ちなみに、えとを干支と書くのは、本来は不正確な表現で、

陰陽道で、十干十二支(甲乙丙丁…,子丑寅卯辰…)

のうちの十二支について、

古代中国で、すでに動物を当てはめていたものが、

日本にも、もたらされたものです

 

ちなみにこの十二支の動物は、中国文化圏で広く見られ、

人種としてはアジアに属する、

ハンガリーやブルガリアにもあると言われています

ただ、ハンガリーの首都ブタペストに住んでいた知人の話では、

全くそんな話はなかったということです

もしかすると、

すでに風習は廃れかけているのかもしれません

 

その辰の字に当てはめた竜ですが、

十二支の動物の中で唯一、空想上の生き物です

というより、定められた当時は、

いわば、レアモンスターと言うべき、

存在するけれど余りにも珍しく、

見た者がいない生き物と思われていたのでしょう

 

西洋のドラゴンは、

物語での恐竜,怪獣のような姿はともかく、

近代に生物学がそれまでの発見の集積を整理分析するまで、

アフリカ大陸等のワニや、

インドネシアのコモドドラゴンなども、

ドラゴンの一種とされていたようです

つまりは、実在する巨大なトカゲ類こそドラゴンで、

そこにファンタジーの空想上の生き物も加えたものが、

ドラゴンなのです

 

一方で、東アジアの竜は、恐らく竜巻や稲妻からのイメージによる、

完全に架空の生き物です

 

それが日本に伝わると、さらに想像が膨らんで,

これこそ竜の赤ちゃんだ、という生き物を、

海で発見までしました

タツノオトシゴ(ヨウジウオ科タツノオトシゴ亜科タツノオトシゴ属)です

 

タツノオトシゴは英国では、シーホースです

顔つきもそうですが、

首の曲がり方がウマを連想させることが、

大きな理由のようです

ラテン語の学名がヒポカンパス

シーホースの元々の意味、

「馬の-海の巨大な怪獣」の伝説から取った名です

 

そして中国語でも、竜ではなく、海馬です

中国大陸は、代々の都から海は遠く、

タツノオトシゴは、漢方薬の原料として、

干物で目にするだけの存在です

あまり魚とも思われていないようで、

偶然、英語をそのまま訳したような名になったようです

もちろん、タツノオトシゴが竜の係累なんて話も,ありません

 

そのようなタツノオトシゴですが、

生態を説明した文章に結構、

意外と獰猛という記述があります

 

これはタツノオトシゴ類だけでなく、

属するヨウジウオ科魚類全体に、

しばしば言われることです

 

ヨウジウオ類はタツノオトシゴ類を真っ直ぐに伸ばしたような姿

というか、タツノオトシゴ類が、ヨウジウオ科の本来の形から、

立泳ぎするための曲がった頭部と、

尾鰭がなくなり、巻きつけられるように、

柔軟に動く尾部に進化していった訳です

 

そのヨウジウオ類は皆,長い管状の吻と、

その先に小さな口があります

魚類は皆、口から海水を入れ,

鰓から出すことで呼吸していますが、

その際、スポイトのように、

小さな餌を思い切り吸込む様子が、

獰猛と称されるようです

 

ただし、大抵の動物は、他の動物を捕食する時、

かなりのスピードで捉まえるわけで、

ヨウジウオ類だけが、

とりたてて獰猛というのは、

納得できないのですが

 

タツノオトシゴ類のオスの腹部には、

育児嚢があり、メスがそこに輸卵管を差込んで、

数十-数百個の卵を産卵します

そして数週間後に、オスが稚魚を「出産」するという、

まるで雌雄逆転したような生態です

 

なお、タツノイトコ(ヨウジウオ科ヨウジウオ亜科タツノイトコ属)

という、尾鰭がなく最もタツノオトシゴに似た姿で、

タツノオトシゴのように海底の藻等に絡みつく生態の魚、

さらにタツノイトコそっくりですが、

背鰭の基部に盛上がりのないタツノハトコ(同属)もいます

本当は少し近縁関係は薄いですが、

まるでタツノオトシゴの赤ちゃんが、首が座らず、

ハイハイしている風の魚たちまでいます

 

沖縄近海には、これら全種が見られます

これら皆が集合すれば、

珍名家族の代表ともいえる、面白さです(2023.12)