以前、三陸に住んでいた時、
1度だけ食べた料理が、ひっつみ(汁)です
ひっつみとは、
小麦粉をこねて半日寝かしたものを、
平たく引伸ばし一口分ずつ引きちぎり、
具材を炊いた鍋に入れて食べる料理です
いわば、すいとんの一種と言えますが、
うどんと同じ中力粉を使い、
引き伸ばしてそのまま1茹でして食べる、
コシのある、太うどんにも似た味です
青森の下北から岩手の沿岸の郷土料理です
(沿岸だけでなく、後に三陸から旧南部藩域の、
盛岡,七戸等内陸の都市部に広がり、
内陸部でもたべられていたとの情報もあります)
八戸のせんべい汁のような知名度はなく、
どちらかというと、各家庭でそれぞれの味,具材がある、
おふくろの味、故郷の味だそうです
しょうゆ仕立てが基本ですが、
みそ鍋や潮汁、また最近は、
それこそ洋風中華様々な鍋で、
要はひっつみさえ入れば、
そして多く、皆でつつきながら、
ひっつみを足していけば、それがひっつみ(汁)なのです
岩手県宮古の知人宅で頂いた際、
カニがなかったのでと、サケの味噌仕立てでした
石狩鍋のひっつみですね
その時、ひっつみの中で、昔から一番の御馳走は、
カニのひっつみと聞きました
新鮮なカニを丸ごと割って、
カニ味噌も野菜、豆腐等と一緒に煮るのです
ケガニ,クリガニ,ズワイガニ、
また夏場はサワガニ等の川ガニも入れるそうですが、
「ご近所で」昔からご馳走とされてきたのは、
夏場は身が飛抜けて美味しいオス、
秋冬は内子(産卵前の卵)の入ったメスを用いる、
ガザミ(ワタリガニ)(エビ亜目短尾下目ガザミ科ガザミ属)
の、ひっつみとのことでした
改めて調べてみると、本当に家庭料理の扱いで、
郷土料理としても、徐々に人気が出ていますが、
まだまだこれからのようです
その、ひっつみの具材をはじめ、
三陸でも高級魚扱いのガザミは、
暖流域の魚介類ながら、
対馬海流が津軽海峡を越えて流れてくる、青森-岩手北部、
また黒潮の支流が北上する、
宮城北部―岩手南部でも、漁獲されています
宮城県は2016-18年、漁獲量全国1位でした(19年は2位)
近縁種のノコギリガザミ科ノコギリガザミ属
(近年、1種からトゲノコギリガザミ,アカテノコギリガザミ,
アミメノコギリガザミ3種に再分類されました)と合わせ、
暖流域―熱帯域の近海産のカニと言えば、
昔から大型で美味しいガザミ(ワタリガニ)が代表でした
このガザミ類は、どれもハサミが大きく強力で、
うっかり挟まれると大けがをする、要注意のカニです
また、後側一対の脚はひれ状に平たくなっていて、
カニ類には珍しく、結構な遊泳力で、
逃げ足の速いカニです
ガザミ類は深海産のズワイガニのように、
生食することはまずありません
一般論ですが、寄生虫が心配なので、
原則、火を通した方が良いでしょう
歩留まりが良いこともあり、東京湾や瀬戸内海沿岸では、
蒸し身が寿司ダネにもなって来ました
水深30m以浅の砂底域に棲み、
水底の小型の動物を中心に捕食します
近年、海岸線の埋立てが進み、
また沿岸域の海洋汚染の影響を大きく受け、
大きく漁獲量を減らしたのも、
食用カニの主役をズワイガニや、タラバガニ(異尾(ヤドカリ)下目)
に譲った大きな理由です
なお、アオガニともいわれるタイワンガザミ(ガザミ属)は、
外来種でなく、水深50mまでの、ガザミより深場に生息するため、
沿岸漁業では比較的目にしない魚種です
活魚は青みが強く、見分けやすいですが、
火を通すとほとんど区別付かず、
ガザミやワタリガニの名で売られることも多いようです
このタイワンガザミは地中海で、
外来生物として生態系への脅威となっていますが、
先日、ケジャン(ガザミ類のキムチ)原材料として、
韓国に輸出されるようになりました
大量に採れ、現地では鮮度を良く保って冷凍できず、
ほぼ捨てられていたそうです
しかし価格が安く、
冷凍輸送の設備が整えば、将来的には、
比較的鮮度を気にしないケジャンだけでなく、
生の冷凍ガニとしても、
世界的に流通することも考えられます
ガザミ類が、再び日本のカニの代表の一員に復帰し、
タイワンガザミひっつみが三陸の名物になる日も、
あるかもしれません(2023.11)
