私の連合いは、

立会い出産が許されない病院での出産でした

なので私はヒトではなく、ウシでしか、

胎盤の実物を目にしたことがありません

 

私が胎盤とは何と不思議、と最初に思ったのは、

軟骨魚類板鰓類の、

系統的にどう考えても、各個で独立して複数回進化したとしか思えない、

卵生,卵胎生,胎生の不思議な並存でした

 

遥かに繁栄しているはずの硬骨魚類には、

卵胎生は、少しは見られるものの、

胎盤を形成して母親から栄養を得る胎生は、

全く報告されていません

 

卵・幼生時代含め完全な陸生動物となった、

両生類より後の生物ならば、

受精卵が乾燥に耐えるための有利な戦略とも考えられるけれど、

それなら逆に、

軟骨魚類で独立して、何回も進化したのに、

なぜ哺乳類型爬虫類の中の哺乳類だけで、

恐竜類も爬虫類も胎生が見られないのか

偶然と考えるには不自然過ぎ、

何年も疑問でした

 

その中、近年2つの説が合わさり、

これまでの疑問に、新しい答がある可能性を知り、

改めて生物の神秘を感じました

 

1つは哺乳類の胎盤の形状の、

哺乳類内での著しい違いです

 

鯨偶蹄目の中でも、ウシやヒツジという、

反芻するグループに、見られるのは、

母親の子宮に子どもの体から

小さな胎盤がたくさん出て母子がつながる、

叢毛性胎盤(多胎盤)です

 

一方、鯨偶蹄目のブタ(イノシシ)や、奇鯷目のウマは、

胎盤といっても、

子宮内壁と子供の細胞が接するだけの、散在性胎盤で、

それを通して母親から栄養をもらう形です

食肉目では、その散在性胎盤が、

子どもの体をくるんでいる帯状胎盤です

 

また有袋類は、上記軟骨魚類もですが、

全て不完全な胎盤(卵黄嚢胎盤)しかありませんが、

ここで不思議なのは、

哺乳類でも原始的とされるネズミ類やサル類では、

母子の細胞が融合して形成された胎盤に、

子どもがくっつく形の盤状胎盤を形成するのです

盤状胎盤は、母親の血流が直接子どもの細胞に接し、

最も効率的に、子どもが栄養を得られる仕組みなのです

 

これは哺乳類でも、異なる胎盤の進化が、

複数回独立して起きた可能性を、

示唆しているのです

 

そこでもう1つの説が加わります

ネズミ類やサル類の胎盤形成は、

まず受精卵の子宮への着床から始まりますが、

受精卵の細胞が子宮内壁に、

組織も血管も破壊しながら潜込み、

そこで自分の細胞に栄養を引込むため、

血管のバイパスを形成までしてしまう

これは実は、

ガン細胞の体内での転移の仕方と、

非常に似ているのです

 

生物の遺伝子には、

内在性レトロウィルスというものが存在します

元々レトロウイルスという、

他の細胞やウイルスのDNAを転写したり、

逆にDNAを追加させる変わり種のウィルスがいます

そのレトロウィルスは、逆に

自分のDNAを宿主の遺伝子に植付けることがあり、

ウィルスの遺伝子がそのまま細胞の遺伝子のように存在する

それを内在性レトロウィルスというのですが、

ヒトの総遺伝子(ヒトゲノム)では、

なんと全体の8%にも上ります

 

実はガンの原発部位から体中への転移は、

脊椎動物の中でも特に哺乳類で多発するのですが、

この内在性レトロウィルスが、

大きく関与していることが知られています

ネズミ類サル類以外でも、同じ仕組みと考えられます

 

その内在性レトロウイルスが、

ヒトの胎盤形成にも働いていることが発見されています

内在性レトロウイルスは多く、

ジャンク遺伝子(情報)と呼ばれる、

生物の一生に何の影響も及ぼさない無駄な遺伝子として、

生物種が進化して後も保存され続けます

 

その中のあるものが、突然、

個体を重篤な病にさせるとともに、

子孫を生み、生かすため非常に有利な胎盤も、

同時に宿主の動物に与えているらしいのです

母親は、生命の危険を冒して出産します

それはなんと、

ガンの転移と胎盤形成の引換えという、

想像を超えたレベルでも、また同じなのです(2023.9)