「ある人がぶどう園にいちじくの木を植えておき、実を探しに来たが見つからなかった。そこで、園丁に言った。『もう三年もの間、このいちじくの木に実を探しに来ているのに、見つけたためしがない…(中略)…園丁は答えた。『御主人様、今年もこのままにしておいてください。木の周りを掘って、肥やしをやってみます。そうすれば、来年は実がなるかもしれません。もしそれでもだめなら、切り倒してください。』」(ルカによる福音書 13章6-9

あるところで、聖書とイチジクのことについて,

(および本当は毒麦も)

話す機会が得られたので、

今回こちらのブログでも取上げました

とはいえ、こちらの方がかなりボリューム多く、

前後編に分けています

 

イチジクはバラ目クワ科イチジク属の植物で、

同じイチジク属にはイヌビワ、ガジュマル等がありますが、

栽培種のイチジクは、品種との差は曖昧ながら、世界中で1種であり、

パレスチナはじめ地中海沿岸の、重要な農産物の1つです

 

今日は複雑で面倒くさい話になってしまいます

そのため、この話も前後編に分けてお話しします

(実は様々な誤解に伴う話が、専門書にも出て来ます

特にキリスト教のものに目立ちます)

 

イチジクには雌雄同株と、

雌雄異株でありながら、雌株には雌の実だけ、

そして雄株の側には雄の実と雌の実が別々に成る、

という生態を持つものがあります

日本の大部分のイチジクの実の出来方は、

これとも少し違うので、後編に詳しく記します

 

イチジクの複雑な話その1です

先程、実と書きましたが、

漢字で無花果と書くように、

一見花が咲かずに稔ったような実は、

実は内部に花を備えた花嚢というものです

 

本当の花は、

イチジクを割ると真ん中にある、

小さなツブツブなのです

 

イチジクも被子植物ですから、

本来は受粉によって子孫を作ります

しかしその作業は、普通の虫では担えません

イチジクコバチ類という、

イチジク属のそれぞれの種と共に進化してきた、

共生種のハチがその役を負うのです

 

このコバチのメスだけは花嚢内部に入れます

メスが花嚢で産卵して死ぬと、

幼虫がイチジクの花や未熟な種を食べて育ちます

成虫に羽化すると、交尾後に花嚢の中でオスは死に、

そのオスに手助けされてメスのみが外に出て、

次の花嚢に入り、

身に帯びた花粉でイチジクを受精するのです

オスは一生花嚢の中で、

死ぬ前最後に、メスを助け、見送るのです

 

その次の複雑さは、

雄株と雌株の花嚢の違いです

雌雄同種そして異株の雄株の花嚢は、

イチジクコバチの産卵管が花や種子を作る子房に届くので、

幼虫はそこで育ちます

しかし外見から分らない、雌株の花嚢に入込んだハチは、

産卵管が種子を作る子房に届かず、

子孫を作らず死んでしまうのです

逆に、雄株の花嚢は、

花粉を作るためだけに、外見も味も差がない、

無駄に栄養を注ぐ形で、熟するのです

花嚢が食べられて運ばれる種も、コバチも生残るのは、

少数派の、雌雄同株の花嚢だけです

 

さらに複雑(怪奇)な世界は続きます

このイチジクコバチ類には、

イチジクセンチュウという寄生虫がいます

産卵して死ぬメス蜂から花嚢内に出たこの線虫は、

孵化した幼虫の体内に入って寄生します

この時、2個体以上の別の親蜂からの、

兄弟ではない線虫が、1尾の幼虫に入ると、

高率で、その幼虫は死にます

そのため、2尾3尾とメス蜂が花嚢に入っても、

生残るコバチの数は、むしろ減るのです

 

イチジクとイチジクコバチとイチジクセンチュウが、

いずれかだけが大量発生することなく、

互いに数が増えすぎないよう調整しながら、

共生しているのが、

イチジクの花嚢の中の、世界なのです

 

上の聖書箇所は、このように複雑な生態であるイチジクが、

なかなか実を結ばない場合があること

しかし数年後に、共生生物の環境が整えられ、

突然稔りだすこともまた、良くあること

それを願っての、一見無駄と思われる献身が、

農夫に求められていることを、皆が知っている中で、

語られたものなのです

(後編に続きます)(2023.9)