7月になり、夏の魚の話です

魚偏に夏という字は、一応正式なというか、

戦後すぐに、内閣の国語審議会が、

日本の漢字の標準と定めた、

当用漢字にはありません

 

まあ、日本の大部分の魚の名の漢字は、

当用漢字ではなく、国字と呼ばれる、

中国にはない、日本で作られた漢字です

魚類以外の水産生物含め、

中国よりはるかに多様な魚種を区別して扱う、

日本の文化から生み出された、

伝統ともいえるものです

しかし、お寿司屋さんの湯飲みにあるような、

魚の漢字を集めた一覧表でも、

夏の魚に当たるものは、まずありません

 

魚偏に夏という字は多くの文献等で、

鰒(フグ,アワビの別字)の書き間違い、

鱪(シイラ)の取違えとも言われています

しかし本当は”魚夏”と書くのはワカナです

 

ワカナとは、

出世魚としての代表の1つといえる、

ブリ(後日改めてまた書きますが、ブリが含まれる、

アジ類の分類は今後、大きく変わるかもしれません)

の体長10-30㎝の若魚を指します

 

出世魚の呼び名は、総じて、

沢山の方言があります

その違いがあいまいであり、

また、成長により区別されるのですが、

地方によって名前の変わる境も異なります

 

魚の国字は大部分、

漢字の本来の読み方を無視し、

外見、性質を表わす字を組合わせています

夏に美味しいブリの若魚、というだけでは、

少し場所が変われば、どの大きさを指すか、

1つの字では、通用しなかったようです

おそらく、それが、

”魚夏”を各地で用いて、

国字と認められるほど定着する機会がなく、

漢字としては廃れた理由ではないでしょうか

 

私が普段思い浮かべるように、

大阪湾・瀬戸内海・山陰ではワカナですが、

東京湾ではワカシと呼ばれ、

そちらの方が全国的には、

通りが良いかも知れません

 

その関東のワカシは、

体長20㎝までを全て含む呼び名です

一般的な成熟前の小ぶりの段階の魚を指す言葉の、

若魚(わかうお)と紛らわしいですが、

若魚と書いてワカシと読むことが多いようです

 

ところが少なくとも大阪湾周辺では、

少し昔までは、

10㎝程度までをワカウオ、20㎝程度までをワカナと、

呼分けていたようです

こちらも漢字で書くと両方とも若魚になり、

さらに面倒です

 

なお、近年は、

出世魚としてのワカウオの名は、

ほとんど呼ばれません

おそらく多様な魚を、

総菜魚として1種ごと、あるいは、

成長段階で区別し、工夫して食べる、

瀬戸内の食文化の中で発達した方言でしょうが、

最近は漁業資源保持の意識が高まり、

未成魚を漁獲,流通とも控える中、

ブリの幼魚をワカウオと呼ぶ文化は、

忘れられていったのでしょう

 

瀬戸内海では天然のワカナは、

海況にもよるけれども、あまり獲れません

一方山陰に住んでいた時代、夏になると、

天然のワカナが大量に出回っていました

天然の、というのは、

近年消費者向けの呼び名が、

大きく変わったようなのです

 

元々大阪湾周辺ではワカナが成長すると、

ツバス・ヤズ(-40㎝),ハマチ(-60㎝)と呼ばれました

しかし養殖ハマチの流通が盛んになると、

成魚ブリの前の、

80㎝以下の養殖魚は、

全国的にハマチと呼ばれるようになりました

「養殖ワカナ」「天然ハマチ」という呼び方は、

私の知る限り今は、全国的にもあまりないようです

(私の情報が古かったら申しわけないです)

 

島根の夏の時期は、

ワカナが大量に回遊してきて、

カツオのように安価で、うまみは強いながらも、

脂がしつこすぎない魚として、

好まれてきました

 

瀬戸内ではあまり店頭に並ばず、

なかなか食べられませんが、

特に夏の日本海では、

様々な方言で出回るブリ若魚こそ[魚夏]、

夏の海の幸の代表です(2020.7)