ウミヘビといえば、

多くの方々の頭に思浮かぶのは、

沖縄で高級食材として珍重されるイラブこと、

エラブウミヘビ(ウミヘビ科エラブウミヘビ属)でしょう

 

また、本州-九州の沿岸で最も有名なのは、

ダイナンウミヘビ(ウミヘビ科ダイナンウミヘビ属)でしょう

 

こう書くと、ただ分類名を列挙しただけの、

なんでもない文章のようですが、

実はどちらも危険生物であることと合わせ、

知っていていただきたい話です

 

ダイナンウミヘビは、釣り人がよくハモと間違えると、

文献や、多くのネットブログ等に出ています

ハモと同じく、1mをはるかに超えて成長しますが、

ハモ以上に細長い印象、

そして吻も細長く鋭い歯が覗く、ヌメリが強い、

尾鰭がない等から、

割合簡単に見分けられます

ハモが珍重される梅雨時-夏(旬は冬だけど)に、

バッタもんというと彼・彼女らに失礼だけれど、

ハモに似た魚、ダイナンアナゴを取上げます

 

紛らわしい名称についてですが、

エラブウミヘビは、爬虫綱トカゲ目のウミヘビ科(Hydrophiidae)、

ダイナンウミヘビは、硬骨魚綱ウナギ目アナゴ亜目の

ウミヘビ科(Ophichthidae)

ラテン語の学名では、はっきり違った名称ですが、

和名としては同じになっている、

誤解し易い名前が付けられてしまっています

 

おそらく、ウミヘビ科(ヘビ)は、

本州にはほぼおらず、

琉球弧での名はイラブですから、

ウミヘビ類(魚)をよく知らない、

動物学者の無知による命名の可能性があります

 

なおイラブの方は、コブラと近縁で、

コブラ科に含まれた時期もあったようですが、

最近は(残念ながら)ウミヘビ科(ヘビ)が優勢です

 

ウミヘビ類(魚)の方が、

少なくとも江戸時代にさかのぼれる、

より古くからの呼び名のはずです

変えるなら、ウミヘビ科(ヘビ)の方でしょう

○○イラブ、○○エラブなどの名を、

勝手に提唱したいです

カナヘビ(トカゲ科)もいますし、昔からの名の、

ウミヘビ類(魚)でも構わないでしょう

 

イラブ類は大人しい習性ながら、

多くがハブ以上の猛毒を持つと知られていますが、

ウミヘビ科(魚)は毒を持ちません

しかし、磯釣り等で掛かることもあるようですが、

ウミヘビ類(魚)の多くはかなり獰猛で、

しかも似た姿のハモ(アナゴ亜目ハモ科)のように、

鋭い歯を持つ強く大きな顎があり、

噛まれるとかなり危険な魚です

 

沖縄現地の漁師は、基本大人しいエラブウミヘビを、

よく手で掴みます

もちろん絶対噛まれてはいけないのですが、

体に鱗があり、

それほど滑りません

 

一方、

ダイナンウミヘビはじめ、ウミヘビ科(魚)は、

下手に手で持とうとすると、

ヌメリですり抜けて反撃され、

噛みつかれて大けがをする危険性があります

 

このダイナンウミヘビは、

今はそのように呼ばれていますが、

最初に和名が付けられた時は、

東京の魚類学者により、

当時日本産ウミヘビ科(魚)の唯一の種として、

単に、ウミヘビという名が付けられました

 

その後、分類の混乱のためか、

ダイナンウミヘビの名が間違って採用され、

そちらが標準和名として定められました

もしウミヘビのままなら、

もっと誤解を生じさせたかも知れません

 

ダイナンウミヘビは、実は、

アナゴに似て、結構美味だそうです

しかし、ウナギ・アナゴ類につきものの小骨が、

特に固く、そして大量に身の中に埋もれているため、

加えて強いヌメリを丁寧に取らないと、

かなり臭みが強く残ってしまい、

漁業者も釣り人も、

ほとんど食用としないのです

 

とはいえ、ハモの調理のように、

技術のある人が丁寧に処理すると、

蒲焼きでも唐揚げでも、

あるいは潮汁でも美味しいそうです

 

ダイナンウミヘビは、本州以南の底引き網で、

かなり日常的に混獲され、

そのまま捨てられるという話を聞きます

うまく技術開発すれば、

ハモやアナゴの代わりだけでなく、

絶滅危惧種のウナギの代替品として、

有用な未来があるかもしれません(2023.6)